第141話 来たる、Xデー
「なるほど、この地域の配信者は合計四組か」
「俺とマシロを一組と考えれば五組ですかね。思ったよりも多かったけど、スタンピードが全国で起こると考えると、全然足りないっちゃあ足りないよなあ」
「それが地の大魔将の狙いであろう。やつは一時的な飽和攻撃を引き起こそうとしている。本来ならば、この攻撃で人類側の戦線は崩壊し、奴の軍門に降ることになろう」
「詳しくないです? あ、新しいコーラの蓋開けといたんで」
「おお~、ありがたい。様々なメーカーのコーラがあり、どれも美味いのう」
コーラルがニコニコしながら青いレーベルのコーラをぐびぐびやっている。
半分ほど飲んだところで、
「我がいた世界があっただろう。あれは地の大魔将によって滅ぼされた世界よ」
「えっ!? あそこってそうだったんですか」
「そういうことよ。人と離れ、存在を秘していた種族は助かった。そして世界と世界をつなぐ門が開いた後、この世界に移ってきている。だが、もともとあの世界を支配していた人類はただの一匹たりと残ってはいない。人は社会なくして生きられぬ。社会を滅ぼされれば、存在できる理由もなくなろう」
そう言えばあの世界、人間と会うことは最後まで無かった。
滅びてしまっていたんだな。
コーラル曰く、スタンピードはモンスターの命をも削って強化暴走させるものだから、参加したモンスターの寿命も著しく短縮されているらしい。
だから人が大勢死に、その後モンスターも大勢死ぬ。
全てが片付いたあと、大魔将が己の眷属を入植させると。
「だが、地の大魔将の一族はあの地には合わなかった。世界を一つ滅ぼしながら、奴らはまた安住の地を求めて彷徨うことになったのだ。迷惑な。お陰で財宝が増えなくなったではないか」
プリプリ怒っているコーラルなのだった。
なるほど、彼女が俺達に協力的な理由はそこだ。
趣味である財宝集めは、他の知的種族がいるほうがやりやすいし、新しい財宝も生み出される。
だが、そんな種族を滅ぼされては、上手く行かなくなってしまうわけだ。
「できれば我が出張って、大魔将をぶちのめしたい! だが……奴らは種族そのものを以て大魔将である存在。群体よ。きりがない……! 故に、この世界が奴の心を折る事を我は願う。そのための助力よ」
「なるほどぉ」
コーラを飲み終わり、差し入れのコーラグミをぱくぱくし始めた社長。
俺が集めてきた配信者たちの配信を、順繰りに見ている。
「しょぼいのう!!」
そりゃそうだ。
今回の四組と比較したら、うちのマシロですら全然上澄みに入るくらいなのだ。
「スパイスと比較しちゃだめですよ。いいですか。スパイスは個人勢ならトップクラスの一人です。彼らはみんな、収益化をしてないひよっこなんですよ。ですが、街を守ろうという気持ちは本物です。社長! ここは一つ」
「うむ、貴様が選んだメンバー故な、我は信じよう。それ、配信を通して力を送るぞ。貴様らがダンジョンコアと呼ぶものと同じ力だ。これで幾らかの戦力にせよ」
「ありがたい!」
即日、ダンジョンコアでお買い物をした。
ガードマスクは、流石に安物のエアガンはいくらなんでも限界だったんで、買い直してもらった。
ダンジョンコア決済ができるエアガンで、彼のスタイルに合っているもの……。
専用のナックル・パートと、打撃に耐えられる頑丈なエアガンのセット。
これだ。
シェイクストライカーズには、身体能力を向上させるワッペン。
同じものを身に着けた仲間がいるほど力が高まる。
チーム配信者にはぴったりだろう。
という感じで、その日の内にアイテムを買い揃え、全員のところに送り届けたのだった。
やってくるXデー。
巷では、イカルガエンターテイメント大感謝祭の日。
そして地の大魔将が世界を征服すべく、日本全土でスタンピードを引き起こそうとする日だ。
この情報は、八重山のゆくいちゃんにも共有してあるし、チャラウェイやスレイヤーさん、八咫烏を通じて各地の配信者にも通達済み。
既にみんな臨戦態勢だ。
それでも本来は、全国一斉スタンピードなんてとても手が回るわけがない。
絶望的なはずの戦闘だ。
今はただ、イカルガ大感謝祭で奇跡が起こり、スタンピードを押し返すなんらかの効果が発生することを期待するのみ。
「人事を尽くして天命を待つ……」
各地に配置した仲間たちに連絡を終えた俺は、家のベランダから街を見下ろしていた。
そこに、フロッピー内臓のザッコを通して連絡が……。
「初めての人だ。はじめまして?」
『はじめましてなのだ』
「ボイスアプリの声……! ま、まさかあなたは……!! 冒険配信まとめチャンネルの……」
『はじめましてなのだスパイスちゃん! 僕は冒険配信者うぉっちチャンネル管理人なのだ! スパイスちゃんが全国の配信者たちに連絡を取り、来たる危機に備えていると聞いたのだ! 僕も協力させてほしいのだ!』
「ぜひ! 日本中を繋いでやりましょう! 俺が作ったネットワークがあるんで、こいつの情報を共有しますから……」
『助かるのだ!! 僕の動きが遅くなってしまって申し訳なかったのだ! イカルガ大感謝祭の裏側で、まさかこんな陰謀が蠢いているとは気付かなかったのだ……! 情報サイト失格なのだ!』
「うぉっちチャンネルさんはイカルガ関係の情報をどんどん出してたじゃないですか。みんなには光の側の情報だって大事ですから。希望があるからこそ、やってくる絶望に備えられる、みたいな」
『確かになのだ! よし、同期完了なのだ! これで……イカルガ大感謝祭で起こった流れを、ぜーんぶそっちに流せるのだ!』
「感謝です! 成功率がさらに跳ね上がりましたよ!」
遠くの方で、爆音が響いた。
土煙が上がる。
防災放送が流れ出す。
始まった……!
「メタモルフォーゼ……スパイス!」
いつもの姿になってっと!
スパイスは通信を経て、全国に呼びかけるぞーっ!!
「うおー! お前らー! スタンピードが始まるぞー! きばってけー!!」
全国から、気合に満ちた返事が轟くのだった。
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