第203話 配信終わりの検証だ!
色彩の魔女の分身は、また絵の具みたいなものになって滅びてしまった。
どれどれ……?
『はーん、これは薬液の類でやんすねえ。ほら、よく魔女のイメージでは、大鍋で怪しい材料をかき回してるでやんすよね? あんな感じで魔力を備えた材料を混ぜ合わせて核を作り、これが分身の依代になるでやんすよ』
「なるほどー! そういうのは自前で用意してたんだねえ。なんか化粧品みたいなにおいする」
既に配信は終わり、事後処理の段階なのだ。
ダンジョン化は解け、マンションは普通の雰囲気に戻っている。
モンスターたちも消滅して、残っているのは魔女だった残滓のみ。
これの正体について、メンタリスが教えてくれたわけ。
なお、魔導書と親しげに話しているスパイスを見て、グスタフが唸っている。
「俺は、魔導書は全て人間を騙し、堕落させるものだと思っていたのだが……。君の魔導書はまるで、人間のパートナーのように対等に振る舞っているように見えます」
「そんな感じ。一応契約はしてるけど、実はお互いに全く内容を定めてない契約だしね」
『そうでやんすねえ……。こんなゆるーい契約関係初めてでやんすよ。うちの魔導書はみんな好き勝手楽しんでるでやんすねえ。それに魔導書側からの精神汚染は、主様みたいにアバターを纏うとそっちで全部受け止めて無効化できることが判明してるでやんす』
「な、なんだってーっ!!」
驚愕するグスタフなのだった。
衝撃の事実だったみたい。
ウィンディは棒で、魔女だった絵の具をつんつんしている。
やめなさーい。
「詳しい話を本部で聞かせてもらっていいですか? いや、本部では旧派が実権を握っているから、根回ししておかないと君に悪さをするかも知れない。その辺りのカフェで……」
「おっけー!」
そういうことになった。
エクソシスト側は基本的に、魔女排斥派が多数。
これは仕方ないよね。
スパイスとウィンディ以外の目立ってる魔女は、人間に敵対してるから。
なので、スパイスと協力するってなった時、多くの排斥派が大反対したらしい。
彼らの中で一番偏見がないグスタフがやって来たのはそういうわけね。
おお、ダンジョンから出たら監視されてる感じがするぞ。
だけど、視線は敵意だけじゃなくて畏敬みたいなのを感じる。
「君たちがこれほどの短時間でダンジョンを片付けたことで、みんな驚いているんですよ。それに、君たちの戦いは配信されている。これを我々の仲間も見ていた」
「なるほど。じゃあハンマー&ネイルを見られてしまったと……」
既にオトナスパイスになっているから、落ち着いた感じで対応するのだ。
「あんな魔法は見たことがない、とエクソシスト・ザットコードで話題になっている……」
「さっき生まれた魔法だし、魔導書の全面協力とノリがあってのものだからね」
「地獄の悪魔も真っ青な所業だ、あれは悪魔の技だという声が」
「その悪魔を屏風から引っ張り出して眼の前に連れてきてくださいとお伝え下さい」
「ああ、非生産的な話でしたね。今回の件で、我々の協会で議論が行われることでしょう。まあ……日本の白魔女からの推薦もありますし、積極的に配信活動を行い、悪魔側への誘いを全く行っておらず、むしろ積極的に他の配信者に協力している姿から君への協力をすることになるのは確実と思われるが」
「それは良かった! コツコツ二人で魔女のアジトを潰して回るのも大変ですからね!」
「わたしもこっちにいられる時間は限られてますし。大学行かなくちゃ!」
うんうん。
ウィンディは将来有望な大学生だからね。
さっさと色彩の魔女を倒して、勉学に励んで欲しい。
「来年からは留学ができるから、日本に行けるかも……」
「ほんとー!? 来たほうがいいよ!」
「絶対にいきまーす!」
キャッキャッと盛り上がるスパイスとウィンディ。
グスタフがなんとも言えぬ表情をしながら、コーヒーを飲むのだった。
賑やかな女性二人の前におじさんが一人、居づらいのは分かる。
スパイスもおじさんだからね!
「いいですか?」
「どうぞどうぞ」
グスタフが新しい話を切り出してきた。
「今後についてだが、俺は君たちに全面協力することになります。ザットコードでは、保守派のエクソシストたちが君たちのアクションを見て、価値観が揺らいで大変なことになっている」
「アニメとかゲームとか通過してないと、刺激が強すぎるかも知れないねえ……。それにスパイスはまだ三つ必殺技を残している」
「なんだって!?」
魔導書四冊持ちだからね。
それに、ウィンディのカバンの中で、さっきからスノーホワイトが何かぶつぶつ言っている。
これは新必殺技を考えているな……?
「今後についてだが、エクソシスト協会が調査したグラーツ近郊のダンジョン図を提供できることと思う。協力者には他の配信者もいるが、明らかに君たち二人が最も強力だ。俺は君たちが、あの黒魔女を倒す鍵になると思っている」
やる気に満ちた目をするグスタフなのだった。
うーむ、これはつよつよ男子が好きな女性なら一発でキュンと来るような姿だ。
ザッコのアドレスを交換した後、彼と別れる。
そしてウィンディに、
「で、ウィンディ的にはどう? ちょっといいなって思う?」
「思いますねー! 魅力的な人だと思います! でも彼、ずっと亡くなった奥さんと一緒に歩むつもりでしょう? 手袋を外したら指輪していましたし」
色々と主人公っぽい人だよなあ、グスタフ!
その後、スパイスたちはグラーツのスタジアムを見に行ったり、ショッピングモールに行ったりしたのだった。
表向きはとても栄えていて、とても裏でダンジョン化が進行しているとは思えないねー。
でも、それは日本も同じか。
夕方頃に、グスタフから連絡が来た。
『エクソシスト協会は、君たちへの全面的協力を行うことを決定した。明日からまた俺が同行することになります。よろしく』
「こちらこそー」
返答を入力してと。
さて、明日からは色彩の魔女がオカルトみたいな感じで見かけられたところを当たっていくぞ。
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