第165話 某有名漫画家記念館と風と氷の魔女
マシロと別れ、魔女を案内したのはこの街にある、某有名漫画家記念館である。
なんと隣が喫茶スペースになっている。
「ジャパニーズカルチャー! マンガ、ワタシも好きデス」
もう既に記念館の方が気になって仕方がない魔女!
なんだこいつ!?
よく考えたら、今までで一番フラットに対応した魔女だよな。
炎の魔女は最初から敵対的、精神の魔女も最初から病んでて攻撃を仕掛けてきて、海の魔女だって問答無用の攻撃を仕掛けてきた。
俺の所在地を突き止めて、自ら電車でやって来たのは風と氷の魔女が初めてだ。
「ではテミジカに……。あなた、スパイス……彼女のこと知ってマスね? 関係者でショウ?」
「ここで隠すのはためにはならないか。いかにも。俺は彼女の関係者だ」
「ヤッパリ。ダンジョンハザード配信を見て、場所を検索したらここが出てキマシタ。イギリスで風のグレーターデーモンがパニッシュされたでショウ? ベストタイミングでした」
「なるほど……。で、風と氷の魔女さん」
「!? どうして私の正体が分かりマシタか!?」
分かるでしょそれは!
普通に狼狽している魔女なのだ。
こいつ……ちょっと間が抜けているのではないか?
「ウーン、グランマのマドウショを遺産相続してから、ウィッチっぽくなるように頑張ってきたのデスガ」
「今なんつった!?」
グランマから魔導書を遺産相続!?
つまり、この風と氷の魔女、二代目……!?
そこに、注文していたケーキセットが来た。
某漫画家のマンガキャラのコースターが付いてくる。
「オー! これ知ってマス! アニメでリメイクされマシタよね、ワタシ大好きデス!」
ニコニコしながらカバンに仕舞う魔女なのだった。
その後、コーヒーにたっぷりミルクと砂糖を入れて、ごくごく飲んでいる。
「ケーキはもっと、シュガーがジャリジャリしてるのが好きデスねー」
「向こうのケーキはそんな感じっぽいよねえ」
「そこで、アナタ」
「あっはい」
「マンガ、見てきていいデスカ」
そわそわしてる!!
どうやらクリティカルな場所に連れてきてしまったようだ。
俺は彼女を伴って、隣の某漫画家記念館に入った。
某漫画家の使っていた道具に、マンガ原稿。
連載時の逸話がパネル形式で展示されていたりして、なかなか見応えがある。
ちゃんと英語と中国語での説明も併記されていて親切だ。
「ワタシ、日本文化を専攻してるんで読めるんデスけどねー」
「えっ、大学生!?」
「イエース! もうすぐトゥウェンティ!」
「19歳だーっ」
衝撃を受ける俺。
若すぎるだろ!
っていうか、彼女は祖母を襲った魔女と完全に別人なことが確定した。
恐らく、彼女に魔導書を授けた魔女が仇だったのである。
で、何かがあって魔導書を手放さねばならなくなった魔女は、どうなっているんだ?
「なあ、君のおばあさんはどうしたんだ?」
「オー」
なんか肩をすくめた。
「グランマ、カリフォルニアの大罪と戦って負けマシタ! それで遺産でワタシがマドウショをもらったデスねー」
授かったわけですらない!
どうも、細かい話を聞いていくと、先代風と氷の魔女は一族の中でも嫌われ者だったらしい。
嫌われ者だったから魔法に傾倒したのか、それとも逆か。
彼女はよく知らないのだそうだ。
ということで、ここで名乗ることにした。
「敵対しなさそうだから名乗っておくけど、俺がスパイスね」
「!?」
目を見開く彼女。
しげしげと、俺の頭から爪先まで見ている。
俺は周囲に人がいないことを確認すると、ポケットからフロッピーを取り出した。
「メタモルフォーゼ・スパイス」
白黒の螺旋に包まれて、俺の姿がスパイスに……変わったよー!
「ウワーッ! スパイス! キューティーガール、スパイス!」
なんか感激してるんだけど!
「オーケー、ワタシ、アナタをスパイスって呼びマス。じゃあワタシも見せマスね! メタモルフォーゼ・ウィンディ!」
眼の前で、彼女が変身した。
変身した!?
魔女が変貌するのとは全然違うぞ。
スパイスと同系統のやつだ。
不思議の国のアリスが着てるみたいな、グリーン地のアリスドレス!
もちろん、白いところは白。
頭にはダークブルーのリボンが似合う。
ブロンドに入った緑のメッシュが大いに増した、スパイスの見た目と同い年くらいの女の子がそこにはいた。
「ワタシ、スパイスに宣戦布告に来まシタ!」
「そっちは変わらないんだ!」
「そうデス! 特に戦う理由はないんデスけど、グランマの願いを果たせってうるさいオールド・レディがデスね。だからこっちに来て、戦いマス!」
「あー、義務バトル! っていうか、なんかついに敵の魔女っ娘が現れた! って感じで、スパイス的にはなかなか興奮するなあ」
「アリマスネー! 同じパワーを持ったヴィランとのバトル! ……オウ、もしかしてワタシがヴィラン? ノ~」
頭を抱えている。
かわいい。
「じゃあ義理を果たしてもらうために、スパイスと後で勝負しよっか。今はねー、もっとヤバいのが来そうだから、あんまスパイスたちで争ってても良くないんだよね」
「ワッツ? ヤバい?」
「倒したはずの炎の魔女が、宇宙から戻ってきそう」
「オー!」
オーバーアクションで驚くウィンディ。
ここに来て、静かだった風と氷の魔導書がニュッと出てきた。
『あの女、あなたが宇宙に飛ばしたと思ったんだけど? まだ生きてたわけ? 詰めが甘いわねー!!』
「新しい魔導書だ!!」
『あたしはウィンディの保護者、風と氷のスノーホワイトよ。そっちにはフロータとイグナイトとメンタリスとマリンナがいるようだけど、負けないわよ! 最も汎用性に長けた魔導書が誰なのか、分からせてやるんだから! あと、せっかくカンザスからはるばる来たんだから、観光しまくって元を取るわよウィンディ!!』
「いえー!」
「やる気満々だー!」
『新しいタイプの魔導書ですね、マスター』
フロッピーもニュッと顔を出した。
『あら、そっちには生まれたての魔導書がいるのね? どう? うち来ない?』
『遠慮しておきます』
『慎ましいわねー』
ということで。
スパイスとウィンディで、決戦の日を決めることになったのだった。
明日ね!
なお、二人で記念館を出ていったら、成人二人が入室したのに出てきたのが幼女二人ということで、係員さんが大混乱していたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




