第148話 新魔法と明日の連絡
イラちゃんと別れた後、マリンナが帰ってきた。
なんかふわふわしてるな。
『いやあー、本当に謎の空間ですね。私、普通のアバターだと思われて何回も話しかけられちゃいました』
「そりゃあね。人外の外見とかバーチャルだと普通でしょ」
『そうなんですねえ。人間を堕落させ異形へと引きずり落とすのが私のライフワークでしたが、ここはもうみんな異形に変わっているので私ができることが何もありません。これは大きな衝撃でした』
「邪悪な魔導書だったりする?」
『ノーノー。今は平和的な魔導書です。主によって属性を変えるんですからー』
スパイスの追求を躱そうとするマリンナなのだった。
その割には、海の魔女を人外に変えてもう戻れなくしてなかったかなー?
「それで収穫はあった? 電子の海にダイブしてきたわけじゃん。魔導書としては世界初の快挙でしょ」
『でしょうねえ……。素晴らしい成果がありました。これはまさしく、世界に向けて広がる海です。今はこう……星の外側から炎の力が影響をしてきていて、あちこちの海が寸断されていますが』
「あっ、もしかして炎の大魔将ってやつ? 地水火風最後の大魔将じゃん。はづきちゃんには頑張ってほしいよねー」
『うーん、現世は魔女のいた裏社会よりもずっと恐ろしいことになっているんですねえ……。そりゃあ、魔女たちが息を潜めて暮らしてるはずです。過去に悪名を轟かせた邪悪な魔女すら、今は善良な市民のふりをしてこっそり生きてますからね』
「そうなんだ!? 何を恐れてるんだろう……」
『配信者が強くなりすぎたので、ダンジョンで遭遇すると一方的に狩られる危険があるんですよ。私たち本物の魔導書を手にすると、そんな配信者すら駆逐できる力を手に入れますが……。強い配信者が揃うと先日のような有様です』
「攻略楽しかったよー」
『主様は基本的に策を弄して魔女の手札を潰し、ジャイアントキリングをするタイプなので魔女の天敵かも知れません。なんでその魔法習熟度で次々に勝てるんですか』
「ゲーマー気質ってやつだね。プレイヤーキャラって、基本的に敵より弱いでしょ。だから動きを覚えて、相手の攻撃ターンは回避に徹したりカウンターしたりして、相手が弱ったら一気に攻める。こういう攻略って大好きなんだよねー。それはそうとマリンナ! 新しい魔法!」
『そうでした。電子の海と現実世界を繋げるようになりました。もともと、水さえあればそこに海を呼ぶことができたのですが、なんとこちらはもっとローコストでできます。電波さえあれば、相手を一瞬でこのVRに引きずり込めますよ』
「いいねいいねー! ちょっと研究しようか!」
そう言う話になり、スパイスたちは現実に戻るのだった。
マリンナがパワーアップ! という話は魔導書たちの間に衝撃をもたらし、対抗意識を燃やしたイグナイトがマシロにせがんで、VRゴーグルを付けてもらっている。
二人でVR行くのか。
というか、スパイスと一緒じゃなくてもいいの!?
この疑問に、フロータが答えてくれた。
『イグナイトはその辺り柔軟ですからねー。未熟な使用者でも、簡単に炎を使えるようにしてくれますし、その代わり異形化しますが!』
「ダメじゃないか」
『今回はマシロにガイドをお願いしているだけみたいなので平気ですよ。そもそも彼女、全く魔法の才能が無いので』
中途半端に魔法の才能がある方が、魔導書に取り込まれておかしくなってしまうんだそうだ。
なるほどなあ、奥深い。
ということで、現実に戻ってきたスパイスは俺に戻り……。
「ザッコでイラちゃんにまた遊びましょうと連絡……。おっ、すぐに返ってきた。ビジネスメールも完璧だなあの人。で、あとはフォーガイズにっと……。なになに? 明日から神社エリアができるの?」
『神社エリアっていうことは、参拝するんですか?』
「することになるねえ」
『私、現実の神社とやらも行ってみたいんですけどねー。昨年はこのアジトを見つけて住み着くために時間を使ったじゃないですか。主様が初詣に行った時も、イグナイトと留守番でしたし』
「そう言えばそうだった。じゃあ今年は、バーチャル神社にみんなで行くか!」
『行きましょー! 魔女の魔導書をやってると、教会くらいしか侵入する機会が無いですからねー。楽しみです!』
教会には侵入するんだな……。
なお、初詣についてはメンタリスもマリンナも乗り気である。
『今回は配信者限定でやんしたっけ? 一般の神社も拝んでみたいでやんすねえー。動画で見たんでやんすが、あんなに人間がわらわら集まって宗教施設に詰めかけるって、すごいことでやんすよ。たくさんの人間の脳内が覗ける~』
『祀られている中には海の神様もいるんですか? うわーっ、私そっちの神社にも行ってみたいです! 今度行きましょうよ主様!』
意外!
魔導書たち、神社が好きだった!
では、明日はスパイス軍団勢揃いで行こう!
『ところでお二方。VR空間では私たち魔導書も一般的なキャラクターとして認識を……』
『なんですって!? 異形が珍しくない場所!? 人間たちやりますねー。既にその領域に到達を……』
『メンタルやってるんじゃないでやんすかね?』
VRについて、ワイワイとお喋りに花を咲かせる魔導書たちなのだった。
そのうち、こいつらにもアバターが必要になるんじゃないだろうか?
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