第150話 幼女二人、模擬店はしご
大晦日ともなると、VR空間も大変に賑わいますねえ。
『スパイスちゃん、ここ行こう! 面白いよー』
「ほうほう、ここは一体……!」
イラちゃんに誘われて、向かった先はVR飛行場。
……飛行場!?
年末年始をVRの空で迎えよう! というイベントがあるらしく、その時間帯のフライトは予約でいっぱいなんだって。
そのちょっと前である今は、なんとか乗り込めるかな……?
「っていうか、VR空間なのにフライトするとか意味あるの?」
『そうだねー。空の上から各地のロビーを眺めて回るんだけどさー。昼は昼で楽しいし、夜は夜景がすっごいぜ』
「そうなんだー!」
※『イラちゃんがVRに詳しい!』『幼女二人がわちゃわちゃおしゃべりしているのかわいい』『夜景ほんとにきれいだから見てほしい!』
「ほうほう、そんなに夜景がすごいんだー! じゃあ行ってみようかなー?」
『ゴーゴー!』
というわけで、二人で搭乗の登録に行った。
受付のお姉さんは男の人の声で、『えーっ! スパイスちゃんと……いつものイラちゃん!』
『いつものは余計でしょー!』
そっか、イラちゃんはVR空間によく出没するんだな。
ここでゲームに接続して、配信もやれてしまうんだそうで。
配信者によっては、VR空間に住み着いてここから配信生活をしている人もいるんだとか。
寝食とかトイレどうしてるの?
トイレで配信してる?
風呂は入ってないだろうなあ……。
※『スパイスちゃんが遠い目をした』『何かいらんことを心配し始めたんだぞ』『スパイスちゃん、なんだかんだで常識人だからねえ』
「そりゃそうだよー。配信やりながら、日常生活もあるからねー! どっちもやんなきゃいけないのが配信者の辛いところだよー!」
ってことで、登録は完了。
イラちゃんと二人で、バーチャルフライトにゴーなのだ!
「うおー! 機内も作り込まれてる! ちょっとチープなゲーム画面くらいだけど」
『そりゃあ有志がボランティアで作ってるんだし、何よりでかいからねー。これくらいでいいんじゃない? それよりも、飛ぶぞー!』
「おおーっ!! なんか飛び上がっていくー! 足が! 機体にめり込んでるー!」
『ポリゴンだからなー』
テクスチャーのちょっと甘いところとか、当たり判定の甘い辺りでめり込むのは日常らしい。
ははあ、これはこれで味わい深い……かも知れない。
果たして、飛び上がった飛行機から見下ろす夜景は……。
「うわーっ! 夜景がイラストみたいになってるー!」
『ねーっ! みんなで協力してこの夜景が作られてるわけよー。すごいよねー』
地上では、きら星はづきのコミカルなイラストが夜景になって浮かび上がっており、横に「あひー」という吹き出しまである。
すげー。
それが、時間とともに別のキャラクターのイラストに変わったりする。
どうなっているんだこれはー。
『建物の屋上にさ、明かりが付いてるんだけど、これを明滅させてイラストみたいな夜景にしてるってわけ』
「ほえー、大したもんだー!」
なお、年越しの瞬間には特別な夜景になるらしくて、これも楽しみ。
今日は年末オリジナルバージョンでこういうエンタメ仕様だけど、普段はもっと普通の夜景らしくて、これはこれでキレイなんだって。
「今度来てみよう!」
『それがいいそれがいい!』
こうして五分くらいのフライトが終了。
なお、操縦席からは管制室からの英語でのカッコいい指示が流れてきており、多分これも女声を出してる男の人じゃないかなーと思ったのだった。
おお、性別の壁を飛び越えていくVRよ。
スパイスやイラちゃんはVRなしで飛び越えてるんだけど。
その後、二人で射的なんかを楽しんだ。
『イラは射撃下手なんだよねー。広域殲滅タイプだからー』
「憤怒の大罪的な?」
『そうそう! あと、大罪の前も近接パワー型だから』
「見た目によらなーい! スパイスは射撃型だよー」
『配信見てたぜー。魔法少女は遠距離タイプだよねー。ほんじゃあ次は、お互いのファイトスタイルで遊んでみよっか!』
「えーっ、そんなことできるとこがあるの!?」
『あるんだなーこれが!』
ありました!
演習場!
武器の貸出しもしてて、標的目掛けて攻撃をする。
人型、ゴブリン型、巨人型。
好きなのに攻撃をして、配信者気分を味わえるわけだ。
標的は破壊されても、すぐに再生するプログラムが組まれている。
耐久度も選べるみたい。
「ほんじゃー、耐久度マックスで!」
『イラもそれでー!』
『うおー、配信者界のトップかわいい二人に利用してもらえるなんて! どうぞどうぞー!』
そんな感じで、二人でゴー!
当然、武器はレンタルしないのだ。
スパイスは晴れ着に装着された機能を活用してみる。
「触手どーん!」
袖が伸びて、ゴブリン型標的を巻き取り……。
「ちょわーっ!!」
ぐいっと体をひねると、標的が空に持ち上げられて、左右の触手が別方向に回転したので頭と胴体がねじ切れた。
うひょー!
とんでもない威力だぞこれー!
※『フェイタリティ!』『残虐技だw!』『スパイスちゃんに謎の技がまた一つ……!』
「これは教育に悪いから、見せ方は工夫しないとね……!」
で、イラちゃんはと言うと……。
真っ黒な炎が手から出てきて、巨人型にアタックしている。
炎は大きな鎌の形になり、これを握ったイラちゃん『せーのっ!!』と振り回した。
赤黒い炎がブワーッと広がり、周囲が燃え上がり、巨人型の標的は足元から燃やされつつ、燃え上がる刃でバラバラに切り刻まれた。
ちっちゃいイラちゃんだから、鎌を振り回すと物凄く映えるアクションに見えるなあ。
崩れ落ちる巨人型標的。
赤黒い炎がそれを焼き尽くしていくのをバックに、イラちゃんが振り返ってピースした。
「いぇーい!」
こっちもピース!
ってことで、二人でハイタッチの後……。
「そんじゃあよいお年をー」
『よいお年を! またねー!』
今日はさよならなのだ!
もうすぐ年越しの時間。
フォーガイズのいるバーチャル神社まで行かねば!
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