第162話 小規模配信者を戦力にするぞ
二対一はやっぱきついよなーと思うスパイスなのだった。
イラちゃんに触発されて、スパイスの姿で普通の服っぽいのを作り出し、着込んで歩き回る午後のこと。
ショウゴの姿だと目立たないんだけど、スパイスだとまあまあ目立つんだよね。
カワイイから!
だけど、この状態じゃないと浮かんでこないアイデアとかがある……!!
地元の商店を回ったりしつつ、うーんと考える。
「あっ、スパイスさん!!」
「おやー、その声は!」
地元のパン屋さんで、カウンターに立ってたずんぐりした男の人がなんか笑顔でこっちを見てる。
もしかして……。
「ガードマスク?」
「はい!」
意外!!
ガードマスク、パン屋さんだった!!
毎日朝早く起きてパンを焼き、夕方過ぎには店を閉めるから、そこから夕食を食べて街をパトロールするらしい。
地元密着型配信者だなー。
「ガードマスク、最近どう?」
「実はですね、俺、スポンサーがついたんですよ」
「スポンサーが!? すげー」
「とは言っても、サバンナの欲しいものリスト作れって新しいリスナーの人に言われて」
ふんふん。
サバンナってのは世界的に有名な通販サイトだね。
日本にもあのダンジョン禍の中、根性で上陸してきて販売網を拡大。
大きな勢力になっているのだ。
ちなみに大雑把に発注してて、注文が多すぎると商品が届かなかったりするのは、サバンナの英字の逆読みでハンナバスと呼ばれてる。
「作り方が分からなかったんで、妹に聞いて翌日作ったんですよ。そしたら欲しいものリストに、Aフォンを入れろって指示コメントがあって」
「ははー」
「言われるままに入れたら、なんとAフォン買ってくれたんですよ! あんな高いもの! 俺どうすりゃいいんだーってパニックになっちゃって」
「君はいい人だなあ。あっ、このベーコンピタちょうだい」
「毎度あり!」
そう言えばこの店、マシロがよく朝食のパンを買ってるって言ってたな。
凄く近くにいたなあ、ガードマスク。
今度はここを、スパイスお気に入りのパンの店にしよう。
「兄貴、スパイスちゃんと知り合いなんでしょ? あたしが店見ててやるから上で喋ってきなよ」
「いいのか?」
「いいのいいの!」
ぽちゃっとした感じの妹さんが出てきて、スパイスにニッコリ微笑んだ。
「二階が喫茶スペースなんで、そこでお茶飲んでって下さい。あと、あたしも旦那もスパイスちゃんのファンなんで、後でサインくださいね!」
「あっ、はーい! サインも喜んで!」
このパン屋さん、喫茶スペース付きなんて近代的だなー。
と思ったら、このパン屋が入っている小さいビルそのものが、ガードマスクのお父さんの持ち物なんだそうだ。
で、三階から上に一家で暮らしてる。
妹さんは結婚してて、こっちに仕事にやって来てるんだって。
なお、旦那さんも地元の人で、こっちで仕事をしてる。
「で、最近どう?」
二階の喫茶スペースにて、ポットに入った紅茶をいただきながらベーコンピタをかじる。
「あっ、うめー」
「でしょう」
ニコニコするガードマスク。
パンは、彼と父親の二人で焼いてるんだそうで、最近ガードマスクは父から免許皆伝を言われたらしい。
道理で美味い。
「えっとですね、俺はですね、Aフォンと一緒にスポンサーが凄いエアガンまで買ってくれて」
「ほえー、良かったじゃん!」
「怖くなっちゃって欲しいものリスト全部消しちゃったんですよ」
「なんでー!?」
「人から物もらうの申し訳ないし、なんで俺になんかくれるんだって思って……」
「ガードマスクの戦いが胸を打ったからじゃない? 一生懸命な人ってやっぱ、他人を感動させるもんだよ」
「そうなんですか!? 俺、地元を守りたい一心だったんですけど」
「それが響いたんじゃないかなー。同接増えてるでしょ?」
「あ、はい。百人くらいいて、もういつも怖くて」
「怖くないだろ! 生身でモンスターに突撃してるほうがよっぽど怖いよ!」
この性格が愛されてるんだろう。
「あ、そうだ! ガードマスク、今の君ならお願いできるかも」
「えっ、なんですか?」
「近々、スパイスを狙って魔女が来るかもなので、手伝って」
「手伝う!? 俺が、スパイスさんを!? うおー」
なんか熊みたいな野太い声をあげたな。
どういう感情の発露だ?
「パン屋さんが忙しいならいいけど」
「いえ、手伝います! スパイスさんは俺の恩人ですから!」
「ほんと!? ありがとー! では……店が終わったら今のガードマスクの実力を見せて欲しい」
「分かりました!」
そういうことになったのだった。
この後、スパイスは小さいエプロンを分けてもらい、パン屋で売り子をしつつ時間を潰した。
「いらっしゃいませえー!」
「あらー! 可愛い店員さんがいるわね!! 娘さん? ……結婚してないわよね?」
「俺は独身ですね。この人は俺の恩人で」
「恩人!? このちっちゃい子が!?」
「色々ありまして!」
とか、お客さんたちとやり取りをするのだった。
パンはいつもよりちょっと多く売れたらしい。
そして閉店前のタイムセールになると、地元の会社に務める人々が安くなったパンをごっそり買っていく。
その日作られたパンは、なるべくその日のうちに消費して欲しいもんね。
ガードマスクのパンが、みんなの食卓を飾るのだ。
ということで、夕方。
「ほんじゃ、行こっか!」
「うす!」
ガードマスクと二人で外に出るのだった。
「スパイスちゃーん、頑張ってねー! 兄貴も足引っ張んなよー!!」
妹さんに見送られつつ……。
「うちのパン屋の車で、ダンジョンまで行きましょう」
「なんと地元に密着した交通手段」
向かったのは、少しだけ山奥にある公園。
ここがダンジョン化し始めているということだった。
「よし、スパイスは本日も呪文詠唱縛り!」
『おっ! 仕事ですね~!』
フロータがぴゅーんと飛んできた。
自宅から、パン屋カーを追いかけて来たらしい。
で、ガードマスクも覆面を被り……。
「って、アバターまだ作ってないの!?」
「アバター作るほどお金が無くって……」
「パトロンついたんだからクラファンとかすればいいじゃん!」
クラウドファンディングでアバター資金集めてる配信者いるしね。
「いやあ……人の好意に甘えるのもなんか悪くて……」
「君は真面目だなあ」
だが、いざ配信がスタートすると……。
「どうも皆さん、ガードマスクです!! 今日も地元の平和を守っていきます!!」
おおー!
同接が89人!!
アバターの無い地元密着配信者として、開始早々これはすごいぞ。
というか、いきなりガードマスクの姿が変化してる。
いつもの覆面にジャケットが、ヒーローっぽい原色の仮面に武装ジャケットみたいに。
彼自体がリスナーの感情の受け皿になり、変身しているみたいだ。
で、太いパトロンから買ってもらったというエアガンは……。
握りの部分にナックルがついてる!
エアガン自体も太くて、これで相手を殴ったり攻撃を防いだりできるやつだ。
左手には、コーラル社長が作ったナックルも。
より近接系配信者として完成されてきてるな。
スマホによる一人称視点配信では無くなっているから、彼の姿がリスナーにはよく見えることだろう。
うんうん、スパイスもガードマスクの成長が嬉しいぞ。
ってことで、突発コラボやってみようか!
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