第188話 古き魔女に相談だ
「ってことで色彩の魔女とネットで遭遇したんだよね。不気味だったー」
『無茶をしましたね……! ですが、彼女から初見で逃げ切ったのは素晴らしいです。彼女はもともと、外法と呼ばれる悪魔系統の魔法の使い手でしたが、色彩の魔導書を手に入れてから毛色が変わったようなのです』
古き魔女と、なんとVR空間で会合なのだ!
電話やLUINEは色彩の魔女に盗聴される危険があるので、彼女が感知できない所ということで。
VR空間の古き魔女は、落ち着いたおばあちゃん風アバター。
イメージまんまだ。
「毛色が変わったって? どういうことですか?」
『おかしくなったのです』
「あっ、今までの魔女でありがちだったパターン!」
『そもそも、あなたが所有している魔導書たちは原初の魔導書。異界の魔法を最も色濃く刻まれた異質な存在なのです。本来、人間が近くに置いていて良いものではありません。あなたのお祖母様……新しき魔女も、普段は七冊を書架に置き、必要なときだけ接触していました。あなたも同じようにしているのでしょう。今のところ、侵食されている気配がありませんから』
「スパイスはみんな自由に過ごしてもらってるなー。今はマリンナだけついてきて、残りの三冊は家でパーティーゲームしてるよ」
古き魔女が絶句した。
『はーいー、呼ばれて飛び出てマリンナでーす。主様はですね、自ら異界の姿に変わるフォームを駆使することで侵食をそっちで完全に受け止めきっています。これ、変身ヒロインものからのアイデアだったんですね。人間の発想はすごいですねー』
「そうそう。なのでマリンナと一緒にいて一番力を使いやすいのはこっち! メタモルフォーゼ!」
ドロンと変身、アクアスパイスなのだ。
早くこの旧スク水でも自然な夏が来て欲しい~。
『なるほど……。魔法を使うための姿を用意する。その発想はありませんでした。かつて邪悪な魔女は、代償を他人に肩代わりさせて魔法を使ったものです。あなたはそれを、代償に対して親和性の高い姿を用意することで緩和しているのですね』
緩和と申しましょうか、無効化と申しましょうか。
「そんな感じです! じゃあ色彩の魔女は、まんま自分で魔導書を受け止めちゃった的な?」
『彼女たちは魔女としても歴が長い存在ですからね。自信があったのでしょう。だからこそ、魔導書の侵食を受けて変質してしまったのです』
ある意味色彩の魔女は犠牲者なのかも知れない。
まあ、ぶっ倒すけどね!
対話不可能になった以上、オーストリアまで出かけていってぶっ飛ばす。
この方向で行こう。
力の魔女については、世界中の情報を集めないといけないかも知れないなあ。
みそっかすを抜くと最後の相手だから、ここはしっかり手間ひまをかけて追い詰めよう。
「とりあえず来月オーストリア行って対決してきますー」
『頑張ってください。後で郵送で護符を送っておきますね』
「うち置き配大丈夫なんでそれでよろしくお願いします」
そういう事になった。
持つべきものは大先輩。
古き魔女だなー。
まさかVRグラス持ってるとは思わなかったけど。
魔女は新しい文化にも触れていかないとね。
色彩の魔女がVRできないのは、まさにインターネットまでしか分からないかららしい。
そこから先に進んだVRは彼女の認識の範疇外ということで。
「いやー、でもスパイスはメタモルフォーゼがあってよかったなー。お陰で魔女たちみたいにへんてこにならずに済んでる!」
『主様はもともと、魔導書の魔法が使えない男性ですからねえ。男性の場合は才能があると、魔法使いになるんですよ。魔導書が使えないぶん、理詰めのカチッとした魔法を使うことになりますね。例えばこの間見た、もみじさんの配信でリスナーにマーリンいたじゃないですか』
「ふんふん……えっ!? あのマーリン!? いたの!?」
『彼女の現代魔法の系統、多分マーリンが直接作った現代魔法セットみたいなものですよ。私不思議に思って彼女のアーカイブ色々見てたんです。配信ごとに現代魔法の組み合わせみたいなのを教えてあげてて、もみじさんも才能があったのでみるみる吸収していますね。彼女、私達と出会ってたら魔女になってましたよ』
「才能ありかー! そういう人がゴロゴロしてるんだねえ」
アクアスパイスを見かけて、寄って来る人たちのお相手をしつつ。
古き魔女と別れたスパイスはVR空間をぶらぶらするのだ。
『なので、本来主様は魔法使いになる才能があったんです。そこにメタモルフォーゼを一枚噛ませて魔導書ともマッチングしたので、魔法使いと魔女の才能に魔導書のブーストが掛かったわけですね。これは強い。本来の姿では魔導書を使えないからメタモルフォーゼ。だから本人には絶対に侵食が来ないわけです。メタモルフォーゼ側の侵食で幼女の自認が入り込んできますけど』
「最後のはなんか実感してる。元の姿でも可愛い仕草に抵抗がなくなったもんな……」
そう言えば……。
イラちゃんの枠でやる最後のコラボ、これは多分VR来るな。
イラちゃんと言えばVRだもんなー。
楽しみといえば楽しみ。
VR初心者であるもみじちゃんをいかに引き込むか。
これも経験者としての腕が問われる。
『主様、私、少し遊んでいっていいですか?』
「いいよー。スパイスは戻ってるからねー」
『わーい、ありがとうございます。では行ってきますね』
ふわふわと青い魔導書が飛んでいったかと思ったら、アクアスパイスの色違いな姿に変身した。
髪の色が群青色で、スク水がグリーンだ!
う、うわーっ!
マリンナが人間型アバター持ってる!!
『むっふっふ、実は密かに作り上げていたのです。私達魔導書は、みんな主様の変身フォームを基準にした姿になりますよ。その予定です』
「予定ってことは……作ってる?」
『私とフロータで今ガンガン作ってます』
魔導書たち、すっかり現代文明に適応して精力的に活動してるなあ。
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