第135話 鎮圧！ スタンピード！
「せっ、先輩！ これはストップしたほうが……！」
「それもいいけど、誰かがスタンピードを止めないと、周りの住人が迷惑するからねー！」
スパイスは配信画面に向き直り、宣言するぞ！
「予定変更です！ ここからはスタンピードを鎮圧するぞー！」
「おー！」
元気に唱和するマリーさん。
やる気だなあ！
シロコはちょっと怖がってる感じだけど、ラーフを構えたら覚悟が決まったらしい。
「うおー！ やるしかないッスー！！」
「やっちゃおうシロコちゃん！」
「はいッス！」
奥様配信者二人が並ぶ。
マリーの手にはレイピア。
シロコの手にはラーフ。
なお、レイピアも刃はゴムなので安全です。
これが同接を伴うことで、本物の刃物と変わらぬ威力を発揮するわけだ。
「ではでは、不肖スパイスが音頭を取らせていただきまして……！ スタンピード鎮圧作戦、開始～！！ あっ、後ろからスパイスがついてくから、無理しないでね！」
「大丈夫大丈夫！ あの人のをいっつも見てるから！ 行くぞーっ！！」
※『あの人……！？』『マリーさんまさか人妻……！！』『デビューした瞬間から人妻設定は新しい』『いいですぞ～』
お肉どもは何でも受け入れるなあ。
そんな声援をいっぱいに浴びたマリー。
溢れ出すモンスターたち目掛けて、一瞬姿勢を低く構えたと思ったら……。
消えた。
いや、ものすごい速度で飛び出したのだ！
ゴブリンがまとめて三体くらい串刺しになり、『ウグワーッ！？』と断末魔を上げて光に還る。
突き刺さると抜くのが大変な刺突武器だけど、一撃で仕留めれば何の問題もないわけね。
そして切っ先が速すぎてスパイスにも見えなかった！
マリーはまるで、白い稲妻のよう。
ジグザグに戦場を走って、次々にモンスターを仕留めていく。
※『うおおおおおおお』『つっよ！！』マルチョウ『流石元迷宮踏破者だな！ アバターを纏って全盛期の体力になると、ここまで強いのか！』
ほんとにね！
アバターは不思議な技術で、見た目を変えるだけじゃない。
それを纏った人間の能力まで変化させてしまうわけだ。
ただまあ、本人の力を大きく超えるほどブーストはできない。
でも、強い人の肉体を全盛期に戻すくらいのことはできる。
もともと強いなら、もっともっと強くなるというわけなのだ！
「あーっ、出遅れたッス！」
シロコも慌てて後を走り出す。
彼女の場合、身体的には普通の人なんだけど……。
五種競技をやっていたから、選手時代の全盛期に身体能力が戻っている。
ゴブリンを飛び越えて、向こうからくるオーガにラーフの弾が何発も当たる。
ただまあ、自転車とフェンシングと水泳が今のところ死んでるな……！
そのうち強化したいところだねえ。
射撃とランニングを活かして、今は戦ってる感じ。
経験者だって言うだけで、全然強くなるのだ。
『ウグワーッ！』
オーガがスポンジ弾を何発も浴びてよろめいたところに、マリーが飛び込んできてレイピアで頭を串刺し！
オーガが消えた。
ナイス～！
「あのっ！ も、もう疲れてきたんだけどっ……！」
「あっ、マリーさんが息切れしてる」
※『短距離走型の配信者じゃったか』『汗で黒髪が額に張り付いてとても色っぽい』『ブランクあるからね、仕方ないね』
マリーが息を整えるまでの間、シロコがラーフで周囲を牽制している。
うんうん、決定力は低めだけど、シロコの強さは持久力と射撃の正確さだ。
ずっと走り続けながら、的確に牽制射撃を行うことができる。
でも、スタンピードは次々にダンジョンからモンスターが溢れてくるわけでして。
マリーが復活しても、倒し切るのは大変そうな状況だ。
「それじゃあ、スパイスがやりますかー！！ うおー、メタモルフォーゼだぞ！ 面制圧するぅー！」
『ん俺だ俺だ俺だ俺だ俺だぁ！！ 焼結ゥっ！！』
オレンジの輝きがスパイスを包み込む。
イグナイト・スパイス登場なのだ！
「フロータの力を借りてえ、ふわっと浮かび上がりぃ」
『自分のモードじゃないときは力を貸したくないんですけどね！ 主様だから特別ですからね！』
魔導書たちの縄張り意識みたいなのはそこそこ強いからなあ。
「空中から……爆裂火球連発！ おりゃりゃりゃりゃー！」
同接がいれば、実質無尽蔵に魔力が供給される。
その全てを爆裂火球の弾数に変えて、ガンガン地面に降らせるのだ！
ダンジョン入口から飛び出したモンスターが、次々に爆発に巻き込まれて『ウグワーッ！！』と消し飛んでいく。
弱めのモンスターならこれで十分！
対象のダンジョンも小さめだから、あまり強いのは出てこない。
「ひえーっ」
「身も蓋もないッスー！」
マリーとシロコが呆然としてる前で、スパイスはスタンピードで溢れ出すモンスターを一掃したのだった。
これが中規模だと、もうちょっと魔法を工夫しないといけないねえ。
ストンと地面に降り立つ。
「お疲れ様！ やっぱり配信者は凄いねえ。私から見ても遥かな高みにいるよー！」
「うんうん。先輩は魔法を使いこなしてるッスからね。頼りになるッス！」
「いやー、どーもどーも！ でも、なんか気になるんだよね。何の前兆も無かったのに、いきなりスタンピードが起こるなんて」
スタンピードは、長く放置されたダンジョンなどが、その中でモンスターを増殖させていった結果として起こる現象だ。
モンスターはダンジョンの中に自然発生する。
それが、収まりきらないほど数を増やした時、スタンピードが発生するのだ。
今回のダンジョンは比較的新しかったはずだけど……。
「もしかしてこれから、あちこちでこういうスタンピードが起こるかも！ 何か裏で動いてる気がするねえ……！」
これはしばらく、ダンジョンが一層危険になる予感なのだ。
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