第144話 スパイスの晴れ着が納品されたぞ
スタンピードとイカルガ大感謝祭が終わったら、あっという間に年の瀬なのだ。
今年ももう二日間しかない。
12/30という日に、犬飼タマさんから納品があった。
『仕事納めでーす』
「あー、どうもお疲れさまでした!」
受け取ったのは、シロコのイメージをスパイスに乗せた、めでたい紅白スパイス晴れ着!
かーわいい。
「あーっ、これはかわいいかわいい」
『でしょうー。かなり気合を入れましたからね! 私の中にあるカワイイのエッセンスをギューッと詰め込んだ逸品、ぜひお試し下さい!』
「ありがとうございます! これは良いものだあ~」
ということで、素晴らしいものを受け取ってしまった。
今まではメタモルフォーゼの断章を用いての変身だったから、スパイスのイマジネーション頼みだった。
だが、バーチャライズとなると全く違う。
『ほほーう、人間が作り上げた衣装とやらがどれほどのものなのか、見せてもらいましょうか。フロッピーちゃん!』
『はい、お姉様。準備完了です。マスター、バーチャライズと唱えて下さい』
「オッケー、バーチャライズ!」
既にスパイスモードで犬飼さんとザッコをしていたのだ。
お陰で話が早い。
魔導書たちが見守る中、電子の光に包まれるスパイス!
あっという間に変身は完了なのだ。
おおーっ、メイド服風の晴れ着!
黒の部分に赤い差し色が入っていて、とてもおめでたい感じになってる!
帯がでっかい赤リボンだ。
正面からでも、背中側のリボンがドドーンと自己主張してるのが見えるぞ。
『はわわわわ』
『な、なんて大胆なぁデザインなんだぁ……!!』
『これが人間の発想力でやんすかぁ!』
『魔法はどうしても現実的な形に落ち着きやすいですもんね。ま、海ならそういう形も……アリです!』
魔導書たちは完全に犬飼さんに分からされてしまったみたいだ。
バーチャライズっていうのは、絵から現実の姿になるわけだし、しかも配信者ともなると、魔法的な力を得て変身している。
魔導書への説得力は抜群なんだろう。
なお、明日は大晦日からフォーガイズでの配信を予定している。
四人でバーチャル空間にお出かけし、年越しを楽しみ、新年を祝うのだ。
きっとみんなびっくりすることだろう。
スパイスはニヤニヤしながら元の姿に戻った。
『人間なんて大した事ないと思っていたのですが、そんな先入観を覆されることが多いですねえ……。文明の発達、恐るべし』
「ほんとにね。最近のフロータはちょっと謙虚になってきた?」
『そりゃあそうですよー。とんでもないことが次々に起きてるんですもん。やっぱり今はあれですね、魔法と科学の融合が必須ですねこれは。魔法だと手間暇掛かりすぎることも、科学なら一瞬ですし。科学だとコスト掛かりすぎることも、魔法なら一瞬だったりしますしー』
「おっ、頭が柔らかい!」
『そりゃあもう、新時代の魔導書としてですねえ!』
『ん主ぃ! さっきの姿はぁ、なぁにができるんだぁ?』
「あー、能力の確認とかしてなかったね! じゃあちょっと異世界で試してみるかあ」
我が家の異世界直行ルームに向かい、また晴れ着モードへバーチャライズ!
どれどれー?
アバターっていうのは、纏う人によって変わった力を発揮するものなのだ。
ご当人の魔法的な才能とか、あるいは特性とか、ファンがその人に望むものとかを反映し、本当に超常的な力を得るものだってある。
スパイスの場合は……。
「おっ! リボンが大きくなって飛べる!」
『浮遊の魔法系が使われていないのに! うーん、これは風の魔法ですねえ。羽ばたきによる飛行です』
「風の魔導書がまだ来てないのに、風の魔法を手に入れてしまったか……」
『あるあるです。ありふれてますからねー。それにこれまで、断章がちょこちょこ手に入ってますんでそろそろそれも活用していけますよ!』
「いつの間に……!」
『断章はやっぱり、魔法の力を持つもののところに勝手に集まってきますから! 今までは私たち魔導書が個人個人で管理していたのです』
じゃじゃーん、と挟み込んだ断章を見せてくる四冊。
な、な、なんだってー!
でもまあ、ちょっと便利な日常の魔法みたいなのがたくさんなので、スパイスが管理しだすと情報量が多すぎて大変! ……ということで魔導書が対応してくれているんだそうだ。
ありがたいー。
『もちろん、データベースはこのフロッピーの中に収まっています主様』
「うちのフロッピーもどんどん優秀になって……」
『フロッピーちゃんは私の妹ですからね!』
『優秀なぁ、妹だぁ! 持てる限りの技を教え込むぅ!』
『うんうん、どんどん吸収するし素直だし……本当にいい子でやんすよぉ』
『私、海以外興味なかったんだけど、妹っていいものなんですねぇ』
すっかりメロメロな魔導書群なのだった。
そこからスパイスは、アバターの力を試すと同時に、断章の使用感をチェックなどしてみるのだ。
「ほほー、相手を転倒させるスネアの魔法……。えっ!? 極めれば相手が車輪だろうが履帯だろうがホバーだろうが転ばせられるの!?」
『転倒させるという概念ですからねえー。断章が何枚も必要ですけど!』
「こっちは……幻音の魔法……。無意味な音しか鳴らせないけど、断章を揃えるほど音の数が増えるのかあ……。一人合唱団できちゃうな」
断章、コレクション性が高いぞ。
中には、現在の魔導書をパワーアップさせる断章もある。
例えば付与の断章は、イグナイトの炎を物品に宿しておけるし……。
「便利便利!」
『主様の衣装だって便利でやんすよ。袖が伸びて触手になるのはなんなんでやんすか?』
『海の眷属を使ってないのにそんなのできるのずるいです~!』
「可愛い系触手だねこれは! あはははは! こりゃあ晴れ着も高機能だぞぉ!」
明日のバーチャル年越しが、今から楽しみになってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




