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第五話 恋煩い


「はぁ………」


 あのあと美咲はなんとかサイン会に参加することができた。美咲の最近のお気に入り『後輩に姉の様に慕われていますが、どうやって恋人になれるんでしょうか?』の最新刊を手に入れた美咲はカフェで休憩しながら漫画を読んでいた。


「名前聞いておけばよかったですね………」

 

 好きな漫画を読んでいてもあの男のことが頭によぎり漫画に集中できず、宙を見つめていた。しばらく見つめたら息を深く吐き再び漫画を読み始める。



『せ、先輩…。僕、なんでこんなにモヤモヤしてるの?なんでこんなに心臓がうるさいの?』

『ごめんなさい。私好きな人がいるんです』

『そう、か。ごめんね急にこんなこと言っちゃって』

『先輩に好きな、人?』


 胸がざわつく。先輩の好きな人?あ、嫌だ。先輩の隣に僕以外の男がいるのを想像しただけで耐えられない。そう、そうだ。僕、先輩が好きなんだ…。



「つ、ついに好意を自覚したんですね…!これは両片思い展開!」


「(好きな人の隣に自分以外の人が隣にいると耐えられない…。私も同じ、なのかな…?あの人の隣に私以外の人が立ってて笑い合ってる。あ…嫌だ。胸がズキズキする。私本当に恋、してるんだ)」


 漫画の状況を自分に落としこみ自分があの男に恋をしていると今初めて自覚した。これが美咲にとって初恋となった。初めての感情に自分の気持ちが追いつかなく美咲は混乱している。


「どうしましょう、どうしましょう…。い、一応連絡先は渡しておきましたが連絡をくれるとは限りませんし。もしかしたらもう会えない!?うー……どうしましょう……」


 漫画を読んでいても落ち着かなく、美咲は帰ることにした。まだ家に溜まっている漫画を消化しようと思いながら帰路につく。




 ****




「ただいま…」

「おかえり!早かったじゃないか」

「うん…ちょっと」

「そうなのか。まあ詳しくは聞かないよ」

「ありがとうございます。片付け手伝いますね」

「ありがとうね。いやぁ今日もランチタイム大忙しだったよ!」

「明日は私も手伝いますね」

「ありがとな。でもたまにはゆっくり羽を伸ばしてもいいんだぞ」

「私は何かやっていないと落ち着かないみたいなのでいいんです。こっちの方が性に合ってます」

「そうか。ま、手伝ってくれるならありがたいよ」


 美咲は台所に行くと山の様に積まれている食器を目の当たりにする。食器の山が昼頃の忙しさを物語っていた。


「じゃあ洗い物は頼むよ。俺は明日の仕込みをしちゃうから」

「わかりました」


 ガチャガチャ……


「はぁ…」


 ジャー…


「はぁ…ふぅ…」

「美咲なんかあったのか?」

「え?なんでですか?」

「だって…さっきからため息ばっかりついてるぞ」

「本当ですか?無意識でした」

「で、何かあったのか?帰ってから様子がおかしいぞ」

「えっと、その…な、なんでもないですよ!久しぶり外出したから疲れてしまって…。それだけですから!何もありませんよ!」

「お、おう…そっか。(絶対何かあるな)」

「よし、終わりました!私は先に部屋に戻ってますね!」

「おぉ…ありがとうな」


 無意識に漏れていたため息で豊凱に美咲が何か悩みを抱えていることがバレてしまった。その悩みが何かは豊凱はわかっていない。美咲は男のこと豊凱に話すのが恥ずかしく、今はまだ話さないことを決めた。


「はぁ……はっ!またため息をついていました。このままじゃハカイダーが現れた時に上手く対処ができません。気持ちを切り替えなくては」


 美咲は部屋に戻り本棚から漫画を一冊取り出しベットに腰をかける。漫画を読み始める。漫画の内容が今の美咲自身と重ねてしまい、漫画に集中できなくなってしまった。


「うぅ…漫画に集中できません…。どうしましょう、どうしましょう!一応連絡先は渡したので大丈夫だと思いたいですが……。せめて名前聞けばよかったです…。そ、そうだ!恋愛漫画だからあの人のことを考えてしまうんです。一回漫画から離れましょう。そうですね……地下に行って聖獣の皆さんとお話しでもしてきましょう。少しは気分転換になるはずです」


 自室を出て廊下に設置してあるエレベーターから直接地下へ向かう。しばらくエレベーターに乗りエレベーターが目的の階に着いた。


 チーン!


「着きましたね。みなさんこんにちは。お元気そうですね」

「ガオォ!」

「うふふお疲れ様です。少しメンテナンスしましょうか。今はハカイダーがいなくて暇ですからね」


 更衣室でいつもアジトで着ている制服に着替えメンテナンス道具を揃える。美咲の制服は肩も脚もでているが伸縮性や特殊な生地で作られているので見た目以上に頑丈なのだ。


「みなさん順番に見ていきますね」


 最初に聖獣タイガーを見ていく。戦いによってできた傷や不具合などがないか見ていく。


「痛いところや変なところはありませんか?」

「ガルルルゥ…」

「大丈夫そうですね。よかったです」


 関節などの可動域も問題ないことを確認し、聖獣タイガーのメンテナンスを終える。次の聖獣のメンテナンスに取り掛かろうとしたところアジトへ獅子王が入ってきた。


「こんにちは。あれ美咲さん?」

「あ、獅子王さん。こんにちは一体どうしたんですか?何か忘れ物ですか?」

「ちょっと研究で行き詰まっちゃって。気分転換にここに来たんです。迷惑でしたか?」

「いえ!私も暇でここに来たのでどうぞご自由に使ってください。そもそもここはみなさんのために作られた場所ですから」

「そうですか。そしたら少しの間使わせてもらいますね。タイガーこんにちは」

「ガルルルゥ!」

「獅子王さんに会えてタイガーさんも嬉しそうですね」


 獅子王と聖獣タイガーは言葉は通じなくても心が通じっている。他のメンバーも聖獣たちと心を通じ合わせハカイダーと戦っている。こうして聖獣と相棒として戦っているメンバーを美咲は少し羨ましくなっていた。 


「そういえば美咲さん今日は休みじゃなかったんですか?」

「そうなんですけどやっぱり何かしてないと落ち着かなくて」

「あぁなんとなく分かります。僕も今抱えてる研究が終わっても休む感覚に慣れてなくて結局すぐに次の研究を始めちゃうんですよね」

「そうですよね。私たちって少し似てるんですかね」

「確かにそうかも。まぁ僕たちは司令、豊凱さんに育てられましたからね」


 獅子王と豊凱はもともとは同じ研究室の研究仲間だった。豊凱が聖獣と出会い、アニマルジャーのメンバーを探していた時に獅子王をスカウトしたのだ。美咲と獅子王は豊凱を通じて昔からの知り合いなのだ。


「そういえばお父さんには会いましたか?」

「挨拶して来ました。来た帰るときにカレー持って行ってて言われました。豊凱さんってあんなにカレー好きだったんですね」

「お父さんのカレー好きには困ったものです。昔からカレーばっかり作っていろんなところからスパイスを取り寄せたりして…。あのこだわりはなんなんでしょうか」

「あはは…。まぁでも豊凱さんのカレーってこの辺りだと絶品だって有名ですよね」

「そのおかげで生活費とかには困らないんですけどね」


 豊凱は研究所を辞め、研究者時代に稼いでいたお金でカレー屋兼アジトを建てた。豊凱は昔からカレーが好きでカレーにこだわりがあり昔からやりたいと思っていたカレー屋を営み始めたのだ。


「そういえば本当に最近ハカイダー出て来ませんよね。何か企んでるんでしょうか」

「それは私も気になってました。でも一応ハカイダー出現信号は出てないので本当に謎ですね。嵐の前の静けさじゃなければいいのですが…」

「うーん……一応警戒はしておいてもらっていいですか?なんだか胸騒ぎがします」

「分かりました。それで俊野さん研究の方は大丈夫なんですか?」

「あ!すっかり忘れてた!」

「ふふっごめんなさいすっかり話し込んでしまって。私も聖獣のみなさんの点検に戻りますね」


 獅子王が研究に戻り美咲も聖獣のメンテナンスへ戻っていった。




 ****




「ふぅ…これで終わりですね。みなさんお疲れ様でした」

「んー!僕もやっと終わりました…」

「獅子王さんもお疲れ様です」

「はい。お疲れ様です。あの、ちょっと聞きたいんですけど……」

「なんですか??」

「その、美咲さん何か悩み事ありますか?時々ため息をついてたので何かあったのかなって…」

「え!あー…その大した悩みではないので大丈夫です…。すみません心配させてしまって」

「それならよかったです。豊凱さんもなんだか心配してたみたいで」

「お父さんまで…。本当に心配しなくて大丈夫です。ちょっと疲れが溜まっちゃってため息が出てたみたいです」

「そうだったんですか。今日はゆっくり休んでくださいね」

「はい。ありがとうございます」

「そしたら僕はもう行きますね。帰りに豊凱さんに挨拶して帰ります」

「お疲れ様でした」

「美咲さんもお疲れ様です」


 獅子王がエレベーターに乗り上へ戻って行った。美咲は1人残ったアジトで獅子王の前でため息を無意識にしていたことを1人で反省していた。


「まさか無意識にため息をしていたなんて。他の皆さまの前でしないように気をつけなければ。はぁ…私も自室に戻りましょうかね」


 普段着に着替えエレベーターのボタンを押した。聖獣たちはみなメンテナンスが終わり各自自由に遊んでいた。普段は心優しい聖獣だが、ハカイダーと戦う時はたくましく力強い。そんなことを考えながら美咲はエレベーターを待っていた。


 チーン…


「みなさん私は戻りますね。お休みなさい」


 美咲の言葉に成獣たちはひと鳴きし返事をした。そのままエレベーターに乗り自室へ戻る。


「今日はなんだか色々あり過ぎて心の整理がうまくいきません。はぁ…あ、またため息ついてる…」


 このままだとオペレーションの仕事もままならなそうです。なんとかして気持ちを整理しなくては…。


 ぷるるるる…


「電話…えっと、熊沢さん!もしもしどうしましたか?」

「もしもーし!えっとね今度の日曜日って予定空いてる?」

「はい。空いていますがどうしましたか?」

「私その日バイト休みだから一緒に遊園地でも行かない?どう?」

「遊園地ですか!行きます、行きたいです!!」

「オッケー!それじゃあ待ち合わせの場所とかはこっちで決めちゃっていい?」

「はい大丈夫です」

「じゃ、また連絡するねー!」

「ふぅ…遊園地ですか。小さい頃お父さんと一緒に行ったきり行ったことなかったですね。熊沢さんと遊びに行くの楽しみです!」


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