まだバレたくない《皇 side》
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リビングに戻ってダイニングテーブルの上を片付ける私は、深い深い溜め息を零す。
今回は本当に危なかったな、と考えながら。
鍵を要求された時はどうしようかと思った……だって、渡さないのは明らかに不自然だし。
でも、伊月が天然且つ鈍感のおかげで助かった。
────危うく、監禁していることがバレるところだったよ。
つい先日振り込まれた給料を使って、監禁計画を一気に進めた私は『ヒヤヒヤした……』と零す。
一歩間違えれば、大騒動に発展するため。
私のワガママかもしれないけど、監禁のことはまだ伊月にバレたくない……怖がられたり、嫌われたりしたらショックで立ち直れそうにもないから。
『こんなことをしておいて、何を言っているんだ』と思われるかもしれないけど、私はただ伊月に好かれたいだけ。
でも、彼はとても魅力的な人だから……他の人の目に入ったら、奪われてしまう。
そして、私のことなど眼中になくなる。
今でこそ、伊月は引きこもりニートと呼ばれる部類の人間だが、元々はクラスの中心的存在だった。
常に明るく、真っ直ぐで周りをグイグイ引っ張っていく。
その上、正義感に溢れていて間違ったことは間違っていると言える人間だった。
そんな彼に救われた人はきっと、一人や二人じゃないだろう。
『現に私も救ってもらった側だし……』と思案しながら、伊月の部屋のある方向を見つめる。
きっと、この日々は長く続かないだろうけど……でも、今だけは。
薄氷の上とも言うべき脆い状態に思いを馳せ、私は掃除を再開する。
が、どうにも気が滅入ってしまい、一旦手を止めた。
『こういう時は伊月を見るに限る』と考えながらスマホを取り出し、Webカメラに接続。
今日も元気にゲームしている伊月を凝視し、僅かに頬を緩めた。
「嗚呼、可愛い……ガッツポーズしている。ゲームで勝ったのかな」
子供みたいに無邪気な伊月に物凄く癒され、私はうんと目を細める。
カメラを増やして正解だったな。色んなアングルで、伊月を観察出来るのは大きい。
あと、引っ越しにならなくて本当に……本当に良かった。
せっかく、設置したカメラを全て撤去する羽目になるからね。
『鍵類については買い直しだし』と肩を竦め、私は安堵の息を吐く。
伊月関連でお金を出し渋る気はないが、さすがに設置完了数日でダメになるのは心に来るため。
『せめて、一週間は持ってほしいところ』と考えつつ、私はダイニングテーブルを見下ろした。
「さて、さっさと終わらせるか」
誰に言うでもなくそう呟くと、私は止まっていた手を動かす。
落ち込んでいた先程と違い、気分も上向いたからかあっという間に掃除を終えられた。