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俺の過去

◇◆◇◆


 ────その後、なんやかんやありながらも話はまとまり、この日は解散した。

当分の間は今まで通り、暮らすことになると思う。

まあ、皇との関係性は大きく変わったので何かしら違う点は出てくるかもしれないが。

でも、一先ず丸く収まったと言っていいだろう。


 横山の帰ったリビングでのんびり寛ぐ俺は、隣に座る皇を見上げる。

すると、あちらも俺のことを見ていたようでバッチリ目が合った。


「ふふふっ。こっちを見てくれて、嬉しいです」


「……そんなことで、いちいち喜ぶなよ」


「そういう伊月も、実は嬉しいんじゃないですか?」


「うるせぇ、馬鹿」


 皇の横腹に軽く肘をめり込ませ、俺は口元に手を当てる。

緩んでいる頬を隠すために。


 ……本当、こいつの前だと調子が狂う。


 擽ったい気持ちと釈然としない気持ちを抱えながら、俺は悶々とする。

────と、ここで皇が俺の腰を抱き寄せた。

そして、茶色がかった瞳に憂いを滲ませると、躊躇いがちに口を開く。


「あのですね、伊月。いきなりこんなことを聞くのは無遠慮かもしれませんが、その……せっかく恋人になれた訳ですし、早めに聞いておきたくて。貴方の痛みを理解し、サポートしていくためにも……とはいえ、嫌なら嫌とハッキリ断っていただいて構いません。しつこく聞くつもりはありませんので」


 余程聞きにくいことなのか、皇は随分と長い前置きをする。

『貴方の傷つかない選択を』と何度も念を押し、彼はそっと眉尻を下げた。

かと思えば、意を決したように言葉を紡ぐ。


「それで、結局何が言いたいかと言うと────伊月の過去を教えてほしいんです。特に人間不審に陥った辺りを」


「!」


 まじまじと皇の顔を見つめ、俺は一つ息を吐いた。

何となく、予想はしていたため。


 皇がこんなに気を遣う話題なんて、これくらいしかないもんな。


 優しいながらも我を押し通す場面の多い皇を思い浮かべ、俺は苦笑を漏らす。

『そんなに深刻そうに捉えなくてもいいのに』と肩を竦め、手を組んだ。


「別にいいけど、聞いていて面白い話じゃねぇーぞ」


「構いません」


 迷わず即答する皇に、俺はつい笑ってしまう。

こいつらしいな、と思いながら。


「そんじゃ、まあご要望にお応えして軽く昔話をしてやるよ」


 ────という言葉と共に、俺は過去の記憶を手繰り寄せた。

真っ先に思い出すのは、小学三年生の頃の夏。

西園寺家の事業失敗により、俺の天下が揺らいだ。


「おい、もう西園寺に関わるなよ」


「分かっているって。利用価値ないやつに時間を割けるほど、暇じゃねぇーよ」


「それにしても、可哀想よね。西園寺家って、今火の車なんでしょう?ママが言っていたわ」


「今回、出した損失を取り戻すのはかなり難しいだろうね。西園寺家も、もう終わりだ」


 今朝登校するなり、無視と陰口のオンパレードに遭う俺はゆらゆらと瞳を揺らす。

一体、何が起こっているのか分からなくて。

いや、理解はしているんだが、俺達には大人の事情なんて関係ないと思っていた。

今まで通り普通に接せられる、と……友達として仲良く出来る、と考えていた。

でも、そんな風に捉えていたのは俺だけで……虚しくなる。


 これまで過ごしてきた日々は一体、何だったんだ?

俺なりに皆のことを考えて、良くしてきたつもりだが……結局、俺の独りよがりだったってことか?


 信頼や友情なんてものはなかったんだと悟り、愕然とした。

急に自分がとても小さい存在のように思える中、ドンッと背中を押される。

その反動で、俺は派手に転んでしまった。


「っ……」


「邪魔なんだよ、西園寺!貧乏人は隅っこで小さくなっていろよ!」


 『自分の立場を自覚しろ!』と嘲笑う男子に、他のクラスメイトは同調した。

かと思えば、ここぞとばかりに暴言を吐く。


「前々から、アンタうざかったんだよね~。クラスのリーダーを気取って、勝手に仕切っちゃってさ」


「どこのガキ大将だよ?って、感じだったよね~。まあ、今まではパパとママが『仲良くしろ』って言うから、耐えてきたけど~」


「でも、ご自慢の実家はあの有り様。マジで悲惨だよな。これから、ちゃんと生きていける?」


「ま、何かあっても俺らには頼らないでね。迷惑だから」


 ケラケラと笑ってこちらを見下すクラスメイト達に、俺は何も言えなかった。

ただ歯を食いしばって立ち上がり、教室から出ていく。

すると、他の生徒達からジロジロと見られた。

多分、クラスメイトの奴らと同様こちらを蔑んでいるのだろう。


 エスカレーター式の金持ち学校だから、親の地位や権力によって色々と変わってくるのは分かっていた。

でも、いざ差別される側になると辛いな……。


 『俺って、本当に恵まれていたんだな』と思いつつ、この日は早退。

でも、親に心配を掛けたくなくて翌日からまた学校に通った。

─────それから、約二ヶ月。

俺はひたすら、周囲からの無視や陰口に耐え続けた。

『大丈夫、直ぐに慣れる』と自分に言い聞かせながら。


 不幸中の幸いとでも言うべきか、極端な暴力はないしな。

あっても、体を押されたり小突かれたりする程度。

痕に残るようなレベルのものではない。


 『だから、問題ない』と必死に割り切る中、父より事業の立て直しに成功したことを知らされる。

収支はプラマイゼロどころか、軌道に乗ってめちゃくちゃ好調らしい。

過去最高の利益を出せそうとのこと。

『それは良かった』と安堵しながら、俺はいつものように登校。

と同時に、囲まれた。


「西園寺くんのお父さん、凄いね!事業、大成功だったんでしょ!」


「ウチのパパとママが、すっごい褒めていたよ!」


「なあ、今度父さんに会わせてよ!事業のこと、色々聞きたい!」


「あっ、そうだ!明日、ウチでホームパーティーをやるから来てよ!きっと、母さん達も喜ぶ!」


 ここ二ヶ月の対応が嘘のように、クラスメイト達は愛嬌を振り撒いてきた。

その見事な手のひら返しに、俺は呆然とする。


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