第132話 始動! 奥様配信者計画
大京家の奥様の一人、真梨耶さんが配信者をやってみたいという話になっている。
新婚旅行も終わり、本日は平日を幾日か挟んでの土曜日。
俺とマシロは、都心のカラオケボックスに来ているのだった。
密談をするには本当に便利だよなあ……。
真梨耶さんは真っ白なコート姿でやって来ており、その下はやっぱり白いセーターに足の長さが映えるスラリとしたパンツルックだった。
おしゃれなパンプスを履いてらっしゃる。
「ううう、背丈が羨ましいッス」
「マシロさんだって可愛くて好きよ? 私、身長が170あるから可愛い服着れなくて困ってるんだし」
「あたしはかっこいい服が着たいッス」
「お互いままならないなあ」
そんな話を皮切りに、じゃあ配信者をやっていくにあたって、どういうことを考えていくべきかなんていう話を始めるのだった。
うーむ、眼の前の美人奥様、とても四十代には見えない。
俺の言葉を真剣に傾聴しているのだが、この目で見つめられただけで、耐性のない男ならばころっと行ってしまいそうだ。
「基本的には、ご趣味で配信されるんですよね?」
「ええ、そうなると思う。あと、敬語はいいよ。あなたの方が先輩なんだし。それにあなたは私の先生になるわけでしょ?」
「確かに。じゃあ砕けた口調で話すけど、配信は基本、同接を稼がないとなかなか大変なことになる。同接の数が実力のベースを上げてくれるから、これでモンスターと戦えるんだ。逆に言うと、これが無ければ生身でモンスターとやりあうことになる。これが厳しい」
「なるほどー。ちなみに、私は若い頃に配信というシステムなしでモンスターたちと戦ってたんだけど……」
「真梨耶さんなら、同接はちょっとでも全然いけるかもですね。勘を取り戻してもらえば、小規模ダンジョンなら一人で行けそう」
「ははあ、先生の見立てだとそうなのね。私も捨てたものじゃない!」
ニッコリする真梨耶さんである。
彼女、冒険配信というシステムが始まる前に、ダンジョンに潜って攻略していたツワモノなのだ。
かつて、冒険配信者は存在せず、迷宮踏破者という名でダンジョンを攻略する専門職が存在していた。
現代魔法のはしりみたいなものを、機械の補助を得ながら使用する彼ら。
生身でダンジョンに挑むわけだから、肉体的にも精神的にも強靭な人々だったのだ。
で、生き残っているということはその中でもかなりの実力者と言える。
実際、過去の記録を漁ってみると、大京さんと真梨耶さんがダンジョンを幾つも踏破した話が出てくる。
もう一人の奥さんの美幸さんは、二人の専属バックアップをしていた迷宮省職員だったようだ。
つまり、真梨耶さんはダンジョンとの戦いに慣れたフィジカルエリート。
そんな彼女が同接を得て、再びダンジョンとの戦いに身を置こうとしている。
これは歓迎すべきことだとは思う。
「でも、それならあたしは別に参加しなくてもいいのでは?」
解せぬ、という顔のマシロ。
ドリンクのメロンソーダをずびびっと飲んだ。
「リスナーが見るきっかけが必要だろ? シロコもたまに趣味で配信するくらいにして、その一環として真梨耶さんとコラボをすればいい。まずはあまり有名になり過ぎない程度でやっていこう」
「な、なるほどー。まあ、あたしはマイナーな方の配信者ッスから」
「登録者千人超えは全然悪くないぞ。むしろ個人勢だとやれてる方だ」
「先輩は五十万人超えてるじゃないッスか!」
「スパイスは規格外の方だからなあ……」
個人勢配信者だと、このレベルは間違いなくトップテンに入る。
俺と登録者数を争う一人に、可愛い配信者ランキングを争った彼女……いや、彼もいる。
サタン・イラ。
もう一人の美少女受肉型おじさん配信者……。何者なんだ。
「おっと、ちょっと物思いにふけってた」
我に返った俺だが、真梨耶さんが懐かしのアニソンなんかを歌っていて、マシロがタンバリンを叩いているではないか。
仲良くやってるじゃない。
「ジェネレーションギャップはあるッス」
「まあ、真梨耶さんマシロより二十歳くらい上だからな」
「下手をするとお母さんくらいッスよ」
「聞こえたぞー」
「ひぃー」
そんなやり取りをしつつ、予定を詰めていったのだった。
まずは、真梨耶さんのアバターを担当してくれるイラストレーターさんとの顔合わせがある。
何故かスパイスが相談役のようなポジションに収まっているのだ。
民生Aフォンは、この会議の帰りの足でゲットした。
機能については大京さんこと、スレイヤーVに聞いてもらうのがいいだろう。
『俺が長官であった頃に付き合いのあったイラストレーターだ。本人も配信者をやっているからな。理解があるぞ』
スレイヤーVの紹介を受けて、イラストレーターとの繋がりがあっという間にできたのだった。
その人は、たくさんの配信者のママをしている犬飼タマさん。
ザッコを使ったオンライン会議となった。
『はじめまして。犬飼タマですー。なんと、あのスレイヤーVさんの奥さま……!? 配信を始められるんですね! すごーい』
『はい! 主人が自由を取り戻して、毎日楽しそうに配信しているので、昔ダンジョンを踏破してた頃の血が騒いで……』
『血が騒ぐ!! かっこいい! いやあ、私はほら、趣味でちっちゃいダンジョンを攻略したりして、あとは雑談とゲーム配信がメインなんですけど……。でもでも、真梨耶さんのお話を聞いてたら創作意欲が湧いてきました。私、基本的にキャラ作るの大好きなんで……』
「いい感じっぽいねー! じゃああとはお二人に任せて!」
今回は、女性同士のやり取りということで、スパイスになってザッコに参加していたのだ。
なので、事前に犬飼さんと連絡を取って挨拶をし、そこから真梨耶さんに繋いだというわけ。
『いやいやいや、スパイスちゃんいてくださいよー』
『そうよー。共通の知り合いがいないとお話もちょっとぎこちなくなるし』
「えーっ、スパイスも犬飼さんとはこの間お喋りしたくらいの仲だよー」
『スパイスちゃんのキャラが安心するんですよ。じゃあ、真梨耶さんの新しいデザインはこっちで起こしておきますね。もう配信者ネームは決めたんですかー?』
『もちろんです! マリー・Dというですね』
「まんまだ!」
『まんまだ!』
ウワーッと盛り上がるスパイスたちなのだった!
結局名前はこれで行くことになり、『じゃあ、やっぱりシスター系ですかね! 武器はレイピアでしたよね? じゃあ十字架と組み合わせる感じ? 特定宗教をイメージさせたらアウトか。じゃあじゃあ、えーと……』
サラサラと描かれたラフが即座に送られてきて、スパイスと真梨耶さんで「うおーっ」と歓声をあげることになるのだった。
イラストレーターすげー!
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