第116話 海の魔女攻略作戦
結婚式も披露宴も二次会も終わり。
正式に我が家にマシロが引っ越してきた。
実質3LDKだから余裕ではある。
一室が異世界直結なだけで。
この異世界直結部屋は迷宮省側に提供しており、シノと時折やって来るスタッフが昼間は仕事をしている。
だからプライベートルームではないのだが……。
毎月結構な使用料が振り込まれるので、ありがたい。
他は寝室用の四畳半間だが……。
ここはゲーム配信などで使用する部屋とした。
寝室はリビング横の和室で足りてしまうからな。
とにかく一室一室の大きさがあるので、ゆったり過ごせる。
そんな広い部屋を、魔導書たちがわあわあ言いながら飛び回る。
『ついに主様にお世継ぎが~!』
『んめでたいぃ! めでたいぞぉ! 夜には外でぇ、花火を打ち上げてやろうぅ!』
『いつでもその気になる魔法を掛けるでやんすよー! 大盛りあがり間違いなし!』
「せ、先輩、この人たちめちゃくちゃ盛り上がってるッス!!」
「ああ。だから新婚生活も全く二人きりじゃないからな……」
「ううっ、でも先輩を逃すとこれ以上の男は絶対に出てこないとあたしは確信してるッス。魔導書と上手く付き合うッス」
その後、夫婦生活中などは和室への侵入厳禁という約定が締結された。
よし、プライベート確保。
そんな新生活準備を行いながら、海の魔女への対策を同時進行する俺なのだ。
配信用ルームにて、フォーガイズの面々+Dizと会議をする。
「海底の残骸を寄せ集めて城を作っちゃったんだろ? あれをどうにかしないとな……」
『世間の目は、はづきっちのイギリス大魔将攻略に釘付けだからな! 世の中が注目しないうちに片付けちまおうぜ。ニュースで大々的に取り上げられ始めたらやばい。興味本位で近づく奴らが絶対出てくるからよ!』
チャラウェイの言葉に、みんな頷くのだ。
世のお祭り好きな人々というのはなかなかおバカなので、危険を察知できずにそういうことをよくやるのだ!
『こちらで船を用意して乗り込む必要があるだろう。だが、魔女もそれは理解しているはず。恐らく上陸阻止をするために手を尽くしてくる』
『ジオシーカーは、あそこの写真だけいただければできるんですけどー。壁が邪魔して横からは撮影できないので、誰かが空から撮ってくれれば……』
いけるんだ!?
瞬間移動と同じような次元の、現代魔法の最高峰、ジオシーカー。
修験道の縮地を極めたDizだからこそ使える、俺が知る限り一番ヤバい魔法だ。
「古き魔女から話は聞いてるんだけど、あの城はダンジョン化してて人工衛星からはモザイク状態らしいんだ。だから何らかの手段で直接撮影しないと……」
『……ということは』
ここで黙っていた八咫烏が口を開いた。
『僕、ある程度の距離なら飛べるでしょ?』
「飛べるの!?」
『配信でよく飛んでるじゃん! 八咫烏っていう名前もそこから来てるんだし。コートがね、現代魔法で飛べるようになってるんだ。で、これで僕が飛んで、迎撃に来るやつと戦いながら……スパイスちゃんをぶら下げて撮影をしてもらえばいいんじゃないかな?』
「スパイスが!?」
『あ、それいいな!! 俺、機材バックアップするわ。ちょうど頑丈でいい写真が取れるカメラをレンタルできるからさ』
『なるほど! それならいけるな!』
『いいですねー! 写真送ってくださったら一発でそこまで全員をジオシーカーできますよー!』
「うおーっ!! 話が怒涛のように進む!!」
全員が優秀で、しかもやる気満々だから転がりだした話は止まらない。
「ま、まあ運ばれるなら、スパイスが一番小さくて軽いからな……」
『うんうん、それで行こう。で、僕思うんだけど、魔女はオープンにしちゃおう。攻略までをリアルタイムでやってエンタメにするんだ。どう?』
『なーるほど、現地にバカがたどり着くまでに決着させちまうわけか』
『スピード勝負は間違いなく重要だろう。現状、あの城のせいで東京湾から外に出ることが叶わなくなっている。海の魔女は国益を損ない続けているんだ。きら星はづきには、もっと強大な存在と戦ってもらう必要がある現状、人の中から出た悪は我々が叩かねばならない』
『長官っぽいこと言いますねー』
『あっ、済まない。職業病だ……。俺はもうフリーなのになあ』
大京さんは使命感が強いなあ。
それにこれ、俺がメインになってる事案だしな。
好き嫌いは言っていられない。
「よし、それじゃあ、八咫烏発案の作戦で行ってみましょうか!」
海の魔女攻略作戦開始なのだ。
今のところの実害はそこまでではないけれど、害が出る前に粉砕する必要がある!
準備は今から。
実行は明日。
急遽決定したのだった。
そしてツブヤキックスで一斉にコラボ配信の連絡。
冒険配信者を追いかけているリスナーにとっては、こういう急な配信告知も慣れたもの。
すぐさま反応があり、大いに盛り上がる。
世の中はきら星はづき関係で話題持ちきりだろうが、世界はそれが全てではないのだ。
「し、新婚だというのに旦那さんが忙しく仕事ばかりしてる!」
「配信者ってそう言うものだからね……!」
特に、冒険配信は人の命が掛かってるので、土日祝日、新婚だろうが葬式だろうが関係ない。
これが終わればちょっとだけのんびりできるだろうから、待っていてくれマシロ。
こうして俺は、魔導書たちを連れて現場へと向かうのだった。
海の城がある場所は、神奈川県三浦市と、千葉県南房総市を線で結んだ辺りのちょうど真ん中。
邪魔な所に作ったなあ!
我が家からは、まだ神奈川の方が近い。
異世界を経由して、三浦市近辺に降り立った。
少しして、マネさんの車に運ばれて八咫烏もやって来る。
「八咫烏さん、本人に任せると絶対遅刻しますからね! スパイスさん、よろしくお願いします!」
「あっはい、任されました!」
「人聞きが悪いなー。僕はほんの三十分くらい個人的に余裕を持って来るだけじゃないか」
「三十分遅れの常習犯ってことですからね。では、お気をつけて!」
マネさん、走り去る。
苦労してるなあ。
さて、ここから八咫烏と一緒に飛び上がって、海の城を撮影。
そのまま海上に繰り出した大京さんたちと合流し、海の城までジオシーカー!
海の魔女攻略作戦、行ってみよう!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




