第104話 コラボ配信への感想会
「見た見た!」
「見たよー」
「いいコンビだったな」
ここは大京嗣也邸。
お招きにあずかり、俺はマシロを連れて来訪したところだ。
大きなマンションの、一階に2フロアしかない上層階の一つ。
当然、かなり広い。
リビングにて、テーブルの上に置かれた巨大なホットプレートの中……。
大京さんの奥さん方とお子さんたちがせっせと作った餃子を並べていく。
餃子パーティーだ。
マシロも「お客さんなんだからゆっくりしてて」と活発な方の奥さんに言われたが、「いえ、あたし、動いてる方が楽なのでお手伝いするッス!」とお手伝い中なのだ。
うーむ、本当に奥さんが二人いる。
一人は、髪が長い女性で、活発な印象。
ややふくよかな感じもして、なるほど大京さんの横に並ぶと絵になる。
「私も元は迷宮踏破者でー。あ、昔ね、冒険配信がなかった頃は迷宮踏破者って言っていたの。パパは私の高校の先輩でね、それで誘われて一緒に迷宮踏破者になって……。あー、色々あって大変だった……」
「へえー! そういう御縁だったんスね!! いいなあー。幼馴染じゃないッスかー」
「そういうマシロさんはどうなの? やっぱり先輩と後輩だったんでしょ?」
「は、はい。大学の……」
「いいわねー!」
もう一人の奥さんは、ショートカットでスレンダーな女性。
今はフリーランスになって迷宮省とやり取りしているそうで、もともとは職員。
「うんうん。私は迷宮省絡みで嗣也さんの担当をすることになって、それが御縁だったから。もう真梨耶さんがいたからダメだと思ってたけど」
「ねー、美幸と私、二人とも受け止める! ってすごかったよねえー」
「ほえー」
マシロがなんか呆然としている。
英雄の若かりし頃の話だな。
「ママたちお喋りばっかり!!」
「ぎょうざつくって!!」
「あー、怒られちゃった!」
「やりましょやりましょ」
ニコニコしながら奥さんたちは作業に戻るのだった。
そこで……冒頭に戻る。
話題は、俺が先日コラボしたきら星はづきとの配信。
みんな俺よりもずっと先に、彼女と接触していたんだそうだ。
「まあ、俺は立場上ほんの浅いものでしか無かったが……。アバターを作ってもらったんでな。今では配信者としてのママと言っていい」
渋い外見から飛び出すママ発言。
綺麗な奥さんが二人おり、子どもたちもいるのに躊躇することなき男らしさ!
なお、配信者はアバターのデザインをしてくれたイラストレーターを、ママと呼ぶ業界の風習がある。
それを考えると、スパイスはママがいないんだよな。
あのチャラウェイすらいるのに……!
「今スパイスさん、チャラウェイですらママがいるのにって思った?」
「察しが良いな……!」
ドッと笑う一同。
餃子がいい感じに焼けてきた。
焼き餃子奉行らしい、ショートカットの奥さん、美幸さんが仕事人の目をしながらちょっと水を入れて蓋をした。
おお、ジューッという音とともに、蒸気で満ちるホットプレートの中。
「僕とチャラウェイはね、去年のはづきちゃんの学園祭にも行ってるんだよね」
「ほえー。その頃って俺がまだデビューしたかしてないかくらいだよね」
「そうそう。だから割と付き合いは長いっていうか、彼女がまだただの学生さんだった頃に会ったことあるんだけど、彼女は覚えてないかもねー」
八咫烏、そんな早い時期に遭遇を!
そしてチャラウェイはきら星はづきとの初コラボの相手だ。
なんだかんだで、みんなあのトップ配信者の少女のお世話になっているな。
「世の中、本当にいるんだなあ……。アニメの主役みたいな子が」
俺が呟いたら、フォーガイズの残り三人がじっと見てくるのだ。
「スパイスさんが言うか」
「君も大概でしょ」
「背負ったものの多さでは負けていないと思うがね」
そ、そうかー!?
自分が話題になるとちょっと挙動不審になってしまうな。
ここで焼き餃子が完成した。
美幸奥様の手によって、餃子がより分けられてくる。
さらに真梨耶さんが入れてくれたビールが並ぶ。
「では……乾杯!」
餃子が揃って、初めて許される乾杯!
大京さんも全ての采配を奥さんたちに任せているので、これはいい感じで尻に敷かれているのかもな。
ビールは美味かった。
餃子も大変美味しかった。
途中から、マシロは子どもたちの相手をしたりしてくれていて、大変ありがたい。
持ってきていたフロータも飛び出して、
『様子を見てましたけどしっかりしたお子さんたちですねー! 本を汚さなそう! どーれ、私が魔法の初歩的な手ほどきをしてあげましょう!』
とか言い始めたのだった。
過去のダンジョンの脅威を知る奥さんたち、警戒……!
俺が慌てて、比較的良い魔導書なので危険は比較的少ない旨を説明することになってしまった。
『主様ー!! 比較的ってなんですか、比較的ってー!!』
「断言はできないからな……」
「ねえおじさん! スパイスちゃんなんでしょ?」
「変身して変身して!」
ぬうーっ、大京さんのお子さんたちに迫られている。
振り返ると、奥さんたちがキラキラした目でこっちを見ていて、大京さんは餃子で白飯を食べるのに夢中ではないか。
なんたること。
「仕方ないな……。いいかい? 君たちの友達には内緒だぞ。行くぞフロータ」
『合点承知です! うおーっ、魔力解放! 主様どうぞー!』
「メタモルフォーゼ・スパイス!」
白黒の光が螺旋状に湧き上がり、俺の全身を包み込む。
俺は輝きの中で、黒胡椒スパイスに変身したのだった。
「じゃじゃーん! どーもー! スパイスでーす!」
「スパイスちゃんだー!!」
「かわいいー!」
「本当に小さな女の子になっちゃった……!」
「どうやって収まってるんだろう」
それはスパイスも不思議に思ってるところですねー!
「それでスパイスちゃん、どうする?」
お子さんたちとわちゃわちゃ遊んでいたら、チャラウェイが尋ねてきた。
「なあにー?」
「はづきっちがさ、学園祭今年もやるから。一緒に見に行く?」
「行くー!」
頭の中までスパイスになっているので、条件反射で答えてしまうのだった……!
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