第174話 集大成は空を飛ぶ
アクアスパイスからもとのスパイスに戻って……。
異世界に降り立って、慣れた地面の上でトントン跳ねる。
ウンウン、この土の感触、すっかり馴染んでしまった。
元の世界だと地面がコンクリやアスファルトだからねー。
「やっぱ異世界はいいねー。しょっちゅう来ちゃう。便利だし」
※マルチョウ『スパイス、世界で一番異世界と行き来している配信者ってまとめ動画で挙げられてた』
「えーっ!? ほんとにーっ!?」
いつの間にか不思議な称号がついてしまっていた!
そのうちギネスブックに載ってしまうのではないか。
まあ、自宅に異世界への出入り口があるから、日帰り感覚でガンガン行けるもんね。
「よっしゃ、ほんじゃあ飛んでみよう! SSR魔法のフライト行くぞー!!」
※『急にカードゲームみたいになってて草なんだ』『飛べーっ、スパイスちゃん!』『今の基本フォームってフロータだから、エアースパイスとかそういうフォーム名なのでは?』
「おっ、今いい事言った人いた! それ採用! フライトー!」
※『コメントを拾いながら流れるように魔法を!!』『よそ見飛行は危ないわよーw!』
ちゃんと気をつけてるよ!
ってことで、スパイスの体が低空飛行を始めた。
滑走路に見立てた道をゆっくり飛び始めたと思ったら、ぐんぐん高度を上げながら加速していく。
そして、向かいの家にぶつかりそう! という辺りで、グーンと飛び上がった。
おおーっ、こ、これはーっ!!
「うわはー! 変な感覚ーっ!! なんかね、レビテーションの延長ですごい速度で飛んでるみたいな!」
『そりゃあ私の魔法は重力やらなんやらを断ち切ることですからねー! 今の状況、主様は重力とか斥力とかから切り離されて、自由自在に飛べるようになってますよ!』
「ほんとにぃー!? ではでは、超加速!」
加速と意識したら、物凄く早くなった。
無音のまま、周りの風景が猛烈な勢いで流れていく。
「うーわー! 速い!! Gとか風の抵抗とか全然ないのに!!」
『そういうとのも切り離されてますからねー。こう、フライトの力場みたいなので主様を包みこんであるので、あらゆる外的抵抗を跳ね除けますね。空中戦もかなり強いですよ。体当たりで小型の飛行機くらいは落とせます!』
「つえー!! フライトが上位魔法なわけだ!」
※『想像以上にとんでもない魔法だったぞフライト!』マルチョウ『星が発する重力や風の抵抗から切り離して、自在に加速して飛び回る……。飛行魔法としては最高レベルじゃないか?』特上ロース『その魔法使えたら、旅行とか楽そう!!』
『なお、モンスター相手だと普通に力場を破られる可能性があるので、風の大魔将がいた今までは使うのが危険だったわけですねー』
「ほーん、そうだったんだー。おりゃ、急ターン!!」
スパイスが旋回を意識したら、ヘアピン状の角度でカクッとカーブした!
すげー!!
全くGがなかった!
もうね、これは飛行機の機動じゃないよ。
※『UFOみたいな動きしてる!』
「そう、それ!! フライトはUFOだ!!」
※『配信見てると酔う~!!』『風景がぐるんぐるん回ってるw』
「あっ、ごめんね! 画面の中心に点を打っておくからそこ見てて!」
フロッピーが、画面中央にドットを打ってくれた。
白い点がポツンと常に画面にある感じで、こうすると酔いにくくなるらしいんだよね。
チタン製の三半規管を持つスパイスには酔いが分からぬ!
スパイスが自由自在に空を飛び回っていると、空のモンスターが寄ってきた。
プテラノドンみたいなやつだ!
なんか目を丸くして、遠巻きに眺めている。
「襲ってこないね」
『フライトの動きは傍から見ると凄いですからね! 見とれてるんでしょうね!』
※『ドン引きしているのではw』『あー、真似しようとして落っこちていく』『プテラノドン~w!!』
UFOムーブは確かに難しいかも?
こうしてスパイスの、フライト実験は終わった。
なお、プテラノドンは引っ張り上げて助けてあげたよ。
この魔法の弱点は、現実世界で使用した場合にフライトレーダーで感知されることなのだ。
明らかに未確認飛行物体の動きをするので、目立ちまくる!
『ちなみに速度に上限はありませんけど、加速しすぎると星の外に出るので注意してくださいね。強力すぎるので自滅の危険性があります!』
「うーわー! なるほど、フロータがなかなか使わせてくれなかったはずだ!!」
でも、フライトがあることで、個人の移動ならあらゆる交通手段を過去のものに出来てしまうな……。
便利になったぞー。
「では本日のフライト配信は終わり! いやあ、一ヶ月間の修行でここまで来たねー。劇的成長だよ!」
※『新しい魔女との交流とか、再生魔女バトル挟んでおいて修行で片付けるとはw』『恐ろしく長い一ヶ月間だった……w』
ほんとにね!
毎日変わったことが起き続けてるから、目が回りそうではあるのだ!
二月に突入したことだし、ここ数日はのんびりしてもいいかもなあ……。
こうしてスパイスはもとの異世界廃墟に降り立ち、我が家に戻るのだった。
配信も終わり!
シノはスパイスの配信部屋で実況を見てたみたい。
すぐに感想を伝えてくれた。
「見てましたよー。スパイスさん、えらい能力を身に着けはったやないですか」
「でしょー。一人専用だけど、だからこそ使える場面ではとんでもないことになるよねえ」
「うちも狐になったら連れてってもらえます?」
『主様がリュックサックを背負って、その中に入るならいけますねー! あんまりはみ出るとちょん切れますけど』
「ひぃー」
フロータが怖いことを言うので、シノが震え上がるのだった。
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