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コラボカフェ

◇◆◇◆


 ────黒光りするアレとの遭遇から、早三日。

皇が完璧な対策を講じてくれたおかげか、アレの仲間を見掛けることはなかった。

めちゃくちゃ平和である。

ただ、俺は全く別の問題に直面していて……。


「────外出……しないと、ダメだよな」


 スマホに表示されたメール画面を見やり、俺は重い腰を上げる。

『こればっかりは、他人任せにすることも出来ない』と考えながら。


 とりあえず、外行きの服に着替えて……って、スウェット以外の服どこにやったっけ?


 『買いに行かないと、ないかな?』と悩みつつ、俺は一先ずクローゼットを開け放つ。

と同時に、横へ飛び退いた。

が、いつまで経っても何も起こらない。


 あれ?おかしいな。いつもなら、雪崩みたいに色々飛び出してくるのに。


 などと疑問に思いながら、俺は恐る恐る中を覗いてみる。


「えっ?しっかり整理整頓されている……」


 明らかに人の手が入ったとしか思えない綺麗さに、俺は目を剥いた。


 これって、多分……というか、確実に皇の仕業だよな。

ウチへ出入り出来るのは、あいつだけだし。


 『ったく、いつの間に掃除なんてしていたんだ』と驚きつつ、俺は適当なジャケットとジーンズを手に取った。

そして、さっさと着替えて髪型も整えると、一階へ降りる。


「おい、皇」


 キッチンで調理中の爽やかイケメンへ声を掛け、俺は近くの壁に寄り掛かった。

と同時に、皇はこちらを振り返る。


「何か御用ですか、伊月様────って、どうしたんですか!その格好!」


 すっかり身綺麗になっている俺を見て、皇はカッと目を見開いた。

かと思えば、包丁片手にこちらへ迫ってくる。


「ま、まさかこれから人と会う予定でも……!?」


「えっ?まあ……ある意味、そうかも?」


「なっ……!?そんなのダメです!こんな姿で会ったら、色々と不味いですよ!」


「はぁ?それ、どういう意味だよ?似合ってないとでも言いたいのか?」


 『何なんだ、お前』と憤る俺に、皇はブンブンと首を横に振る。


「その逆です!似合い過ぎているから、不味いんですよ!今の伊月様を見たら、皆卒倒してしまいます!正直、私もちょっと危ないですし!」


「……お前、もう少しマシな言い訳はなかったのかよ」


 『ドン引きだわ……』と頬を引き攣らせ、俺は両腕を擦った。

あまりの気持ち悪さに、鳥肌が立ってしまって。


「いや、この際もう服装はどうでもいいわ。鍵を渡せ」


 『早くしろ』と促し、俺は片手を差し出す。

が、皇は頑として鍵を出さない。


「……い、嫌です」


「お前に拒否権あると思ってんのか、バイト」


「あ、あの鍵たちは私の自費で取り付けたのでどうするか決める権利くらいあるかと」


「えっ?あれ、お前の自腹だったの?防犯対策なんだから、経費で落とせば良かったのに。てか、今からでもそうしようぜ」


 『なんなら、俺のポケットマネーから出してもいい』と述べるも、皇は一向に首を縦に振らない。


「……あれは私の独断で取り付けたものですから、費用を負担していただく必要はありません」


「いや、何でそこ意地になるんだよ」


 『さっぱり意味が分からん』と戸惑う俺に対し、皇はそっと眉尻を下げた。

かと思えば、手に持った包丁をギュッと握り締める。


「私にだって、譲れないことはあるんです。それより、誰とお会いになるつもりなんですか?」


「さあ?」


「は、はぐらかす気ですか!」


 不安そうに瞳をゆらゆら揺らしながら詰め寄ってくる皇に、俺は内心頭を捻る。


「ちげぇーよ。俺も分かんないから、答えようがないんだ。でも、まあ……強いて言うなら、店員じゃね?」


 皇の態度に疑問を覚えながらも一先ず答えると、彼は一瞬目が点になった。


「店員……?えっ?どういうこと?」


 動揺のあまりタメ口になってしまう皇に対し、俺は大きく息を吐く。

察しの悪いやつだな、と思案しながら。


「だーかーらー、ちょっと行きたい店があるから外出するんだって。別に特定の誰かと会う予定は、ねぇーよ」


「な、なるほど……?」


 ようやく状況が理解出来てきたのか、皇は少しばかり肩の力を抜いた。

拍子抜けだと言わんばかりに表情を和らげ、態度を軟化させる。

が、まだ鍵は出してくれなかった。


「ちなみにどちらへ行かれる予定なんですか?目的は?」


「場所は隣町の雑居ビル。目的は、まあ……言っても多分分かんねぇーだろうけど、好きなゲームのコラボカフェだよ。たまたま予約が取れたから、記念に行こうと思ってさ」


 例のメール画面を見せ、俺は『ほら、当選おめでとうございますって書いてあるだろ』と笑う。

ちょっと誇らしげに。

なんせ、今回の倍率は例年の比じゃなかったため。

正直、当たったのは奇跡だ。

『マジで幸運に恵まれている』と浮かれる中、皇はじっとスマホの画面を眺める。


「コラボカフェ……なるほど。そこでしか味わえない限定メニューやコラボグッズが、あるんですね」


「ああ」


「ところで、伊月様はあまり外出を好まれませんが……コラボカフェは例外なんですか?」


 『所謂、別腹なのか』と問うてくる皇に、俺はどう答えようか迷った。

が、素直に本心を話すことにする。

ヲタクじゃない皇になら、『それでも、ファンか!』と叩かれる心配はないため。


「ぶっちゃけ、コラボカフェであろうと外出はしたくない。でも、限定メニューやコラボグッズはほしいっつーか……」


「つまり、その二点さえどうにかなれば外出はしなくてもいいんですね?」


「ああ」


 『まあ、無理だろうけど』と思いつつ首を縦に振ると、皇は何やら考え込む素振りを見せる。

そして、もう一度食い入るようにメール画面を見つめた。


「……この予約券って、譲渡可能なんですね」


「えっ?あぁ、そうだな」


「なら、代わりに私が行ってきてもよろしいでしょうか?」


「……はっ?」


 ピシッと固まって皇を凝視する俺は、『こいつ、マジで言ってんの?』と戸惑う。

────と、ここで皇が一旦キッチンカウンターへ戻り、包丁を置いた。

ついでにエプロンも取り外している。


「欲しいのはあくまで、限定メニューとコラボグッズだけなんですよね?」


「そ、そうだけど……」


「なら、私が行っても問題ありませんね」


 素早くエプロンを折り畳み、皇は『早速、今から行きましょうか』と述べた。


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