第170話 結果的に3対1だぞ
『うおー! タイダルウェイブ発動ですよー!!』
マリンナの咆哮とともに、盛り上がった海水がどこからか押し寄せてくる。
これが、スペースフレイヤとガードマスクをまとめて流す。
「うわー」
「ガードマスク~! まあこうなると思ってた。浮かび上がれエアガン! あとナックル! 主を連れて空にプカっと! フロート!!」
ふわ~っと水上に浮かぶガードマスクなのだ。
「水の勢いとは恐ろしいものだ……」
冷やされてちょっと冷静になったガードマスクなのだった。
スペースフレイヤはと言うと、水を蒸発させながらギャオオオオンと大暴れしている。
うおーっ、凄い水蒸気!!
※マルチョウ『だが確かに熱は下がっているはずだ! 炎が小さくなってる!』『マリンナが炎の魔女メタだったかー』『そりゃあ水だもんな』『水蒸気爆発が起こるかと思った』『魔法の場合は原理が色々違うんじゃね?』
「連携しマスよー! 踊る氷の精霊、水面に浮かべる風の船、集めて太らせこんなに立派な……アイスバーグ!」
いきなり水面から、ドカンと氷山が突き立った!
うおーっ、ウィンディの魔法が派手だぞ!
氷山とぶつかり合うスペースフレイヤ!
『グオオオオオ!! グオオオオオオオ!!』
※『冷えてる冷えてる!』『徹底的に冷やす作戦だ!』
「ワタシのアイスバーグ、水辺でしか使えマセンし、海じゃないとマックスパワー発揮しまセンからねー。最高のシチュエーションデシタ!」
でっかい氷山を作ったことに満足げなウィンディ。
魔法はそれぞれ、最大の効果を出すための必要条件があるからねー。
フレイヤもガンガン燃え上がり、水を蒸発させ、氷をガンガンに融かしたりしているのだが!
まあこっちは物量だけは多い魔法ですからね。
規模感から言って分が悪いよね。
「おっしゃ、行くぞガードマスクー!」
「おう!!」
「ワタシもゴーデス!」
ウィンディが作った流氷の上に乗っかり、三人でフレイヤに突撃だ!
「スパイスガン! うおー、ドランクとかショックを詰め込んで連射だ連射! レジストするにしてもこっちに意識割かれて水へのレジスト弱くなるだろ!」
「イエーイ! 寒い風を叩き込みマース! ブラストウインド! ブラストウインド! ブラストウインド!」
寒くすることに掛けては、スパイスとウィンディは最強のタッグかも知れない。
フレイヤの炎が明らかにどんどん弱くなっていく。
『ガッ、アアアアアアッ……!! スパイスゥゥゥゥゥッ!!』
「人間の形を失ってまで、スパイスに執着してくれるのは配信者冥利に尽きるんだけどー。迷惑なファンはノーサンキューでーす!」
「イエース、ノーセンキュー! HAHAHAHAHA!」
※『幼女二人が並んでハイテンションで笑ってる!』『和洋のエプロンドレスのロリですなあ』『あーっいけません、カワイイが過ぎます』『こんなベストマッチなのにさっきまで戦ってたってマ?』
マジです!
そして密着する距離まで接近すると、ガードマスクが流氷の上をダッシュしながら拳を振り上げた。
「うおおおおお!! この街は!! お前の!! 好きにはさせん!! みんなの暮らしを!! 俺が守る!!」
おおーっ、拳がギラギラに光り輝く!!
それがフレイヤにボコボコボコボコ叩き込まれる!
一発一発が、ダンプカーの突進みたいな威力を持ったパンチだ。
『ガアアアアアアアアア!!』
「おっしゃ、とどめいくぞー!! スパイスはこの一撃でぶっ倒れるからよろしくー!」
「オー、ライバルの前でディフェンスレスになっていいんデスかー? でも、今日は攻撃シマセンけど!」
頼むぞウィンディ~!
この娘、潜在的には味方じゃないからな!
ライバルキャラだからな!
「回れ回れ螺旋! 吸い込め、飲み込め! 今回は放逐するんじゃないぞ! 渦の中で捻り潰す! 終わりだフレイヤ! スパイラル! プラス……ボルテックス!!」
『はあー! マリンナとの共同作戦は気に入りませんが、絶対つよいに決まってる魔法ですから仕方ないですねー!』
『ええー、それはこっちのセリフなんですけどぉー! でもでも、ウキウキする魔法、いいと思いま~す』
フロータとマリンナがキラキラ輝き、それに呼応して水面がすっごい速度で渦巻き出した。
流氷も吸い込まれそうなものなんだけど、そこを遮断する意味もスパイラルにはあるわけね。
つまり、スパイスたちがいる側と渦巻きと、飲み込む渦巻きが逆方向に回転してるのだ!
『ウガアアアアア!! ガアオオオオオ!!』
のたうち回りながら、スペースフレイヤが飲み込まれていく!
物量の勝利だなこれは。
火の大魔将の力を受けて、ブーストされたけど理性を失って炎を発して暴れるだけになったフレイヤ。
大渦潮から脱出するにも、本能のままに暴れるしかできないから逃げられない。
どんどん飲み込まれていき、渦の中に消えてしまった。
最後に『ウグワーッ!!』と叫びが聞こえて、水面がもりもりっと盛り上がる。
ドバーンと爆発した!
「きゃー」
ウィンディがもろに吹き上がった塩水を被ってすっ転ぶ。
※『うおおおお』『ウィンディちゃん転ぶ姿もカワイイ!』『スパイスちゃんのライバルだと分かってはいてもファンになってしまうな』『カワイイは正義過ぎる』
「お前らー、お肉どもが裏切るんじゃなーい……あー、限界です。電源おちまーす」
スパイスはそこで、魔力切れでバターンとぶっ倒れたのだった。
すぐにガードマスクがスポドリを飲ませてくれたので目が覚める。
「大丈夫ですかスパイスさん! やはり奥義を使うと、代償も大きいものなんですね……」
「概ね合ってる。体力つけないとなあ!」
既にダンジョン化は解けつつある。
元デパートの瓦礫ダンジョンは、アトラクションや昔の店員さんみたいなモンスターがこちらをじーっと見ているだけ。
いや、なんか笑顔で手を振ってるような。
そしてスーッと消えていった。
後は、本当に解体工事中の瓦礫の山だ。
「このダンジョン、数日前にいきなり現れたらしいんだよねえ。もしかして……スパイスたちに戦場を提供して、街を傷つけないようにしてくれたとか? まっさかー」
ダンジョンにそんな意志があるなんて聞いたことがない。
ここで、ウィンディがサッとスパイスに背中を向けた。
「ふふふ、スパイス! 今回の勝負は預けておきまショウ!」
「割とスパイスの勝ちだった感じしない?」
「預けておきまショウ!!」
「あ、うん」
「あなたを倒すのはワタシデース! それまでやられないことデスねー! はー、これでオールド・レディのミッションは達成デショウ。戦いマシタからネー」
ぶつぶつ言いながら、ふわりと飛び上がるウィンディ。
そのまま去っていってしまった……ように見せかけて、駅の辺りに向かったのを確認したぞ!
「それじゃあみんな、これで配信は終わり! 見てくれてありがとー!! おつスパ~!」
※『おつスパ!』『対フレイヤ戦、もはやアーカイブも残っていない因縁の戦いの再戦だった』『実はチャラウェイのところにアーカイブあるぜ』『マ!? 確認して余韻に浸ろう』
そっか、チャラちゃんの方にスパイスの、消えた記録の一部があったか!
……てなことで、フレイヤを倒したし、スパイスの実力も相当アップしたのだった。
課題は体力面に絞られてきましたねえ……。
パン屋までガードマスクを送り届け、パンを買う。
そして駅前で変身を解いたウィンディと合流。
スパイスはまだ変身したままの姿なので、年上の外人お姉さんと幼女みたいな見た目に……。
「なんで変身を解かないのデスか?」
「ガードマスクの実家だと、スパイスの姿でしか訪れたことないからさ! あと、ガードマスクはスパイスの元の姿を知らない……」
「オー!! そういう関係性大好きデース!」
ウィンディに大喜びされてしまうのだった。
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