第187話 色彩の魔女
今月は休息と同時に、残る二人の魔女の情報を集める予定だったのだが……。
すっかりもみじスパイラルコラボで時間を使ってしまったな。
実に有用な時間だった。
もみじスパイラルの第二弾である、パン作りから食べてみるまでの動画。
大変受けた。
プレミアム公開して、リスナーと一緒にリアルタイムで楽しんだのだ。
スパイスやもみじちゃんがコメントすると、みんなワーッと盛り上がった。
今から第三段が楽しみ……。
おっと!
情報収集を完全に忘れていた。
「本日はネットサーフィンして情報を集めます」
『まあオフと言っていいですねー! 時に主様、次世代作りは順調ですか?』
「おっ、直球で聞いてきたなフロータ。そろそろイケてそうな予感がする」
『魔女の予感ですねー! ということは確実ですね!』
『ん次は男だろうかぁ、女だろうかぁ!』
『あっし最近気付いたでやんすが、男の方がワンクッション挟ませる関係で魔女としてやりやすくもなるでやんすよ』
『ああ、そう言えば……代々の海の魔女、男性の方のほうが正気を保っていましたねえ。海の魔法は海と月に関係するので、女性は引っ張られすぎてしまうと言うか』
「新情報だなあ!」
それじゃあ景気づけに、アクアスパイスの姿でネットサーフィンしようかという話になった。
『主様、私、ネットの海を泳げるようになったって言ったじゃないですか』
「ニュアンス的にはそういうこと言ってたね!」
『直接インターネットにダイブして情報を探しましょう~!』
そういう事になった。
なお、部屋の方はイグナイトが駐留して暖めてくれている。
冬には一冊、ぜひとも欲しい魔導書だねー。
「おっしゃ! ネットダイブって名前の魔法? 新魔法じゃん。我向かうネットの海! いざ泳いで情報探し! ネットダイブ!」
適当な呪文を詠唱したら、十分に条件を満たしたらしい。
スパイスの体が光ったかと思うと……。
ビュンっとPCの中に飛び込んでしまう。
「VRと全然違うんだねこれー!」
『直接飛び込みますからねえ。だからVRに干渉しても、実体がないので向こうからは視認できないゴーストみたいな存在です』
「ほえー! 情報そのものになっちゃう魔法なんだ!」
『なお、主様を全て情報化して送り込むととんでもない密度になるので、意識の一部を切り離していますよ。メンタリスの力を借りています』
「あっ、合同魔法だった!!」
これは歴史的に貴重な瞬間なのではないでしょうか。
まあつまり、スパイスの肉体と意識の半分は現実世界で、イグナイトでぬくぬくしているわけだ。
ちょっとうらやましいな!
「さて、どうやって検索するかだけど……。ここはマリンナが詳しいでしょ」
『もちろんです。先代が他の魔女たちに会ってますからね。色彩の魔女は今はオーストリアにいます。えーと、力の魔女はあちこち放浪しているんですけど』
「所在がはっきりしてるのは色彩の魔女かあ。じゃあ情報集めてみよう!」
『気を付けて下さいね! 色彩の魔女はネットサーフィンからでもこっちの存在を感知してきますから!』
「なにそれ怖い。っていうかそんな事できるの、今までの魔女の中だとかなり格上なんじゃないの?」
『フロータが言ってませんでしたっけー? 色彩と力は別格ですよー。魔法は抽象的な概念を扱うものほど高等なんですー』
「ひえ~」
気を付けて検索しよう。
どれどれ、まずは……。
オーストリア 魔女 目撃情報……。
『主様直接的~!』
「分かりやすくていいじゃーん!」
探ってみたら、そういう情報は出てきませんでした!
これは念入りに情報を消している予感がするぞー。
じゃあ探し方を変えてみよう。
「色彩の魔女の見た目は?」
『彼女、会う度に姿形も声も全く違うんですよねえ。先々代様をみんなで攻撃した時は一定の姿だったのに』
「なるほど色彩の魔女~! じゃあ、不思議なことをする人の情報を探してみよう」
これはオーストリアの情報でバンバン出てきた。
ネットの海の中で、情報源まで到着。
そこから幾つもの紐づいてる情報を引き寄せて……。
「お婆さんが小鳥を集めてパンに変えてた? 森でバイオリンを奏でてる女の子がいたと思ったら、ふらふら近づいていった大人が怪物に変わった? 川の上をソファに座りながら浮かんでいく女の人の姿が目撃されたりしてる。これ全部色彩の魔女だな。自由な活動してんねー」
『彼女の行動原理はカオスですからねー。色彩の魔導書に侵食される前から、ちょっとおかしくなっていたようです。意思の疎通に苦労したようですし』
「なーるほど。思うままに行動してるわけね。じゃあオーストリア行ったら割と会えそうだねえ。目撃地点をまとめていくと……この辺りに多く出没するか。シュタイアーマルクの州都、グラーツ近郊ね。知らない単語だらけだあ」
情報の絞り込みをしていたら、遠くの方から何かやって来た。
何かやって来た?
ここは情報を擬似的に視覚化しただけの、ネットの空間なのに?
それは0.1秒ごとに、老婆、若い女性、中年女性、幼女、少女を点滅しながら変わっていく人影だ。
『あっ、見つかりました。攻撃してきますよー!』
「やばいやばい! ホラーじゃんこいつ!」
情報が黄色く染まって、スパイスめがけてぐんぐん伸びる。
「うおー! 情報の海のタイダルウェイブ!」
スパイスが短縮詠唱したら、ゼロと1が波のように押し寄せて、黄色い色彩を押し流した。
『ニgaさ無』
「こわいこわいこわい! 不協和音で喋ってる!」
既にスパイスは脱出モード!
いやあ、色彩の魔女、今までやり合ってきたあらゆる相手の中で一番得体が知れないぞ!
これ、話し合い無理でしょ。
でもまあ、最後まで話し合いの努力は諦めないのが、現代社会の人間というものでして!
赤、青、緑。
次々に追撃してくる色の攻撃を回避しながら、スパイスはVR空間にスポーンと飛び出た。
現実世界でVRゴーグルを被せてくれたらしく、こっちで実体を結ぶ。
こうなると、魔女はこちらが感知できなくなるようだ。
『彼女、VR環境には通じてないですからねー』
「なんてチグハグな!」
『さっきの、電話回線に仕掛けてあったトラップみたいなものですし』
「ほえー、恐ろしい!」
てなことで、色彩の魔女の情報を集めた!
オーストリア行き、準備していかなくちゃね!
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