第195話 オーストリアからこんちゃー!
あさイチの急行でオーストリア入りしたスパイスなのだ。
隣に据わってたおばあちゃんが「旅行を楽しんでね。Tschüß」
「ちゅーす!」
いい人だったなあ。
最近のグラーツはリアル怪奇現象が発生するとかで、それ目当てのお客さんが増えているらしい。
同時に、そういうのが怖い人は来なくなっている。
好奇心旺盛な人たちは朝駆けしないから、こうして朝の急行はまあまあ空いてるってわけだ。
さて……。
オーストリアは日本より七時間遅いから、そろそろ向こうは夕方の四時か……。
途中で停車した時に飲み物を買って、これを飲みながら時間を待つことにした。
いやあー、のどかだ。
ひたすら電車が進む。
途中でぐうぐう寝てしまった。
スリが出たらしいけど「ぶらあ! 主を守るぞお!」「う、うわーっ! 何も無いところからガキが出てきた! ギャピー!!」とか聞こえてた気がする。
『イグナイトがアバター被って変身して主様を守ったんですよ!』
『ふっふっふ、主にお披露目できなかったのはぁ、残念だったがなぁ』
「ええーっ、見たかった!」
一時間ちょっとの旅。
今回はアクシデントもなく上手く行ったみたいだ。
グラーツに降り立つと、なかなか賑やかな感じだった。
シュタイアーマルク州の州都だもんねー。
田舎じゃなく、こんな都市近辺に出没する色彩の魔女。
人恋しかったりするんだろうか。
「さて、ここでちょっと軽く配信をしておこうと思うけど」
『いいんじゃないでしょうか! 顔はベールを掛けてちょっと分かりづらくしておくほうがいいと思いますよ!』
フロータからのアドバイスだ。
「そりゃまたどうして?」
『主様の大人女子状態の顔を、色彩の魔女に知られないためですよー』
「なるほどー!」
帽子とベールをメタモルフォーゼで作り出して……。
いざ配信!
道行く人の邪魔にならないよう、カフェに入って外の席。
この季節は寒いから使う人がいない?
大丈夫大丈夫、イグナイトがいるから。
「ん俺だー!」
真っ赤な髪とエプロンドレスのスパイスが出現した。
うおーっ、これがイグナイトのアバターモード!
いるだけでポカポカ暖かくなる。
店員さんが「ウワーッ」とびっくりした後、配信者なんですよと明かすとホッとした様子だった。
明らかに、無から幼女を飛び出させるのは配信者であろうと尋常ではないのだが。
人間、自分が納得しやすい理由が提示されると飛びついちゃうもんね。
「テラスで配信してもいいですか? あまり騒がないようにしますから」
「ええ、構いませんよ。コーヒーは2人分?」
「はい、お願いします」
「ついに俺もお、コーヒーを飲むのかあ」
なんかイグナイトの声が野太い男の声じゃなくて、カワイイ女の子のものになってる。
ボイチェン入れたみたいな。
じゃあ一緒に配信するかあ。
「どうもーこんちゃー。みんなこんばんはかな? スパイスでーす」
「イグナイトだぁ!」
※『こんちゃ……!?!?!?!?』『?????』『えっ、顔にベールをしたお姉さんがスパイスちゃんで、スパイスちゃんがイグナイト!?』『どゆことー!?』
「話せば長いことながら、今グラーツに到着したんだよね。今朝家を出てから12時間くらいで到着。フライト便利だね。それで、やっぱり海外で小さい女の子一人だと危ないじゃない? だからスパイスはこうしてメタモルフォーゼの重ねがけで大人の女性になっています。設定年齢にアラサーくらい。どうかな?」
※『吐息が!』『色っぽ』『新たな性癖を開拓されてしまう!』ランプ『いいんじゃないでしょうか』『いいと思う』『冷静になった勢もいるぞ!』
「ん俺があ! 魔導書たちがあ! 主様成分を補充してやるからなあ!」
イグナイトがピコピコ動いた。
※『ああ~溢れ出る親子感』『大人スパイスちゃんとちびっこ魔導書!』『かわいいんじゃ~』『イグナイト、いつものおじさんボイスじゃないからな』
そうだねえー。
ボイチェン掛かってるねー。
だとすると、男声のもう一冊、メンタリスもボイチェン掛かるんだろうなあ。
これも楽しみではある。
「今日はこれから予約してたホテルに行くんだけど、実はこっちは日本と七時間時差があるからね。ホテル前にあちこち観光して色彩の魔女の情報を集めて行きまーす。多分途中でウィンディとも合流するんじゃないかな? ライブ中継するけど、遅い時間まで掛かると思うから無理しないで見てね」
※『オ、オトナのスパイスちゃん……』『ドキドキする……』『基本的にカワイイ声質なのに、落ち着いただけでこんな色気が……』『なんかスラッとしてるし』『ウィンディ出るってマ!?』『ダブル魔法少女だ!』
「スパイスが成長したらこんな感じかな? っていうイメージで作ってみました。ベールしてあるのは、顔を知られないためね」
※『なるほどー』『お顔成分は魔導書たちが担当を』『っていうか魔導書がアバター被ってスパイスちゃんになってるの凄い』『もしかして他の魔導書も?』
「もちろん。マリンナはスク水だからアウトだけど、フロータとメンタリスはすぐにでも出てこれるでしょ?」
『一緒だとインパクトが薄れますからね!』
『うむ。あっしらは最大限の衝撃を与えられるタイミングを伺うでやんすよー!』
おお、やる気だ!
魔導書がリスナー受けを意識している!
ということで始まった、グラーツ滞在の日々。
コーヒーを飲み終わったら散策……というか探索開始なのだ!
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