第117話 飛翔! 空からスパイスがお送りします!
「どーもー! こんちゃー! 今スパイスがー! どこにいるかー! わかりますかー!」
※『こんスパ~!』『こんちゃ!』『なんかびゅうびゅう風の音がする』『どこにいるの?』『スパイスちゃんの髪が逆立ってる!』
「実はー!」
ここでフロッピーに搭載されたカメラが、表裏反転する。
映し出すのは、東京湾入口。
すぐ後ろに金田湾の辺り!
一面の海と空と、ちょっぴり陸!
「空でーす! 今スパイスは、とある任務を果たすために空を飛んでいます! うおー! たけー!! こえー!」
※『ひえー! 気を付けて!』『なんで空から配信?』『空にダンジョンがあるの?』
「ダンジョンはねー、あそこ! ほら、ちょうど湾の入口で出口な辺りに、槍状の巻き貝みたいな建造物があるでしょ。あれ、海の魔女の城。実は今、東京湾は大変なことになってるんだよねー!」
巻き貝は、海底にあった岩やジャンクをかき集めて城塞を作っており、そこはさながら迷路のようだ。
外側から取り付くにも、船が接舷できる場所はなし。
「ということで、スパイスは空から写真を撮影して、魔女の城の情報を仲間に送るのが使命でーす! おりゃー行くぞー!」
「合点だ!」
※『なんか声がした!』『よく見たらスパイスちゃん、なにかにぶら下げられてる』『なんだろう……?』『はためくコート、あの声……。八咫烏……!?』
勘が鋭いリスナーがいるねえ!
今現在のスパイスは、空を滑空する八咫烏からワイヤーで吊り下げられ、手には望遠機能付きカメラを持っているところなのだ!
最近のカメラ、オートフォーカスしてくれるから便利だよねー。
どんどん性能が上がってる。
ここからでも魔女の城が確認できるなあ。
城壁に阻まれて、海からは中を覗けない。
だけど空からなら丸裸だ!
もちろん、侵入を防ぐべく向こうの攻撃もやって来るわけで。
「海のモンスターが飛んでくるけど、付け焼き刃の翼かな? ちょっとぎこちないよね。簡単にヘッドショットが決まる。ほい、また一体!」
八咫烏がそれを次々撃ち落としている。
さすが、ラーフの扱いは慣れたものだ。
だけど向こうの守りは厚く、とても魔女の城に近づける状態ではない。
なお、ヘリや飛行機だと、単独での攻撃手段がないために接近は不可能だと思う。
スパイスは散々遠方からの撮影をした後……。
「ちょっと角度を変えて撮影したいかなー」
「了解だよー。滞空時間もう残り少ないからサクサク行こう」
「任せたー!」
八咫烏の滑空は時間制限ありだった。
どうやらこの飛翔と滑空に、ダンジョンコアを精製した燃料を使うらしく……。
飛べるのは一回につき、およそ一時間。
角度を変えてもらい、別方向から撮影撮影!
うおー、魔女の城を激写だー!
あっ、望遠で魔女の姿が見えた。
巻き貝の城の上の方から顔を出している。
群青色のローブみたいなのを着た女だ。
全身から触手みたいなのが生えてて、それが城に繋がってる。
モンスターみたいになってるねー。
※『うわっ』『グロッ』『あれが海の魔女ですか……』『デーモンじゃん』
「魔女はモンスターっぽくなりやすいのかな? 炎の魔女も変な姿になってたもんねー」
『んそれはだなぁ!』
「あっ、噂をしたら解説のイグナイトさん!」
『ん俺がぁ説明しようぅ!! 魔導書の力はぁ、使いこなすほどにぃ、肉体に変容をもたらすぅ! そいつの心象イメージがぁ、魔女の変化する姿になるわけだぁ!』
※『つまり、スパイスちゃんもいつかは変わっちゃうってこと!?』『いやだー!』『俺たちの幼女のままでいてくれー!』
悲痛な叫びだあ!
『主の場合はぁ、もう変化形態を作った後だから特に変わらないぃ。今の時代は心象イメージをぉ、割と自由にできるんだなぁ。俺は感心したぁ』
「あー、イグナイトフォーム! やっぱ変身フォームを分けておいたの正解だったねー」
※『ほえー! スパイスちゃんの二重変身にそんな理由が!』『社会も趣味も、依存先が多いほうがいいって言うもんな』『たくさん魔導書があるから、染まりきらないのかー』
うんうん、どうやらそうみたいだねー。
それぞれの魔法に特化したフォームがあることで、魔導書による侵食がストップするわけだ。
お陰で複数の魔導書を使いまくれるぞ!
「スパイスちゃん、撮影撮影!」
「あっ、そうだった! おりゃー! 激写ー!」
海からは、次々に巨大な槍状の貝殻が撃ち出されてくる。
これを八咫烏は風に乗りながらふわふわと回避。
危ないものはラーフで払う。
すると、ラーフの腹についている銃剣がこれを切断するのだ。
「おっとと、そろそろ燃料が……。写真は撮れた?」
「撮れたよー! バッチリ! ヤタさんさんきゅー」
「どういたしまして。戻るぞー!」
「ってことで、空の旅はここまで! 三十分くらい小休憩したら、いよいよ魔女の城の攻略をするぞー! お肉ども準備しろー!」
※『いえーい!』『待機!』『楽しみー!』
これにて映像は一旦ストップ!
音声をミュートにして、スパイスたちは南房総市側に降り立つのだ。
そこには、なんかいかついボートがあった。
先端にドクロ型の衝角がついてて、火炎放射器とか弩弓みたいな装備が設置されてる。
こ、これはもしかして……。
「ヒャッハー! 俺のリスナーであるモヒカンどもの私物だぜー!! 特別に貸してくれることになったーっ!!」
「うおー!」
チャラウェイと、彼の横で拳を振り上げてヒートアップする革ジャンのおじさん。
おじさん所有の改造ボートなんだねえ。
なお、火炎放射器はそれっぽく見えるだけで、夜間用の明かりだし……弩弓は漁に使う銛なんだそうだ。
そう、おじさんは漁師なのだ!
「チャラちゃんの人脈炸裂だねー。おじさん、船をお借りしまあす」
「おう、存分に使ってよ! 俺の船でダンジョン攻略を手助けできるなんて、最高の栄誉だー! やっちまってくれチャラウェイ!」
「ウェーイ! 任せておけよ!」
船の中には、既にスレイヤーVとDizもいる。
スパイスが撮影した写真データを受け取ったDizが、うんうん頷いた。
「これで行けますねー。外部攻撃チームがスレイヤーさんとチャラウェイさんで、内部侵入チームが私とスパイスちゃんと八咫烏さんかな。スレイヤーさんは機動力が無くても攻撃と防御できるし、チャラウェイさんは船の装備で戦えるでしょ。八咫烏さんは燃料切れだから中に入っちゃった方がいいし、術者である私も中。本日の主役のスパイスちゃんも中だからね」
「おおー、この総攻撃感、フォーガイズ+1だねえ」
スパイスの呟きを聞いて、チャラウェイが「それだ!」と指さしてきた。
「なになに!?」
「コラボ名だよ! フォーガイズ+1で行こうぜ。今から宣伝だ。タグは#フォーガイズ+1……と。大いに盛り上がって欲しいもんだぜ! なにせ、あの城のせいで船が出せなくなって、みんな困ってるからな!」
「そっかー! そんじゃあ海で仕事をするみんなのために、頑張るしかないね! やるぞー!」
スパイスが拳を突き上げると、みんなが唱和して「おーっ!」と叫ぶのだった。
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