第143話 パワーアップ配信者! スタンピードをぶっ飛ばせ
地の大魔将も、このまったりとした侵略をよしとしていたわけではないだろう。
そろそろ詰めに入るか、という気配を感じる。
スタンピードに混じるモンスターが、明らかに凶暴化したのだ。
ゴブリンやオークが多かった中に、オーガが混じり始める。
あーっ、このレベルからは泡沫配信者では対応不可能になる。
「みんな、命を大事にーっ! 一旦退いて! 特にガードマスク退けーっ! 死ぬぞー!」
『しかし!!』
「しかしもヘチマもなーい!! ひけー!!」
※『コマンダー・スパイスの的確な命令!』『流石のガードマスクも戦線を後退させて……いや、あいつ路地に入り込んで狭いところで迎え撃つつもりだぞ』『後退のスイッチがぶっ壊れてるおじさんだ!!』
「あんにゃろー!」
熱いハートは分かるが、制御不能なくらい熱いのが問題だなあ。
シェイクストライカーズは、一旦建物の屋根の上に退避している。
『こっちは数が増えすぎて!』
『ちょっと様子見っす』
『スパイスちゃん、まだですかあれ!』
「もうすぐでしょ! 地の大魔将は、最悪のタイミングで全力侵攻に移るはずだから……。ここからもうちょっと攻撃が激しくなったら最大の反撃チャンスが来るよ! みんなもイカルガ大感謝祭チェックしといて!」
『はい!』
『スタンピード迎え撃ってるのに、見てていいのかなあ』
『スパイスちゃんはなんか深いこと考えてるんだよ』
若い子たちがわあわあ言いながら通信を切った。
賑やかだなあ。
それに誰も大怪我をしてないようで何より。
バイク乗りや電車乗り勢は、一旦無人駅で合流。
そこを拠点にしながら踏ん張っているみたいだ。
みんなー、あとちょっとだからな。
社長の見立てが正しいなら……ここで逆転の一手が来る。
とりあえずガードマスクの受け持ちのところまで飛んでいき、オーガ相手に勝ち目のない突撃をかましているところをチョップで正気に返らせた。
「首からスマホぶら下げてそれで配信してるような個人勢が、普通に考えてオーガと殴り合いできるわけないだろー!」
「やってみなければ分からない……!」
「お前が死んだらあれでしょー! 仲良くしてる商店街の人とか悲しくなるだろー!」
「ハッ」
※『一番効いてる一言で草なんだ』『ご当地系ヒーロー配信者だったかあ』『首から下げてるスマホで配信とか命知らず過ぎるw』
ほんとにね!
なんでまだ生き残ってるのか不思議だよこの人。
ってことで、彼も避難させたところで、ついに時は来た。
山向こうから、ついにジャイアントクラスのモンスターが顔を出し始めたのだ。
スタンピード極まれり!
普通のダンジョンと比べて、スタンピードってそこまで強力なモンスターは出てこないんだよね。
質より量!
※マルチョウ『状況は圧倒的ピンチ。次々投入される戦力に押され続けているのに、全く深刻な空気にならない』『みんな別窓のイカルガ大感謝祭見てるからね』『なんか始まった!』
場の空気が一変する。
※『きら星はづきのコンサートだと!!』『オリ曲だーっ!』『スパイスちゃんはこれを待ってた!?』
「そういうこと! ピンチだからってイライラするより、ちょっとでも楽しくしながら待ってるのがいいじゃん」
コーラル社長の見立てが正確だったっていうのもあるけどね。
ジャイアントが街を蹂躙すべくその姿を現すと同時に……。
イカルガ大感謝祭のメインイベントが始まった。
世界トップ配信者、きら星はづきによるオリジナル楽曲コンサートだ!
最近、色々あって内なる魔王と二人に分化したきら星はづきだけど、魅力も迫力も二倍になってるねー。
画面から流れてくる音楽が心地よい。
なぜか、街のあちこちからその歌が聞こえ始めた。
これは……防災放送をジャックしている……?
『うおおおおお……うおおおおおおおーっ!! 力が! 力がみなぎる! ガードマースクッ!!』
向こうの方で、ガードマスクがグワーッとガッツポーズをしているぞ。
また覆面がヒロイックなやつに変わってるじゃん。
彼は建物の屋根から、ジャイアントに踊りかかった。
『うおおおお!!』
『もがああああああ!!』
殴り合ってる殴り合ってる!
普通なら絶対に相手にならないレベルなのに、きら星はづきの歌を受けてガードマスクが光り輝いている。
このシャイニングガードマスク、ナックルでガンガンにジャイアントを殴って、ついに地面に叩き伏せた。
別のところでは、シェイクストライカーズが文字通り空を舞っている!
街が丸ごとひとつ、彼らの舞台だ!
ダンスの中に取り込まれたモンスターたちが、どんどん弾き飛ばされ、ふっ飛ばされ、消滅していく。
『体が……軽い!』
『今までできなかった技ができるよ!』
『すごーい! これがはづきっちのパワー!』
『いけるぜこれはーっ!!』
バイク配信者と乗り鉄配信者も、反撃に移ったようだ。
おっと、こっちのジャイアントも近づいてきたみたいだねえ。
※『みんなパワーアップしてる!』『スタンピードが押し返されて行くって!』『スパイスちゃんはどう?』
「んー、スパイスは変わんないかな? 多分、それぞれ一人じゃスタンピードと戦えない人たちを後押しする力みたい」
つまりそれは……スパイスはそれなりに強いって認めてもらった扱いになるのかなー?
なんて思いながら、飛び上がるスパイスなのだった。
「おーっし、行くぞー! 集まれ魔導書どもー! フロータ! イグナイト! メンタリス! マリンナ!」
『既にここにいますよー!』
『準備万端だぜえ!!』
『圧倒的でやんすよここからは!』
『海がないところなんで見学してるだけでいいですか?』
※ランプ『一冊だけやる気が無いのがいますね……』
「まあいいのいいの! そんじゃあ景気よくいってみよー! おらあ! ラーフ二刀流で炎の魔法と精神魔法乱れ打ちだーっ!!」
ドランクを叩き込まれてフラフラになったジャイアントが、炎上魔法に包まれて『ウグワーッ!!』とか叫んでいる。
おっ、地上をパワーアップしたシロコがパカパカ掃討しているねえ。
これは完全に決着がついたみたいだ。
事前の被害を最小限に抑えられたから、スパイスが住んでいる市での人的被害はほぼゼロ!
急速にスタンピードは撃退され、街は日常を取り戻していくことになるのだった。
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