第103話 参考になったような、ならないような。
ここからは二階の探索になった。
やっぱりリスナーへのアピールは大事だからね。
空中に光の魔法陣をわかりやすく展開して、そこから魔法を使うようにしているのだ。
受けた受けた。
やっぱり世の中は、目立たないがコツコツやるよりは、見た目でバーっと分かりやすくやる時代だね!
やり過ぎは絶対にヤバいしっぺ返しがくるけど。
「ほえー、すっごい。現代魔法はほら、Aフォンを使ってコード入力すると使えるんだけど、効果は大抵限定的なんだよね」
「そうなんだー。スパイスは現代魔法使ったこと無いから分かんないなあ」
これは本当。
本物の魔法しか使ってないからね!
『ん主ぃ! 俺はこの女の前でぇ! 名前を呼ばれたくないのでぇ! 偽名で頼むぅ! かっこいいのを考えてあるのだぁ!』
「ほうほう、その偽名というのは」
イグナイト、はづきっちを警戒している。
御本人は魔法を使うタイプでもないらしいのに、何が怖いのか。
『フレイムルで行こうぅ』
「おー、厨二っぽい! じゃあそれで! 魔導書フレイムル!」
『おぉーう!!』
念話で威勢のよい返事をして、イグナイトが飛び出した。
「エクスプロードファイアボール!!」
音楽室に出てくる、額縁みたいなモンスターめがけて、炎の球が飛ぶ。
それは動く音楽家の額縁に炸裂すると、パーンと弾けて周囲一帯を火の海に変えた!
『ウグワーッ!!』
なお、モンスターが燃えてしまうと鎮火するよ。
しっかり制御された炎の魔法は安全なのだ。
「べ、ベートーベンがやられた!」
※『はづきっち、あれブラームスやで』
「え、ほんと? 言われてみればヒゲが生えてたような……」
コメント欄となんとも呑気なやり取りをしてらっしゃる。
あっ、爆炎の中から飛び出すブラームス!!
「こいつ、ガッツがあるぞ!」
『んやはり上位のデーモンだろうぅ!!』
ブラームスの口から怪光線!
「うわおー!」
スパイスは慌ててレビテーション!
飛び上がって回避した。
「ブラームスなのに音楽で戦わないの?」
※『はづきっちがツッコミを入れるとは……』『これ、モンスター側がガワだけマネてるんじゃね?』『ツッコミ入れてる場合かw!』
「みたいですねー。じゃあ私がやってみましょう。私もほら、魔法みたいなものを使えるので……。ここにまたアンチのコメントから生成した式神がですね……」
アンチのコメントから生成した式神!?
彼女のAフォンが輝くと、そこから折り紙で作られた人形みたいなものが飛び出してくる。
『うおおおおお! ん恐ろしぃぃぃ! 人間の意思と生命力を吸い上げて練られた呪詛の塊をぉ、容易く操る怪物ぅ!』
「そんなヤバい案件なんだ? かわいい現役JKトップ配信者が、実はとびきりの呪詛使いだったとは……。確かにこれ、真の名を絶対知られちゃいけないタイプだわ」
そう言えば大京さんも、他人の悪意とかアンチを燃料に使う配信者がいるって言ってたような。
まさか当代のトップ配信者がそうだとは思わないじゃん!
あっ、準備中に寄ってきたブラームスをデコピンでふっ飛ばした。
別に呪詛を使わなくても肉弾戦で楽勝なのでは?
『あれは主様に対抗意識燃やしてる気がしますねー。呪詛使いとしては超一流なのであれだけでメイン張れますけど、あの怪物女はその呪詛すら気分で使ってもいいくらいのオマケになる次元なんで』
「ひょえー」
実際にコラボして分かる、トップ配信者の化け物ぶり。
逆らう呪詛を、物理的につついて見せしめで一匹壊して恐怖を与えたきら星はづき。
従順になった呪詛が結界を作ってブラームスの額縁を閉じ込める!
そこにバーチャルゴボウをコツンとぶつけると、ブラームスが『ウグワーッ!!』と砕け散った。
とんでもねー。
だが、スパイスはきちんと仕事をやっていくぞ!
社会人だからね!
「はづきちゃんやっぱりすごーい! スパイスの魔法だと、まだまだ強力なモンスターは仕留めきれないなあ……」
「私のはこう、力押しだからね……!! まあスパイスちゃんが魔法少女なら、私は陰陽少女なので……」
※『陰陽少女wwww』『抜かしおるwww』『呪詛少女では?』
「むきーっ! おまえらー!」
コメント欄とプロレスしてる。
だけど、力押しも必殺のワンパターンになれば何の問題もないんだよなあ。
彼女の場合、それを成し遂げている。
そしてここで一旦休憩し、振り返りになった。
「ここで九つ目の七不思議だねえ。七不思議なのに九つとはこれいかに」
彼女が首を捻り出したので、大人として割り切りを伝えておくことにする。
「まあ七不思議が七つ以上あるの、ゲームだとあるあるだよねえー。深い意味はないんじゃない?」
「言われてみればそうかも知れない……。さて、それじゃあ次の七不思議は……十個目だよね」
言葉にされると明らかにおかしいな!
スパイスは思わず笑ってしまう。
「十個目の七不思議……あはははははー」
はづきっちもコメント欄も、なんかほっこりしている。
かわいいのコメントがザーッと流れていって、おおっ、パワーアップを感じるぞ。
やっぱりスパイスはかわいさで勝負だな。
戦いのステージが違うのだ。
当面のライバルは、はづきっちの後輩たる、イカルガエンターテイメントの鹿野もみじちゃん(配信者可愛さランキング3位)、そしてまだ見ぬバ美肉おじさん、サタン・イラ(配信者可愛さランキング2位)ちゃんだろう。
はづきっちが組織票ですら5位にしかなれない、恐ろしいランキングなのだ。
さて、最後の七不思議なデーモンは合わせ鏡だった。
鏡は一枚しか無いのに、覗き込むと背後にも出現する鏡。
無限に連続した鏡の向こうから、もう一人の自分が手を伸ばして、鏡の中に引きずり込んでくる……!
みたいな。
「どれどれ?」
覗き込んだはづきっちの眼の前で、鏡の中が無限の合わせ鏡になる!
自分から罠にはまりに行く人がいるかー!
「ちょっとはづきちゃん! 後ろに鏡が無いのにどうして一枚だけで合わせ鏡になるの!?」
「そう言えば確かにー!」
鏡の奥のはづきっちがニヤリと笑い、手を伸ばしてきた。
『精神に作用する魔法攻撃でやんす!! かなり強力なやつでやんすよー! 恐らく巷で確認されてる魔将ってやつでやんす!!』
「それほどまでに!?」
これは大事になったと思ったのだが……。
「あちょ!」
はづきっちがいつの間にか抜刀していたバーチャルゴボウで、その精神攻撃をペチっと叩いたのだった。
精神攻撃を叩く……?
『あっ、精神にも通用する物理攻撃!! あっしの天敵でやんす!! コワイ!』
『ウグワーッ!!』
鏡はパリーンと割れた。
周囲のダンジョン化がものすごい勢いで解けていく。
ダンジョンボスを倒してしまったようだ。
そんな、身も蓋もない。
後にはコロンと、特大のダンジョンコアが落ちていた。
これをはづきっちが、「あちょー」とバーチャルゴボウで叩いて二つに割る。
「では、半分はスパイスちゃんに!」
「どーも! いやー、はづきっちすごかったー。参考になった……ような全然ならないような」
「えへへ、コラボで私も緊張してて。それにしても不思議なダンジョンでしたねー。いやあ、最後は何が起ころうとしてたんでしょうねえ……」
無意識のうちだったか!
恐ろしい人物だ。
だが、味方につけておいてこれ以上に頼もしい人はいないだろうね……!!
「いやあー、はづきちゃん凄いなあ……。チャラちゃんとヤタさんが言ってた通りだあ」
あと、大京さんもね!
ってことで、その後もかわいいコメントをたくさんいただき、スパイスのちゃんねるの登録者も無事に増えるのだった。
得るものの多いコラボだった気がする……。
そして魔導書たちは世の中で本当に恐ろしい相手というのを知ってしまったみたいだった!
コラボが終わった後……。
『生き残れた~!!』
『ん生きた気がしなかったぁ!』
『先代の主……あのメンヘラ女でやんすが、今の主が最後の相手で本当に良かったでやんすよ!! あいつとぶつかったらなんもかんも破壊されて粉砕されてたでやんす!!』
「彼女はまあ、生きながらに伝説になってるような例外中の例外なんでね。でもこれで完全に身内だ。やりやすくなるぞー」
『全て計算ずくの主様……! 恐ろしい子……!!』
なんかフロータに畏怖されたりするのだった。
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