第142話 司令塔スパイス
「みんなに連絡ー! 防災放送が流れてるから、これで市内への注意喚起はしてまーす! みんなの手が届かないような奥の地域の人は、家から出ないようにしてもらってるから!」
ザッコから、めいめい返事が戻って来る。
みんなスマホくらいは持っているので、そこにザッコを入れてもらえばこうやって音声会話できるのだ。
いやあ、この地域はスパイスがいて良かったねえ。
「せんぱーい! アタッシュケース全部弾丸で良かったんですか!?」
「もっちろん! シロコ弾丸ないとやれないだろー。ほんじゃあ、町中で長丁場配信いくよー。どーもー! こんちゃー! 多窓推奨! 特に! イカルガ大感謝祭は流しておいてねー! スパイスでぇーっす!!」
※『どーも!!』『こんちゃー!!』『多窓推奨!? ナンデ!?』
それには深い理由がね。
社長の超感覚で、今起きてるスタンピードと、真っ向からぶつかるイカルガ秘密兵器(お歌)のことを知ってしまったからね。
『もがーっ!』『もがーっ!』『もがーっ!!』
車一台通っていない道を、モンスターが我が物顔で歩き回る。
みんな家の中に閉じこもり、奴らが通過するのを待っているのだ。
防災放送が効いてるね!
隙間なく家を閉ざしておけば、モンスターは中に入りこまない。
これは閉じられた家は一つのダンジョンであり、モンスターは他所のダンジョンに移動しないという性質を利用したものなんだとか?
スタンピードはモンスターが溢れ出す現象ではあるけれど、同時にダンジョンと外の世界の境界線が無くなってしまった現象でもある。
だから家と外を隔てると、モンスターは引かれた境界線を超えてこれないというわけだ。
あっ、窓を開けて撮影してるバカがいる!!
『もがーっ!!』
「うわーっ!!」
「あーもう! 窓開けたら入り込まれるに決まってるじゃーん! 行くよシロコ!」
「うっす!」
ダッシュでお助けに向かうのだ!
モンスターたちを射撃で黙らせて、襲われていた人に「終わるまで窓開けたらダメッでしょー!」とお説教。
で、窓をしっかりと閉じさせる。
「スパイスちゃんに注意されちゃったぜ……」
※『ご褒美じゃん』『あんにゃろ許せねえ』『かわいいおじさんに鼻先つんつんされてええー』
特殊な趣味だな君たちぃ!
さてさて、スパイスとシロコでこの辺りを走り回っている頃、みんなはどうしているかな?
ガードマスクは、やっぱり苦戦していた。
全ての相手と互角に戦うっぽい人だからなあ。
今はゴブリンの大群の中に真っ向から突っ込んで苦戦してる。
それは苦戦する。
でも、同接も前の十倍まで増えてるし、コメントもちらほらあるじゃない。
いけるんじゃないかな……!
『ぬうおおおおおお!! 生まれ育ったこの街をぉぉぁぁぁあっ!! 好きにはっ! させないっ!!』
左手のナックルでゴブリンを殴り、すかさず右手のエアガンを乱射する。
安物じゃないエアガンはバーストできるからいいねー。
だが使いこなせてないぞ、ガードマスク!
ということで、ここはどうにかなりそう。
本人が頑丈なんだよねえ。
「一応応援しとこ。ガードマスク、その調子でがんばれ!」
『うおおおお了解!!』
※『燃え盛る炎のような男だw』『アバターなしで戦ってるのマ!?』『あのまま人気が出ればアバター作ってもらえるようになるんじゃないか』
次は高校生チーム、シェイクストライカーズ。
彼らはアワチューブ配信が行われておらず、PickPockだからどういう状況かわかんないかなー。
「リスナー! シェイクストライカーズどお?」
※『がんばってる!』『チーム戦してるよー!』『男子が女子を抱えて振り回したり、足場になったりしてる』
「見栄えのする戦闘をしてるみたいだねー。今回から、特別なワッペンでパワーも上がってるはずだし。よし、ザッコで応援送っとこ! その調子でファイト~!」
『いぇーい!』『スパイスちゃーん!』『がんばるぜー!』
元気な掛け声が聞こえてきた。
若いっていいなー!
で、他にも数名。
バイク乗りの配信者は、自ら山奥の村まで突っ走って戦ってくれてる。
鉄道系配信者が、電車に乗って並走しながらサポートしてるね。
この二人はうちの街の配信者じゃないんだけど、こっちまでよく走りに来るとか、電車に乗りに来るとかで協力してくれた。
ありがたーい。
後は、普段は都心で活動してるけど、今日は地元を守ってもらってる小規模配信者とか。
みんな必死でスタンピードに抗っているのだ!
「ここで休憩しまあす!! お肉どももめいめい栄養補給しようねえ」
「先輩、おにぎりですー」
「ありがとー!!」
※『スタンピードの最中に高いところに登って休憩!』『映像で見てると思った以上にゆったりしてるのね』
「それはねー。モンスターだって常に走り続けられないし、なんかこっちの世界って、魔力が少ないらしいんだよね。だからモンスターも一日ちょっとで消えちゃうんだって……あっ、梅だあーっ!! やっぱ元気が出るおにぎりはこれだよねえ」
※『梅いいねー』『もぐもぐかわいい』『新妻の握ったおにぎりいいなあ』
「美味しかったー。あ、お茶ありがとー! えーとね、でも一日で消えるって言っても、それでも街はすっごい被害に遭うわけ。戸締まり、窓の締りが甘かったら侵入されてボッコボコだし、自分は大丈夫でもマンションの隣室がやられたとかざらにあるし。あと、スタンピード中は換気禁止! 入りこまれるからね!」
見慣れた種類のモンスターに混じって、二足歩行する多腕のコウモリみたいな魔将が歩き回っている。
あれは地の大魔将の眷属だったっけ。
それぞれの地域にいて、スタンピードを統括していると思う。
『主! あいつ目掛けて魔力感知してみるでやんす!』
「オッケーメンタリス! 魔力感知!」
魔力の波紋が広がる。
それが眷属にぶつかると、向こうはこっちに気付いた。
だけど、高いところにいるし戦闘力もありそうなのを知って、チッと舌打ちした後また周囲に命令しながら歩き出した。
めんどくさがりだ!
それに……。
「やっぱり地の大魔将の眷属だあ。あいつが一番魔力すごかったけど」
『多分、あれがスタンピードの中心でやんす。あいつを倒せばその土地のスタンピードは収まるでやんすよ!』
「なるほどー! はい、この情報を全国に流しまーす!! でも、そこまで無理をしなくても……その時が来る気もするなあ」
※『スパイスちゃんは何を狙っているんだ……』『イカルガ大感謝祭のこれか? コンサートステージ!?』『あー、なるほど、ここまで無理しないで持ちこたえる方針?』
「正解!」
その時まではあとほんの少しだぞ。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




