第158話 実践! ダンジョン修行
「どーもー! こんちゃー! 今日はねー、魔法を詠唱して威力を上げてみるよー! 今までは時短で詠唱しないで使ったりしてたからね! 魔法って、呪文を詠唱したほうが威力が上がるんだって!」
※『こんちゃー!』『こんちゃ!』『ほー』『詠唱してて間に合うの?』
「うんうん、確かにその問題はあるよねえ。でもみんな、実はダンジョンでのバトルは全然スピーディーじゃないのです。隙間を見ながら詠唱してみるから見ててね!」
※『おおーっ』『期待!』マルチョウ『確かに相手もナマモノですからね。呼吸とか間みたいなものがあります』
そうそう。
案外、モンスターたちは生き物なので、速い時は速いけど、遅い時は全然様子見してくれるんだよね。
こっちがやることは、相手が様子見している間に詠唱をキメて決着つけちゃうこと!
「とか言ってたら、出たねーゴブリン軍団! 今回は数が多いので、調子に乗って仕掛けてくるので……レビテーション!」
ふわーっとゴブリンがぎりぎり届かないところまで浮かび上がる。
あっ、石を投げてきたなー!
「フロータ、適当に防いで!」
『魔導書にそんな仕事させないでくださーい!? あいた! いたたた!』
石を防いでもらいつつ、呪文詠唱!
「融解する石、噴出する熱気、吹き込み放つ気泡の弾丸……スプリットファイアボール!!」
作り出した爆裂火球は、いつもの火の玉と明らかに見た目が違っていた。
なんていうか……溶岩のカタマリ……!?
『んいぃぞぉ主ぃー!! 呪文によるイメージこそがぁ! 魔法の姿を形作るぅ! 言うなれば今まで使用していたのはレディメイドのそれっぽい魔法だぁ!』
「なぁるほどなー!」
※『うおーっ! 飛び散ったファイアボールで!』『ゴブリンが一掃された!』『弾けた後もまだ燃え続けながら、滴ったり飛び散ったりするのヤバい』
「ほんとにね! いやあ、呪文で化けるなあ……。もしかしてレビテーションとかも化ける?」
『いえいえ、浮遊の魔導書は化けませんねー。一定の働きが担保されてます!』
「ほえー、楽ちん!」
『扱いを間違えるととんでもないことになりますけどね!』
『んこいつはぁ、使うのは簡単でも使いこなすのが極めて困難なんだぁ。だから発動しやすいのがとてもたちが悪いぞぉ。昔ぃ、大西洋に浮かんでいた大陸でフロータを使った魔女がぁ、大失敗して大陸ごと沈めたぁ』
「アトランティス大陸じゃん!!」
※『今明らかになる歴史の真実!!』『スパイスちゃんの魔導書が大陸を一つ沈めたってマ?』『フロータやべえ』
『インスタントに魔法を使ったら、下手に高位の魔法を使える方だったんで、魔法同士がぶつかりあってとんでもないことにですね! あれは私が存在していた史上最大の事故でしたねー。注意してくださいね』
「注意するよ! やべー」
※マルチョウ『アトランティス大陸って確か、紀元前9000年頃に海中に没したんじゃなかったか?』『そんな古い時代からある魔導書ってこと!?』
『普通に千年前にはありましたよ! そこまでたどり着けないよう、結界が張られていただけで。ま、どっちにしろ沈みましたけど』
『フロータの魔法で破壊された物体は、何千年も経たみたいにボロボロになるでやんすからねえ。なんか根本の結合みたいなのを解かれるらしくて』
わいわいと話をしながら、実践修行は続くのだ。
ダンジョンは地下室に続いていて、そこは下水に繋がっている。
ということは水があるので……。
「押し寄せる波、押しつぶす黒、飲み込め、タイダルウェーブ!」
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!!』
その場にいた、暗闇に適応してたダークゴブリンみたいなモンスターが、真っ黒な押し寄せる水に飲まれて消えていった。
下水の水を使ったからとてもくさい!
『これを海水に見立てるのはテンション下がりますねー』
「だよねえ。さっさと水には引いてもらって……」
『臭い水たち! 退け! 退けーっ』
マリンナに一喝されて、タイダルウェーブがしょんぼりして引いていった。
水に言葉が通じるんだなあ。
それが彼女の力なんだろうけど。
『ちなみにその大陸を沈めた時、別の魔女が戦っててですね。その魔女が使っていたのが私ですぅ』
「フロータVSマリンナの対決で大陸が一つ海に没した!!」
恐ろしい話だなあ。
きっと、海の魔女よりもずっとマリンナを使いこなせる人だったんだろう。
※『スパイスちゃんの手元には凄い魔導書が集まってるんだね!』『凄いと言うか、危険と言うか……』『ほんと、管理には気をつけてね……!』
「はーい! ま、スパイスの場合は未熟過ぎてそこまで力を発揮できないんだけど!」
『そのための修行ですからねー! さあさあボスですよ! こいつ相手には、私を的確に使って対処しましょう! 最近はラーフに頼りきりで雑なんですから!』
「へーい。では細心の注意を払いながら……リバース!」
分子結合を乱すとかいうとんでもない魔法だ。
これを極小規模で発生させると……。
爆発が起こって、ボスモンスターのオーガをふっ飛ばした。
『ウグワーッ!?』
スパイスは上手いこと爆風に乗りながら、レビテーションで位置調整して……。
「うおー、行くぞ行くぞー! スパイラル!」
触れたオーガを、スパイラルでグルグル回転させて……。
『ウグワーッ!?』
周囲の瓦礫をフロートで持ち上げながら、オーガに向けて高速で降り注がせる。
「ラピッドフォール!」
『ウグワーッ!!』
これでオーガはおだぶつ!
瓦礫の山から腕だけが突き出している感じになった。
すぐに、その体が分解されてダンジョンコアになってしまう。
「おー、浮遊の魔導書も使い方だねえ」
『使い手のセンスが問われますからねー。油断してると破滅しますけど!』
「改めて怖いなー」
※ランプ『ゆめゆめ油断めさるなスパイスちゃん……!』
「うんうん、ここで退場するわけにはいかないからね!!」
修行とともに、魔導書の危険さを思い知ってしまったのだった!
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