第204話 明け方のムール川に怪異を見た!
さてー。
エクソシスト協会の協力を取り付けた次なる目的は、色彩の魔女の目撃情報を追うことだけど……。
「昨日は色々大変でしたねえ。大人の世界って本当にめんどくさい……」
ウィンディが顔をしかめている。
まだティーンだからね。
大人のこちゃこちゃと込み入った世界を知らないもんね。
「大人の世界が面倒でも、ああいうやり取りができるようにならないと。そうしないと何の仕事もやれないからねえ」
「ウエー」
舌を出してとても嫌そうな顔をしている。
大人っぽい金髪の美人さんなのだが、そういう表情をするとまだ若いなーって思うね。
さて、そんなスパイスたちは明け方に起きてきて、まだ暗い中を歩いている。
今から配信をスタートすると、日本のお昼ころだろう。
「ちょっと眠いです」
「ルームサービスで濃いコーヒー淹れてもらったんだから、カフェインパワーで頑張ろう!」
「お砂糖たくさん入れちゃって」
「あー、なんか満足しちゃって眠い? 今後のウィンディはお砂糖控えめだなあ」
「あーんそれは許してー!」
そんなやり取りをしつつ、到着したのはムール川。
グラーツの中央を滔々(とうとう)と流れる、大きくてきれいな川だ。
なんと、この水上を流れていく色彩の魔女が目撃されているのだ!
しかも、何回も流れていくらしい。
何をやっているのか。
『色彩の魔女、完全に侵食されてんじゃないんですか?』
「フロータもそう思う?」
『間違いないでしょー! あのアバズレ、調子に乗って魔法を使いまくったんじゃないですかね? 使えば使うだけ侵食されるの当たり前なんですけど! 主様みたいにメタモルフォーゼを一枚噛ませるっていうのは、実は最新の攻略法ですし』
「そうなの!?」
『主様が男性だったからこそできた裏技なんですけどねー。なぜかスノーホワイトもそれを実行しているという!』
『ほほほ! 私ってば有能だもの! 先代と違ってウィンディは才能があるから、侵食したらもったいないでしょ? なので侵食を受ける器を用意したわけ! 生身で絶対に魔法を使うなって言い聞かせてあるわ』
そうか、ウィンディはこのままの姿でも魔法を使えるが、使うほどにスノーホワイトに侵食されてしまうわけか。
道理で大人モードの時に魔法を全く使わないはずだ。
「わたしとしても、生身で魔法を使うのはなんかイメージと違いますもんね! せめてちゃんとコスプレして使いたい……」
「おおーっ、アニメの知識が彼女を助けた」
こんな風に盛り上がっているが、夜明け前は静かだ。
誰ともすれ違わない。
色彩の魔女による被害が出始めてから、みんな暗いうちの外出をしなくなってるわけだ。
闇の中では、極彩色になっていても見分けられないからね。
さーて、ムール側に掛かる橋の上へ到着。
「どうかなー? 変身しとく?」
「変身しましょ! カンザスだとあまり変身する機会がないし、外を出歩いているとすごく心配されるし」
「あー、活躍場所がない! ウィンディは絶対日本に来て配信したほうがいいって」
確か、イカルガエンターテイメントにも同じ境遇の子がいたなーなんて考える。
さてさて、橋の上で二人並んで「「メタモルフォーゼ!」」
光に包まれ、スパイスとウィンディになるのだ。
「ウワーッ魔女!」
偶然走ってきていたジョギングのおじさんがびっくりしていた。
ごめんね。
なんか全身除霊の模様がプリントされたジャージを着てる人だ。
「日本から来た魔女です!」
「わたしはアメリカから!」
「あ、最近噂になってる二人? こんな小さい子どもなのに……。いや、魔女だから見た目通りじゃないのか。もしかして川に現れる魔女を見に来たの?」
危ないから帰りなさいと言いそうなおじさんなのだ。
いい人だなあ。
「やっつけに来たんだよ!」
「な、なんだってー!! 二人とも強いの? あの流れてる魔女、私が発見して写真撮ってネットに流したんだけど」
「おじさんが第一発見者!!」
「ああ。こう見えてもエクソシスト協会のグラーツ支部理事を兼任してるからね」
偉い人だった!
なお、撮影器具はネットに流すと同時に、いろいろなカラーの絵の具が吹き出して溶けてしまったらしい。
ネット監視担当の魔女に見つかったんだな。
せっかくなので、スパイスたちはおじさんと一緒に色彩の魔女を待つことにした。
「流れていくだけで害は無いんだが、あれがいるところで声をあげると引きずり込まれるんだ」
「害あるじゃん!」
「とんでもない災害です!」
「明け方ジョギングしてるの私くらいだからなあ。対処方法知ってるし」
まあ、誰かが巻き込まれたら大変ということで、スパイスたちはここで色彩の魔女の分身をやっつけることにしたのだった。
「どんくらいで流れてくるの?」
『キリキリ情報を吐き出しなさいよ』
「うわーっ、ナチュラルに魔導書が浮いてて喋った! 君、本当に魔導書と仲良しなんだなあ。しかも異常にフレンドリーだし。グスタフくんの報告は正しかった……」
理事のおじさんいわく、日が昇る頃に流れてくるそうだ。
で、ちょうど朝日がムール側に差し込んだ時、ギラギラと川面が極彩色に輝く……。
情緒が台無しだあー!
「わたし、許せない気がしてきました!」
『一緒にぶっ飛ばすしかないわね!』
ウィンディとスノーホワイトも大盛り上がり。
『さーて、水ということは私の出番ですね……』
「マリンナ! やる気だなあ」
『色彩のやつは気に食わない魔導書ナンバーワンですからー!』
水に絵の具の色が付いちゃうのが嫌らしい。
なるほど、それで確執が……。
そんなスパイスたちの斜め後ろから、朝日が昇ってきた。
川面が陽の光に照らされてキラキラ輝くのがきれいなのに、絵の具をぶちまけた柄で台無しになっている。
これがずっと遠くまで続き……そこから何かが現れたのが見えた。
来たぞ、色彩の魔女だ!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




