第146話 バーチャル空間で遊んでみよう
『じゃあちょっと行ってきますねえ』
「いってらっしゃ~い」
『マリンナお姉様がネットの海にダイブしてしまいました』
「リヴァイアサンの死体を使って何か新しい魔法でも開発するんじゃない?」
海のことは海の魔導書に任せておこう。
フロッピーに位置を記録してもらったし、合流も容易でしょ。
ということで、スパイスはスパイスでこのバーチャルな世界を楽しむことにしたのだった。
『まずはどうしましょう?』
「うーん、じゃあさっきチラシをもらったバーチャルホストクラブに行こう!」
そういうことになった。
スパイスの姿で練り歩いているとそれなりに注目されるんだけど、この世界は誰もが可愛かったりカッコよかったり、風変わりだったりするアバターを被ってるのだ。
その中に紛れると、案外目立たない。
「うわーっ、見てフロッピー。お好み焼き丼のアバターが歩いてる!」
『ここに来るまで何人か丼ものはいましたけど、中でも随一の仕上がりですね』
せっかくなんで声を掛けることした。
「どーもこんちゃー」
『あっ、どうもこんにちは。……スパイスちゃん!?』
「そうでーす。配信外で遊んでるところなんだけど、そのアバターすごいねー! それになんでお好み焼き丼?」
『これはですね、弊社のタレントが丼アバターの始祖なんで……。それと、お好み焼きは自分のアイデンティティですね』
「ほえー。なるほどなあ。丼ものを始めた人なんていたんだ……。じゃあさ、これで声を掛けたのも縁だし……一緒にバーチャルホストクラブに行かない?」
『いいでしょう、これもなにかの御縁です。行きましょうか』
ノリの良い人だ!
年末年始がお仕事の代わりに、今日休みをもらったんだそうで、それでVR空間を闊歩していたんだそうだ。
おこのみさんという人である。
「どーもー。バーチャルホストクラブに遊びに来ました!」
『どうもどうも』
『ようこそ、お姫様がた。クラブ・ふりかけキャッスルへ!』
明らかに女の人の声なんだけど、イケメンアバターを纏ったお兄さんが出迎えてくれた。
ほうほう、ふりかけキャッスル……。
『ホストクラブとは言っても、バーチャル空間では食事はできませんからね。見立てによるごっこ遊び的なものなんですよ。あ、でも通貨みたいなものはありますからね。ここは私が建て替えておきましょう』
「おこのみさん太っ腹ー!」
『フリーで色々なイベントの動画編集を請け負ってますからね。VR通貨はかなり持っているのです』
ホストクラブの人たちが出てきて、出迎えてくれた。
みんな一瞬、スパイスに気づいてビクッとなる。
『スパイスちゃんじゃん』『スパイスちゃんがホストクラブに!?』『最高の姫じゃないか』『総出でお出迎えしなくちゃ!』
ワーッと出てきて、なんかマイクパフォーマンスが始まる。
『ご来店、あっりがとうございまぁーす! 本日もぉ、我々ふりかけキャッスルの総力をあげて、姫を歓待いたしまぁーす!!』
みんな普段はVR空間で他の仕事もしていて、週に二回だけホストのアバターを被って、ここでクラブをやっているんだそうだ。
おお、ミラーボールがぎらぎら光っている。
知らない空間だー!
『シャンパン入れちゃいましょう』
「ゴーゴー! シャンパンタワーだ!」
『シャンパンタワー入りましたー!!』
『『『『あっりがとうございまぁーす!!』』』』
ホストたちがパラパラ踊ってる!
ということで、大いにキャッキャと楽しんだスパイスなのだった。
いやー、バカ騒ぎ!
面白かった。
『スパイスちゃんは今までVRやってなかったんですか?』
「やってなかったね! リアルの方がもういっそがしくて! 個人的には全然抵抗とか無いんだけどー」
『なるほどー。こういうテック系好きそうだと思ってたんで、意外だなーと』
「よく分かってらっしゃるー」
その後もおこのみさんと二人で、VR空間を歩き回った。
赤ちゃん喫茶!?
お客が赤ちゃんになり、あやされるやつ!?
呼び込みしているお姉さん、声がお兄さんだなあ。
奥深い。
『行きますか? なかなか乙なものですよ。授乳されて身も心もリフレッシュです』
「スパイスはまだ初心者だから遠慮しておこうかなー」
とか言っていたら、赤ちゃん喫茶から真っ赤な髪の毛を三つ編みお下げにした女の子が出てきた。
黒と赤の悪魔的ワンピース姿で、黒い角と翼が生えている。
『いや~、堪能した~。たまには赤ちゃんになりにこないとだめだね。おじさん授乳されて生き返っちゃった』
「カワイイ声でおじさんって言ってる! 濃い人だなー」
『あっ!!』
おこのみさんが驚きの声を発した。
スパイスと、三つ編みの女の子がビクッとして立ち止まる。
『この場に、配信界で最もカワイイおじさんふたりが揃ってしまった!!』
「な、なんだってー!!」
衝撃的な事を仰る!
つまり、眼の前のお下げ髪の女の子は……。
スパイスのアバターと同い年かちょっと年下くらいの見た目の彼女は!
『うぇー、黒胡椒スパイスちゃん!? はじめましてー! とんでもないところ見られちゃったなあ。まあリスナーはイラが赤ちゃんやってることとかみんな知ってるんだけど』
「カワイイ外見でおじさんであることを隠しもしない! もしやサタン・イラちゃん? はじめましてー!」
『はじめましてー! いえーい!』
「いえーい!」
二人でハイタッチした。
まさかこんなところで、ずっと名前だけは知っていた人物と邂逅してしまうとは……。
おこのみさんが、なんかやたらとスパイスたちが揃っているところをスクショしている。
嬉しそう。
『あとでまとめ動画にしてもいいですか?』
「いいよー」
『イラのとこのリンク貼ってくれればいいよー』
『寛大~』
ということで、出会ってしまったおじさん二人。
これは積もる話をするべきではないのか?
落ち着ける場所を求めて、スパイスとイラちゃんの二人で移動を開始するのだった。
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