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謎の機械音

◇◆◇◆


 ────皇を新たにお世話係として、迎えた翌日。

俺はリビングの棚に飾ってあったウサギのぬいぐるみを見て、首を傾げた。


 なんだ、これ。

こんな可愛いインテリア、ウチにあったっけ?


 明らかに自分の趣味じゃないぬいぐるみを前に、俺は『父からのお土産か?』と思案する。

そして、何の気なしにぬいぐるみを手に取り、じっと間近で観察した。

と同時に、ハッとする。


「こ、これ……何かの機械音がする!」


 よく耳を澄ますと聞こえてくる『ジジジ……ザザザ……』という音に、俺は戦慄した。


 全く見覚えのないぬいぐるみ……機械音……間違いない。これは────


「────爆弾だ!」


 子供の好きそうなオモチャ……それもぬいぐるみが爆発物なんて、テレビや映画ではよくあるシチュエーションのため、焦りを覚える。

西園寺家(ウチ)に恨みを持っているやつの犯行か!』とパニックになりながらオロオロし、半泣きになった。


「ど、どうしよう?警察に連絡?いや、父さんに報告するのが先か?てか、早く避難しねぇーと。でも、爆弾持っちゃっているし……これって、置いていいの?振動で爆発しない?俺、万事休す?」


 『遺言残しておいた方がいい?』なんて考え、俺はソファの周りをグルグル回る。

────と、ここで二階の掃除に行っていた皇が階段を降りてきた。


「伊月様?」


 リビングに入ってすぐ俺の異変を察知し、皇は不思議そうに首を傾げる。


「どうかしましたか?」


 手に持っていた掃除機を一度床へ置き、皇はこちらに駆け寄ってきた。

かと思えば、俺の持っているウサギのぬいぐるみを見てピシッと固まる。


「ぁ……それ……」


 困った様子で言い淀む皇に、俺は嫌な予感を膨らませた。


「や、やっぱヤバいやつなのか……?」


「えっ?伊月様、まさかソレの正体に気づいて……?」


 焦ったように冷や汗を流し、皇はゴクリと喉を鳴らす。

神妙な面持ちで下を向く彼に対し、俺はサァーッと血の気が引いた。


「嘘だろ、お前……」


「も、申し訳ございません……でも、悪気はなかったんです……」


 二メートル近くある体を縮こまらせて謝罪する皇に、俺は思わずカッとなる。


「悪気はなかった、で済むかよ!────ウチに爆弾が仕掛けられているのに!」


「……えっ?」


「気づいているなら、早く言えよ!手に持っちゃったじゃん!」


 『何普通に家事(仕事)してんだ!』と怒鳴りつける俺に対し、皇はフリーズする。

でも、状況を理解するなり脱力した。


「伊月様、それは爆弾じゃありませんよ」


「嘘だ!だって、このぬいぐるみから機械音がするんだぞ!?」


 『ほら!』と言ってぬいぐるみを突き出すと、皇は一瞬考え込むような仕草を見せる。

が、直ぐに顔を上げた。


「恐らく、その機械音は────」


 そこで一度言葉を切り、皇は俺の手からぬいぐるみを抜き取る。

手のひらサイズのソレを一度逆さまにして、足の裏を指でいじった。

その途端、ぬいぐるみの手足が動き、陽気なメロディを奏でる。


「────コレだと思いますよ。子供向けのオモチャによくある仕掛けです」


 『某人気アニメのオモチャなどで見たことありませんか?』と言い、皇はこちらを見つめた。

どことなくホッとしたような動作を見せる彼の前で、俺は俯く。

単なるオモチャを爆弾だと勘違いしていた自分が、恥ずかしくて。


 早とちりにも程があるだろ、俺……!映画の見すぎだ!


 『想像力、逞しすぎる!』と頭を抱え、俺は頬を紅潮させた。

あまりの恥ずかしさに違う意味でパニックを引き起こしながら、悶々とする。

と同時に、


「だ、大体!何でそんなものがウチにあるんだよ!」


 と、話を逸らしに掛かった。

すると、皇は思い切り表情を強ばらせる。


「それは……えっと……」


「なんだ、お前の私物か!?」


「は、はい。リビングにこういったインテリアがあったらオシャレかな、と思いまして……」


 若干しどろもどろになりながらも弁解し、皇はチラリとこちらの顔色を窺った。

まるで母親に叱られた子供のようにシュンとする彼を前に、俺は何故だか罪悪感を募らせる。


 他の男がこんな表情(かお)をしても全く可愛くないが、爽やかイケメンにやられると……案外効くな。

俺、男なのに母性芽生えそう。


 『女だったら、落ちていたな』と思案しつつ、俺は大きく息を吐いた。

と同時に、額へ手を当てる。


「ったく、そういう気遣いはいらねぇーんだって」


「申し訳ございません……」


 これでもかというほど肩を落とし、皇は悲しそうに振る舞う。

『余計なお節介でしたね……』と呟く彼の前で、俺は心を締め付けられた。


「チッ……!だけど、今回は有り難くもらっておく」


 良心の呵責に耐え切れなくてそう申し出ると、皇はパッと表情を明るくする。


「ほ、本当ですか?」


「ああ。だから、元の場所に戻しておけ」


「はい」


 大きく首を縦に振って了承し、皇はリビングの棚へ駆け寄った。

『確か、この辺だったかな?』とぬいぐるみの位置を調整する彼の前で、俺は身を翻す。


 はぁ……どっと疲れた。早く部屋に戻って、ゲームでもしよう。


 『もう当分、あのぬいぐるみは見たくない』と思い立ち、俺は廊下へ出た。

と同時に、体のバランスを崩す。

どうやら、置きっぱなしだった掃除機に足を引っ掛けてしまったらしい。


 またかよ……。


 昨日に引き続き転倒の危機を迎え、俺はなんだか達観した気分になる。

『今度は顔面から床にダイブか』などと考えていると、思い切り腕を引かれた。

ついでにお腹辺りに手を回され、前のめりだった体の重心が元通りとなる。

要するに、転倒を免れたのだ。


「大丈夫ですか?伊月様」


 そう言って、後ろから顔を覗き込んでくるのは皇だった。

昨日に引き続き、今日も転倒の危機から俺を救ってくれた様子。


 こいつ、顔だけじゃなくて中身もイケメンかよ。

しかも、運動神経抜群で体も引き締まっているし。


 スラッとしているように見えて案外ガッシリしている皇の体型に、俺は少しばかり感心する。

『きっと、スポーツとかやっているんだろうな』と想像する中、彼は不意に顔を近づけてきた。


「どこか打ちましたか?痛みは?」


 なかなか返事しない俺を見て心配になったのか、皇はそっと眉尻を下げる。

『救急車を呼びましょうか』と悩む彼を前に、俺は慌てて口を開いた。


「だ、大丈夫!どこも痛くない!ただ、驚いただけだ!」


 何ともないことを身振り手振りも交えて説明すると、皇はホッと胸を撫で下ろす。


「それなら、良かったです。あと、掃除機を床に放置してしまい、申し訳ありませんでした。直ぐに片付けますね」


 『伊月様のお体に傷をつけるところだった』と猛省し、皇は手早く掃除機を撤去する。

そんな彼の前で、俺は『大袈裟なやつだな』と肩を竦めた。


 まあ、いいや。とにかく、部屋に戻ろう。

ここに居ても、皇の邪魔になるだろうし。


 テキパキと残りの仕事をこなしていく爽やかイケメンを一瞥し、俺はさっさと二階に上がる。

そして自室に辿り着くと、いつも通り座椅子へ座ってゲーム機を手にした。


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