第198話 事情により旅の間はメタモルしたままでお送りします
初日、ダンジョンを攻略した後で存分にグラーツ観光を楽しみ、ウィンディと一緒にホテルに向かった。
「なんでスパイスはずっとレディの姿なんデス?」
「色々事情があるでしょー。私が大人男子の姿なら確かに違和感はないけど、うちの奥さんとかね。心配させてしまうからね。あとは大人男子が幼女に変身すると色々グラーツの人たちを心配させてしまうとか」
「オー! ジャパニーズ気遣い! 初めて近くでされまシタ! 感動! オクユカシイ」
「なんだかんだでアメリカでも似た感じなんじゃないの?」
「根本の部分は変わらないカモ?」
「あとはほら、事情によりホテルの部屋が一緒でしょ」
「そうデシタ! 男女だと間違いがあってもおかしくないデスネー」
そうそう!!
なので、ずっと女性の姿でいるのだ!
メタモルフォーゼは己の肉体を完全に変えてしまう。
精神は肉体に引っ張られる……。
すなわち、この大人スパイスモードを貫けば、間違いは起こらないわけだ!
うーん、完璧な理論。
『そうでしょうかあ?』
マリンナ不穏な空気を出すのはやめろ。
ホテルが同室というのは、その方が安全だから。
女の一人旅は物理的に危ないのと、今回は色彩の魔女のホームで戦うことになる。
いつ襲撃されるか分からない。
そのためには、我々リトルウィッチ・デュオが同時に行動している方がずっと安全なのだ。
ではチェックイン!
インターネットで予約できる時代だ。
本当に楽だなあ。
通された部屋は、割と広め。
あまり広すぎると、万一色彩の魔女に侵入された時に隠れるスペースを与えてしまう……。
あくまで一部屋で、ゆったりしてる程度に留めておいた。
ウィンディが歓声をあげながら、早速部屋の中の探検を開始した。
……と思ったら、うちの魔導書もみんなウィンディについていくじゃないか!
「好奇心旺盛な魔導書めー」
間取りは事前に調べておいたけど、自分の目で見たいらしい。
魔導書の目……?
さて、屋内ではメタモルフォーゼで旅行服を脱ぎ捨て、もっと楽な格好に……。
衣類いらなかったな。
いやいや、ショウゴに戻った時を考え、持ってきて間違いはない。
荷物を改められたら、男性ものの下着とかが出てくるから怪しまれそうだけど。
「さて! ではここに取り出したります二枚の御札」
「オー! ジャパニーズアミュレットデスか!?」
「まさしくそれ。あとチャイニーズアミュレットね。これを入口と窓に貼ります……」
ペタっと入口に古き魔女の護符を貼ったら、『ムギャオーッ!!』と叫び声が響いた。
なんだなんだ!?
極彩色の平たい猫みたいなのが出現して、部屋の中を走り回り始める。
「色彩の魔女の使い魔だ! やっぱり護符を持ってきて正解だった!」
『ひえー! 私でも感知できませんでしたよ! 魔力隠蔽に特化したタイプの使い魔ですねー!』
持ってきてて良かった、護符!
使い魔は猛烈な勢いで窓から逃げようとする。
だが、あまーい!!
「フライト!」
屋内フライトで、一瞬だけ超高速になったスパイスが、使い魔を追い越す。
そして窓に仙人の護符をぺたり。
『ムギャオー!』
使い魔が跳ね返された。
空中にボイーンと弾かれたそこへ、スノーホワイトが飛来する。
「Take That, You Fiend!(これでもくらえ!)」
突進からの空中激突、ゼロ距離での突風と吹雪攻撃だ!
『ウグワーッ!!』
使い魔はバラバラになり、カラフルな紙吹雪になって飛び散ってしまった。
ははーん、絵の具でデタラメに塗りまくった紙が、使い魔の触媒になってるわけね。
多分、色の配置によって使い魔の性能が変わるんじゃないか。
色彩の魔導書、かなり極めがいがありそうだ。
「……ということで」
「フフン?」
「スパイスは実は20時間稼働なんで、時差もあるからちょっと仮眠取るね……」
ベッドに向かってバターンと倒れた!
うおー、ふかふか!
ベッドメイク完璧ー!!
お金出していい宿にしといて良かったー!
そうしてスパイスの意識は、あっという間に遠ざかっていくのだった。
夢の中で、あっ、こりゃあ夢だなと知覚する。
レム睡眠中に、魔女が他の魔女と接触するとかそういうパターンではないか。
すぐ近くにウィンディと魔導書の気配を感じる。
この人たち、地元のテレビ番組を見ながらルームサービスを頼んでるな……。
ホテル暮らしを満喫している……!
で、部屋から飛び出すスパイスの意識。
自分で貼った護符は、スパイスを味方であると認識している。
出入りは自由ってわけね。
さて、夢を通した視界で、グラーツの街を見ると……。
うおおっ、あちこちにカラフルなペンキでマーキングされてる!
魔法的なものだろうけど、魔法の視界そのもので見ると分かるわけか。
こりゃあヤバい。
グラーツという都市そのものが、色彩の魔女のテリトリーになっているのだ。
いやあ、これはさっきの使い魔逃してたら、伝言で色彩の魔女まで伝わってましたねー。
ファインプレーだったと言わざるを得ない。
うおー、あちこちに、色彩の魔女の使い魔や影みたいなのがいるなあ。
こいつらがある時カッとなってダンジョンを引き起こすんじゃないだろうか。
そう考えると、この都市には危険が潜んでいると言える。
明日からの魔女狩り、頑張りますかあ!
そしてスパイスは、90分ほどの仮眠から目覚めるのだった。
そうしたらウィンディがスパイスの上にまたがってくる!
「な、なんだーっ!? スパイス大人モード、貞操の危機~!?」
「スパイス! ディナー行きマショウ!」
夕食のお誘いなのだった。
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