第131話 新婚旅行の終わりと思わぬ提案
西表島を巡り、一泊した後さらに観光し……。
さらに翌日は石垣島に戻って史跡巡り。
「詰め詰めの新婚旅行だったッス!」
最終日の夜、ディナーの席で興奮気味に感想を語るマシロなのだった。
「ご満足いただけた?」
「大満足ッスねー。海外行ってみたいなーって思ってたッスけど、ほぼ海外ッスし」
「そうだよなあ。東京を遠く離れて、気候も文化も大きく違う八重山に来ると、本当に外国に来たみたいな新鮮さを感じる。俺も楽しかった」
毎晩、明日はどこに行くかというのをネットで検索し、当日もアドリブがちょこちょこ入る旅だった。
宿に戻るとWi-Fiがあるので、ネットの通信も安心だ。
いや、本当に街の外だとインターネットに繋がりづらくてなあ。
「ね、ね、ショウゴさん」
いきなり名前で呼ばれたのでビクッとした。
結婚してからも、先輩って呼んでくるもんなあ。
これは……何かおねだりをしようとしているのではないか。
「次は夏に来たいなーって。泳ぎたいッス!」
「よし、そうしよう!」
マシロと約束をするのだった。
配信者というのは、全ての稼ぎが自己責任である代わりに、あらゆる予定を生活の中にねじ込み、圧倒的な自由を満喫できる仕事なのだ。
実力さえあれば、いい仕事だよなあ。
今回で旅行の良さを知ってしまった。
またどこかに行きたい。
次は海外もいいな。
とりあえず、安全に旅ができる外国をピックアップするなら……韓国と台湾か……?
今からそんな事を考える俺なのだった。
こうして新婚旅行は終わり……。
俺たちは帰途につく。
石垣島から沖縄に到着し、東京行きの便を待つ途中。
マシロのスマホに連絡があったようだ。
「あっ、真梨耶さんッス! 旦那さんのツテで絵師さんに依頼して、顔合わせをするんで付き合って欲しいそうッス! 行動が早い!」
「大京さんの奥さんらしい行動力だ」
有言実行である。
これは、マシロの完全復活と奥様配信者同士のコラボ、すぐに行われそうだ。
フライトの時間がやって来て、東京行きに乗り込む。
帰りはビジネスクラスでいいよな……?
漫画喫茶の普通の部屋くらいのゆったり感である。
寝るには十分。
エコノミーだと体が痛くなるもんな。
行きで発揮したもったいない精神も吹っ飛び、俺もマシロも爆睡して東京に向かった。
そして空港着!
沖縄からなのになんて速度だ。
「異世界経由する?」
「そうッスね……。明らかにこっちでリムジンバスから電車に乗って帰るより、そっちの方が早いッスよね」
「圧倒的に早いし、安い」
空港の店で、あるだけコーラを買った。
店員さんが目を丸くしている。
これが移動賃になるんでね。
『ここでぱぱっと変身しちゃいましょう! 異世界行き? そんなの魔導書が四冊もいたら、無理やり空間をこじ開けて移動できますから!』
フロータがとんでもない事を言っているが、これが空港からの異世界行きを決断させる一言になった。
イグナイトとマリンナが協力して霧を起こす。
空港の一角だけの局所的な霧だ。
「メタモルフォーゼ・スパイス」
ぼそぼそっと言って変身した。
横ではマシロもシロコになっている。
突然の霧で騒然とする空港内を、こそこそと脱出するスパイスたちなのだ!
霧はすぐに晴れた。
後で事件になるかな……?
ごめんね!
っていうことで、空港の外なんですけどー。
「あっ! スパイスちゃんがいる!!」「旅行から帰ってきたんだ!」「石垣島楽しかった?」
「お肉どもじゃーん! 楽しかったよー! 配信見てくれてありがとー!」
これから空港を利用しようというお客の中に、お肉どもが混じっていたとは!
そんな彼らの眼の前で、四冊の魔導書が空に舞い上がり……。
ぐるぐる回転しながら異世界への入口を作る。
そこを目掛けて、スパイスはシロコを連れてジャーンプ!!
「うわーっ、スパイスちゃんが消えた!」「えっ!? どうやったの!? 魔法!?」「本当に魔法少女だったんだ……」
びっくりしたことでしょう。
スパイスも初体験ですよこれ。
ってことで、異世界に降り立ち……。
ステータス画面を開いて、コール・グリーンドラゴンを使用した。
ドラゴンを意匠化したマークが輝き、魔力を放つ。
『おっ、来ますね来ますねー』
「呼んだらすぐに来たねー」
グリーンドラゴン、到着!
そしてスパイスが買ってきたコーラのペットボトルを、パクパク食べている。
『うむうむ。貢物も十分だ。どれ、また運んでやるとしよう』
「ひえー、ドラゴンの上は二度目でも緊張するッス……」
「スパイスも別に慣れてるわけじゃないからね! この体だとクソ度胸が発揮されるだけだから!」
二人で乗り込み、ドラゴンは空へ!
異世界の移動はあっという間だ。
ドラゴンが速いというのもある。
そんな空の旅の途中で、ドラゴンがぽつりと言った。
『この体では、黒き貢物は十分に味わえぬな』
「どうしたのいきなり」
『我は今、この世界で宝物を守り続ける事の意義を考えている。あの量なら、魔法の宝物庫にしまって持ち歩けよう。スパイスよ、貴様の住む世界には、より多くの宝物があると見た』
「おおーっ、どうしてそういう考えに!」
『我が知らぬ、あの黒き貢物はその一つに過ぎまい。我には分かるぞ。もっと凄いものがたくさんあろう。この世界からも多くの者達が貴様の世界に向かっている。我が降り立っても問題あるまい』
「こっちに来るの!? ドラゴンはどうかなあ!」
『くはははは! 問題ないわ! この間食った、魔法を使う者がおっただろうが。あれを基準にしてこの身を作り変えれば良い』
目的地の廃墟に到着。
ちょっと向こうに、我が家に続く窓が浮いている。
『竜の巨体は仮初の姿。この姿であった方が、いらぬ争いを避けられる故な。必要とあらば姿を変えるのが我らよ。星々を渡る事に比べれば、異世界の人間に近い肉体を構成することなど容易い容易い』
「なんか気になること言いまくってるんだけど! もしかして宇宙を渡ったりしてる系ドラゴン!?」
『そおれっ! 肉体を再構成……我は人となる……!』
ドラゴンの巨体が一瞬で霧のようなものになって、ぶわっと広がった。
次の瞬間、霧が猛烈な勢いで収縮していき……。
人間の姿に変わっていた。
ちょっとファンタジーっぽい、赤いドレス姿の女性だ。
精神の魔女を核にして、人間の肉体を作ったって言ってたな。
頭には角がある。
そして尻尾もある。
髪の色は金色で、オレンジのメッシュが入っている。
「ふむ、この肉体なれば、黒き貢物を存分に味わえよう。あの貢物はなんと言ったか?」
「コーラだね!」
「ひえー、お、お、女の子になっちゃった」
マシロがガクガク震えている。
『ドラゴンが人の姿になることはたまーにありますねー。魔力が凝縮されてとんでもないことになってますよー!』
フロータたち魔導書もわちゃわちゃ言う中、ふーむ、とドラゴンは考え込んだ。
「我にはこの世界で名乗る名は無かったが……。決めておくのが良かろうな。よし、我はコーラルと名乗ろう。そう呼ぶが良い」
「うおー、なんかいい感じじゃない? 尊大な口調で偉い人っぽい! よっ、社長! 会長! 国王!」
「社長……? 良く分からんが好きに呼ぶがいい。我はこちらで情報収集した後、そちらに行く。コーラを用意して待て」
「はーい。うちのマンション、空き部屋あるみたいだからそこに住んでもいいかもね」
「ふむ、有用な情報だ。巣は重要であるからな」
ということで!
人になったグリーンドラゴンのコーラル社長が、こっちの世界に住み着くことになりそうなのだった。
「先輩……! なんかこう……平穏な結婚生活が遠ざかる音が聞こえるんスけど……!」
「大丈夫大丈夫! 世の中、なるようになるから!」
スパイスはそれを実践しているからね!
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