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第三話 黒のバイクに乗ったヤンキー




「寝坊しましたー!!」


 結局夜遅くまで漫画を読んでいた美咲は案の定寝坊してのである。サイン会は11時。ちなみに現在の時刻は10時半である。会場の本屋までは歩いて30分。走ればなんとか間に合う距離である。


「お父さん行って来ます!!」

「気をつけなさいねー」


 家から出てすぐに走り出す美咲。家を出る途中で店に来ていた客に変な目で見られていたことを気にしながら美咲は本屋へ向かっていく。



 ****




「はぁ…はぁ……!…きゃあ!!」

 

 ドン!!


 角を曲がる時に向こうから来た人にぶつかってしまった。まさに王道の少女漫画展開である。少女漫画であったら角の先の人物と運命の出会いを果たすと心の何処かで考えていた美咲だったがすぐにその考えは捨てることになる。


「あ、なんだぁ?」

「…………」


 言葉遣いに金髪とスカジャンという明らかにガラの悪い男に運悪くぶつかってしまった。時間に余裕のない美咲はすぐに相手に謝りこの場を後にしようとする。


「す、すみませんでした!では、私はこれで……」

「おいおい!ぶつかっておいてごめんなさいだけかぁ…あぁ!?」

「本当にごめんなさい!!私本当に急いでるんです!」

「ん、あぁ?…お前よく見たら可愛い顔してんじゃねぇか。俺今よぉ彼女に振られて落ち込んでんだわ。それでお姉さんがデートしてくれたらさっきのこと許してあげる♡」

「え、そんな困ります…。私この後用事が…」

「いいじゃーん。別に大した用事じゃないでしょー」

「いや、本当に…」


 美咲の腕に巻かれている腕時計は10時50分をさし示している。ここから本屋は10分かかるか微妙なところである。なんとかここを切り抜けられればギリギリサイン会には間に合う計算である。


「ねぇいいじゃーん。ほら、俺と楽しいことしようよー」

「本当に困ります…」

「あぁ?俺がここまで言ってるんだから黙って着いて来いよ!!」

「いたっ…」


 男が美咲の腕を強く掴み痛みに美咲の顔が歪む。美咲の細い腕に男の指が締め付け骨がミシミシと音を立ててしまうのではないかと思うほどの力である。


「おい、人間なにしてんだ」

「あぁ?なんだぁテメェ?」


 突然道路からバイクに乗ったフルフェイスの男が話に割り込んできた。大型のバイクには骸骨がデザインされていて迫力がある。美咲の腕を掴んでいた男(以降チャラ男と呼ぼう)の意識がバイクの男の方へ向かい美咲の腕が離される。美咲の腕は少し赤くなっている。バイクの男はバイクを降り美咲たちの方へ向かってくる。美咲に絡んでいた男よりも背が高く、フルフェイスのヘルメットが余計に威圧感を感じさせる。


「おいおい!この子と仲良く喋ってたにによぉいきなり現れてなんだテメェ!名前名乗りやがれ!!」

「名前か?俺様の名前は下等な種族には名乗る名前じゃねぇんだよ」

「なんだとぉ!!」

「さっきからギャーギャーうるせぇんだよ!」

「ガハッ!」


 バイクの男がチャラ男を蹴り飛ばし、チャラ男はアスファルトに仰向けで転がりぴくりとも動かなくなった。おそらく気絶してしまったのだろう。


「チッ…口は強い癖に弱っちいな。これだから人間はつまんねぇ」

「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」

「あ?俺様は別に…。あぁ!柄にもねぇことすんじゃなかった!」

「あ!サイン会!!どうしよう今からじゃもう間に合わないよね…折角のお休みだったに………」

「あぁ?いきなりなんだ。ヒエヒエに冷めやがって。俺は冷てぇ空気が苦手なんだよ!」

「あ、その……。楽しみにしてたイベントに間に合いそうになくてですね……あはは。すみません。関係のない話でしたね…」

「チッ…」

「え?」

「ダーーー!!!気にいらねぇ!おいなに諦めてんだよ!おい!そのいべんと?は何時からだ!!」

「え?11時ですけど…でももう55分ですし間にあいませんよ」

「あぁ?まだ5分あんじゃねぇか!!フッ…ガッハッハ!!おい人間よく聞け!」

「へ?」

「俺のバイク、ダーク・ヒート号なら5分なんかあっという間だ!人間を乗せるのは気が進まねぇが……今回は特別だ!この俺様がお前をダーク・ヒート号に乗せてやるよ!」

「え?それって…」

「だーー!!いいから早く乗れ!遅れんぞ!!」

「あ、はい!!」


 男に言われすぐにバイクの後ろに乗る美咲。渡されたヘルメットをキチンと被り初めてのバイクにドキドキしながら前の男の体にしっかりと捕まる。


「しっかり捕まってろよ!!!」

「は、はいーーー!!!」


 体にしがみついた瞬間にバイクが急発進し美咲は少し舌を噛んでしまった。発進したバイクはどんどんと進んでいき車の間を針の穴を通すようにすり抜けていく。。


「ガッハッハッハ!!熱いなぁ人間!!」

「すみませーん!分かんないですー!!!どちらかというと風が冷たいですー!!」

「そういうことじゃねぇ!ハートが熱々だってことだよ!!」

「聞いてもよくわかんないですー!!!」


 謎の言動に熱血系なのかもと美咲は思いながら腕時計をちらりと見る。現在58分。現在位置から本屋の距離はすぐ近くでサイン会に間に合いそうだ。


「そういやぁどこまで行けばいいんだぁ?」

「あ、ここ!ここです!!止めてくださーい!!」


 キキィーー!!!


「ったく危ねぇじゃねぇか。で、間に合いそうなのか?」

「はい、はい!!間に合いました!ほんっっとうにありがとうございました!」

「いや俺様は………」

「今度お礼させてください!あ、これ私の連絡先です!」

「あーーだからよ!俺様は礼とかされんのが苦手なんだよ!いいか!俺様がお前を助けたみたいに言ってるがなぁ俺はただバイクに乗って熱々な気分だったのにあの男の人間が目に入って折角の気分が最悪な気分になっちまったんだよ!」

「えっと、それって…」

「そうだ。お前は関係ねぇ。俺様はお前があの人間に絡めまれていい気分がしなかったんだよ」

「え……?」


 (このセリフ。どこかで似た様なことを聞いた気がします。一体どこで……)


『そうだな関係ない。だがコイツがお前に絡まれて俺がいい気がしねぇんだよ』


「あ……」


 (このセリフ、そうだ。昨日読んだ少女漫画のセリフに似てる。え、嘘…)


「ったく調子狂うぜ…」


 男がヘルメットを脱ぎ乱れた髪を乱暴に整える。外に跳ねた癖のある黒髪にインナーカラーに赤をいれている。髪が風に靡いて見えた耳にはピアスが沢山ついている。


 (え、なに?この気持ち……)


 美咲の心臓がいつもよりも速く脈をうちはじめ顔が赤く染まり始める。今までにない気持ちに美咲は困惑する。


「あ、なんだぁお前。なんで顔あけぇんだよ」

「へ?」

「もしかしてお前もアチアチな気分になったか!まぁ仕方ねぇな。俺のダーク・ヒート号に乗ってアチアチにならねぇやつはいねぇからな!ガッハッハ!!」

「お集まりのお客様ー!サイン会が始まりますので参加される方はこちらにお並びくださーい!」

「あ、わ、私!もう行きますね!ここまで本当にありがとうございました!!それでは!!」

「おう!」


 逃げる様にして男から離れ列へ向かう美咲。焦ったせいか言葉の最後の方で声が裏返ってしまった。


「(これが、恋?これが好きって気持ちなんですか!?)」

 

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