第137話 ドラゴン、マンションを(丸ごと)買う
コーラル社長を迎えに行った。
這々の体でダンジョンから出てくる配信者と、彼の後ろに続いて悠然と歩いてくる社長だ。
「社長~」
「おう、我だ。出迎えご苦労」
「マジでドラゴンなの? 人間にしか見えねー。でもあの戦闘力は間違いなく人間を超えてるしなあ。あ、俺チャラウェイ! よろしくな、ヒャッハー!」
「うむ。我はコーラルだ。そう名乗っておる」
「威厳ありますなあー。ドラゴンらしいっちゃあらしい」
スパイスたちの話を聞いてた、巻き込まれた配信者。
びっくりしながら社長を指さしている。
「えっ、ドラゴンなんですか?」
「そうだぞー。人化したドラゴンは強いし危ないから、下手に秘密を漏らしちゃダメだぞ」
「ひえ~」
そんな話をしつつ、スパイスたちは異世界を経由してマンションへ戻るのだった。
『ははあ、これをご自分でいじって、移動できる魔法陣にしたわけですか。やりますねえ……。流石星渡りの竜……』
フロータが感心している。
「うむ。だが我は付け焼き刃ゆえな、勘でやったから大きくズレた。後でやり方を教えよ」
『それは別に構いません! そもそもコーラルさんがあちこち事故って飛び出しちゃうと、主様が迎えに来なきゃだし大変だと思いますから!』
「フロータが主思いの魔導書で嬉しいなー」
ということで、継続的にフロータから魔法陣講義を受けることになるコーラル社長なのだった。
そして降り立つ、我がマンション。
シノが出迎えてくれた。
「あら、どうもー。そちらが噂のドラゴンさんです? 財宝をたくさん持ってらっしゃるそうで」
「ああ。貴様はシェイプシフター……いや、違った系統のモンスターだな? ふむ、モンスターもまた社会に溶け込んで生きているとはな」
「ええ、おかげ様で人間社会でやらせてもろてます。ええと、コーラルさん、あなた、巣を探してらっしゃると思うんですけど」
「うむ、この建造物がちょうどいいと思っている。我のものにしよう」
「そんな無茶なー」
人間の世界は、法とか不動産とかで色々難しくなっているのだ。
ドラゴンがおいそれと、不動産を取得しようとしてもできるものではない。
「それがですね、スパイスさん」
「えっ、もしかしてシノさん、いけちゃうの!?」
「はい。この物件のオーナー、明らかに危険な団体との取引や、異世界案件、ダンジョン案件なのを隠して所持していましたからねえ。このマンションは既に迷宮省によって取り上げられ、競売に掛けられるところでした」
「うちのマンションがいつの間にかそんなことに!!」
異世界と繋がっていたり、過去の怪しい教団が住み着いていたり……。
確かに普通のマンションではなかった。
というか、スパイスが住み着かなければこれは明らかにならなかったわけだもんねえ。
「そう言うわけで、迷宮省としてはスパイスさんの紹介があれば……コーラルさんにこの物件をお売りするのもやぶさかではないわけですねえ」
「つまり、スパイスが社長の後見人と……」
「そうなりますねえ……」
頼むぞコーラル社長、無茶をしてくれるなよー。
こうして、社長の財宝から幾らかが換金され、それでマンションは無事に購入されたのだった。
競売になる時点で、スパイスと迷宮省分署以外の住人はみんな退去していたらしく……。
マンションの中身はくり抜かれ、丸ごと社長の居室になってしまった!
さらに地下に財宝ルームがある。
「僅かでも我の財宝を出すのは嫌だったのだが……どうやらこの世界には、他にもかなりの量の宝が存在しているようだ。すぐに補充できると考えているのだ」
「力で奪い取ったりしないでくださいよー!」
「いかんのか」
きょとんとしている!
ドラゴンだなー!
「この世界は平和で文化的なので、基本は物々交換とか労働力を提供しての交換になるんですよ」
さて、ここからはショウゴだ。
吹き抜けになったドラゴンの部屋にて、コーラル社長に講義を行う。
「ドラゴンだった頃は、力が物を言う文化だったと思うんですが、この世界に至ってはそれは通じません。あまり無茶をすると強い相手が退治に来るかも……」
「わはははは! これは傑作だ! 我を退治に? 人間がこのドラゴンに勝てるというのか! 紛い物の亜竜などではない、正真正銘の竜である我にだぞ?」
「多分勝てる人がいるんですよねー。これは現在、業界トップの配信者の動画なんですが……」
きら星はづきが、イギリスにて風の大魔将を屠ったアーカイブを見せる。
光り輝くゴボウから伸びた、眩い光輝の刃が成層圏を貫いて星の外まで伸び、惑星周辺にまでいた大魔将の本体を、地上に降りた端末ごと両断する。
大魔将もむちゃくちゃ抵抗したっぽいのだが、これっぽっちも刃が立たなかった。
サクッと逝った。
これをじーっと見ていた社長が、ぶるぶるぶるっと震えた。
「なんだこの娘は。こんなものがいていいわけがなかろう」
「いるんですよ。しかもフットワークがめちゃくちゃ軽い。すぐここまで来て、社長をツンと突いて爆散させます」
「はわわわわわわ」
初めて恐怖を知ったみたいな顔をするコーラル社長。
「ま、ま、落ち着いて下さい。せっかく人間サイズになったんですし、コーラをたっぷり楽しみましょう」
「お、おう。おう。そうだ。人間が星の外まで届く光の剣を作って、宇宙を渡る魔王の眷属を一撃で二枚に下ろすなどあってはならぬのだ……!! あー、コーラ美味しい」
無事現実逃避に入った。
ドラゴンの目から見ると、やっぱりあの動画は真実にしか見えないんだろうな。
人類としてはとても心強いが……。
人類外としては脅威に違いない。
お陰で、社長はちょっとおとなしくなってくれそうなのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




