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08・勝ち取れ


 翌朝もまた、ウィリアルくんは早起きだったわ。

 そして、隣の寝床で眠るミーニャを見て考え事よ。

 衝立くらい必要かしら。

 年頃、にはまだ早いけど、寝てる女の子をガン見するのはどうかと思うの。まあ、まるで雰囲気のある視線じゃないけどね。

 ミーニャに抱き枕にされながら、隣の寝床に半身起き上がって難しい顔をしているウィリアルくんを見るあたし。

 

「むにゃぁ……とりにく……」


 あたしの耳をかじらないでね、ミーニャ。


 さて。

 あたしも考えることは多いけど、実行して解決しなければ悩みは尽きない。


 朝ごはんはミーニャのリクエストで、先日と同じ鳥出汁の雑穀粥よ。今回はウィリアルくんもとんすいで二杯食べられたわ。

 食事の後、またもや飛び出して行こうとしたミーニャを止めて今日はウィリアルくんとお話をするように言う。


「おはなし?」

『そうよ。ウィリアルくんにはお母様の言葉が通じないのよ。だから、ミーニャに色々と聞いて欲しいの』

「んー……うん、わかった」


 ミーニャは消極的に了承してくれたわ。

 お話、苦手なのかしら。

 はじめの会話が言い合いになっちゃったものね。

 ともあれ。ミーニャはうなずいた後、縁側にいるウィリアルくんのところへ行ったわ。もちろん私も一緒によ。

 ウィリアルくんは縁側に座って、また何やら考え事をしていたわ。


「ウィリ、おはなし」


 そう言いながら、ウィリアルくんの隣にちょこんと座るミーニャ。


「……話?」

「おかあさまがおはなし聞きたいって」


 ミーニャがそう言うと、ウィリアルくんの目が鋭くなったわ。


「……お前の母親は、どこにいる?」


 あら、ミーニャの目がキョトンとしてるわ。そして、私を抱き上げてウィリアルくんに見せたの。


「おかあさま」


 やめてミーニャ。前足の脇を持ち上げられるとニョーンて伸びちゃうの。恥ずかしいわ。なんて、本来なら和んでしまいそうな雰囲気なのに、ウィリアルくんはイラッとした顔であたしごとミーニャを睨む。


「お前の母親は二十九歳の人間の女だ。お前とよく似た顔立ちで、白に近い灰色の髪。お前の髪色は母方の血が濃く出たそうだと聞いている。少なくとも、ネコじゃない」


 真顔で返事を返すウィリアルくん。

 ミーニャの両親を知っているの?

 確かに母親はそんな感じだったわ。

 ……詳しく聞きたいわね。

 でも、ミーニャに聞かせるのは酷かしら。

 と、あたしが思案していたら、ウィリアルくんてば勝手に話し始めたわ。


「ミアナ・セルトム。この辺境開拓領地の開拓村、村長の姪。父親は生まれてすぐの頃に死別。聖女狩りが起こった数年前、ここの領主が聖女と引き換えに村の援助を申し出て伯父である村長が承諾。しかし、それに逆らった母親が娘を連れて逃亡。入り嫁で土地に明るくなかった母親は、魔獣の森に逃げ込みそのまま母子ともに行方不明。と、報告にはあった」


 詳しいのね。

 そんなことがあったなんて驚きだわ。

 ミーニャもびっくりした顔をしているわ。とてもとても小さな頃のことだけど、何か覚えているのかしら。

 ウィリアルくんはミーニャを見ながら話を続ける。


「魔獣の森に逃げ込んで生きていられるはずはない。だが、白い髪の少女の目撃が幾度も報告されていた。何かしらの庇護者を得て生き延びているのだろうと、一縷の望みを持ってやってきたら案の定。お前はこうして生きていた」


 そう言った後、ウィリアルくんは家を見回し、ミーニャに視線を戻す。


「異国の建物、異国の装い。お前たちはこの森に潜む異国の者に庇護された。其奴は魔獣をも従える力を持っている。違うか?」


 だいたい合ってるけど、たぶんウィリアルくんの想像では人間を思い描いているのね。普通はそうなるでしょうけど。

 ミーニャはまた首を傾げているわ。


「はあ……お前では埒が明かない。母親に会わせてくれ。領主に逆らった罪は問わん。異国の者を頼ったこともだ」


 ウィリアルくんはまた、辺りを見る。

 そして、話をやめてしまったわ。

 ミーニャの保護者と直接話したいようだけど、残念ながらあたしとは会話ができない。ミーニャの実母は……

 と、その時。

 縁側に座ったまま足を上げ、勢いのまま庭に飛び降りたミーニャが、ウィルアルくんの腕を掴んだ。そして引っ張る。


「なっ!? なんだ!?」


 そのまま歩き出すミーニャ。ウィリアルくんは前のめりになり足を絡めるようにしながら引っ張られて歩いてるわ。


『ミーニャ、ミーニャ、待ちなさい。それだとウィリアル君は転んでしまうわよ』


 呼び止めればハッとして、やっと引っ張っていたウィリアルくんに目をやったわ。まだ十数歩くらいしか歩いてないのに、息を切らすウィリアルくん。

 そんなウィリアルくんを、ミーニャは今度は持ち上げた。


「わっ!? ちょっ!? 待……わぁぁぁっ」


 荷物を担ぐようにして走り出しちゃったわ。

 ミーニャは力持ちですものね。

 それも聖女の力のなせる技。

 その力は魔物が持つ魔力の亜種ではないかと元ボスが言っていたわ。妖力とも通じるものもあったからあたしの術もいくつか教えているけど、体の力を強化する術は教える前から使っていたのよ。本能かしら。それとも天才?

 うちの子だから天才かもね。


 どんどん速度を上げて走るミーニャ。もちろんあたしもついていく。ウィリアルくんは目を回しそうになって喚いているけど、大丈夫そうね。


 ミーニャがどこへ向かっているかはすぐにわかったわ。


 しばらく走れば、花畑が見えてくる。

 花畑の真ん中には石を積み上げた墓標があるわ。

 そこで足を止めたミーニャは、乱雑にウィリアルくんを下ろした。どさっと落ちるウィリアルくん。


「……ぜえ、何を、ぜえ……くっ」


 息が荒いわ。

 担がれて運ばれて、それだけでくたびれ切っている。柔すぎる。

 そんなウィリアルくんを尻目に、ミーニャは花畑を指差す。

 いつも元気なミーニャが、小さな声で呼ぶ。


「かあさん」


 飛び起きて辺りを見渡したウィリアルくんは、ミーニャの指し示す場所にある石積みを見つけて息を飲む。

 綺麗な花畑の中で、少しだけ時間が止まったような気がしたわ。

 ミーニャはそんなウィリアルくんにも気を止めず、今度はあたしを抱き上げた。


「おかあさま」


 ミーニャが頬擦りしてくれたので、あたしもほっぺをすりすり。


「おかあさまの名前はシロタマヒメユキ。おじちゃんはラウドロームクヴァルト。ミーニャはミーニャ」


 ミーニャ……

 あたしの名前どころか、元ボスの名前までちゃんと覚えていたなんて。すごいわ。やっぱり天才ね。

 それに、実の母親のこともちゃんと覚えていたし、亡くなっていることも理解している。


「かあさんは、もうおはなしできない。でもおかあさまとはおはなしできる。おかあさまはウィリとおはなししてって言ったの。おはなしを聞いてくれるよ」


 ウィリアルくんはミーニャをじっと見た後、あたしに目を向けたわ。あたしは同意を示すため「にゃーん」と答える。

 少し考えた後、ウィリアルくんは問うて来たわ。


「……養母殿は、魔物か?」

「おかあさまは、えっと、別の世界の魔物?」

「別の、世界?」

『あっちの世界では妖とか妖怪とか呼ばれるものよ。種としては猫又ね』


 二本の尻尾をゆらゆら揺らして言ってみる。


『神社……神域にいたら声が聞こえたのよ。「この子を育てて」「守って」って。それに答えたらいつの間にかこの世界にいて、ミーニャがいたの』


 あの時はてっきり誰かが子猫を捨てに来たのだと思ったのよ。あの神社はたまにそんなことがあったから。まあ、子猫の成長はすぐだから巣立ちまでの間、守って育てるくらいなら。なんて思って返事をしたらこの世界に引き寄せられちゃったのよね。

 色々と思い出しながら語ったけど、やっぱりウィリアルくんには「にゃー」としか聞こえてないみたいね。さあ、ミーニャ。あなたから伝えてあげて。


「えっと、えっと、ヨーカイのネコマタだって。育ててって言われて、気がついたらミーニャがいたんだって」


 端折りすぎね。

 ウィリアルくんは微妙な顔で少し考え、また問うたわ。


「お前は、養母殿と話ができるのか?」

「うん!」


 ミーニャ、満面の笑顔。


「おじちゃんともお話しできる」

「魔獣ラウドロームクヴァルトとも話せるのか……それも聖女の力か?」


 おじちゃんの話はいいんじゃないかしら。

 でも、ミーニャだけがあたしや元ボスと話せるなら、やっぱり聖女だからかしらね。こっちの世界の人間事情はよくわからないけど。

 あら? 今、ウィリアルくんが少し笑ったわ。何か企むみたいにニヤッとね。

 そりゃね。妖や魔獣を身内にもつ最強聖女ですものね。その上かわいくて賢くて優しい女の子。

 ウィリアルくんはもともと聖女を獲りに来たんですものね。

 利用価値とか、色々と考えてしまうのは仕方がないとも思うけど。


『ミーニャ、ミーニャ、……ゴニョゴニョゴニョ』


 ミーニャの耳元で言ってもらいたいことを伝えたわ。まあ、小声でなくてもウィリアルくんには聞こえないからいいんだけど。なんとなくね。


「うん、わかった。言う」

「なんだ? 養母殿はなんと言ったのだ?」


 何か期待のこもった目でミーニャを見るウィリアルくん。そんなウィリアルくんにミーニャは指差しでズバリ。


「ウィリは弱い!」

「んなっ!?」


 ウィリアルくんは絶句した。


「ウィリはたよりない!」

「ぐっ!」


 ウィリアルくんは胸を抑えた。


「ミーニャがほしくば、さいていでもミーニャより強くなって!」

「…………!」


 ミーニャってば。

 もうちょっとマイルドに言ったつもりだったんだけど、要点だけを言っちゃったわ。

 そんな辛辣な言葉に、くらりとしたウィリアルくんは膝から崩れ……そうになったところを踏ん張った。フーッと荒く息を吐いてミーニャを睨む。

 そして、挑むように笑った。


「俺は、確かにひ弱だ。死を望まれるような王子だ。だが、聖女に出会い生き延びた。道は開けたのだ!」


 胸を抑えたまま、もう一度大きく息をつく。


「聖女ミアナ。いや、白き魔獣の娘ミーニャ。お前が強さを望むのなら強くなってやろう! それが成った暁には、お前は俺のものとなれ!」


 わあお。

 熱烈ね。

 ミーニャは言葉の意味は理解し兼ねてるけど、熱意だけは伝わっみたい。

 自分を心底必要としてくれているという熱意よ。

 嬉しそうに頬が赤らんでいるわ。


「わかった!」


 元気よく答えるミーニャ。

 ウィリアルくんはまた、小さく息をつく。

 ホッとしたのかしら?

 でもね、試練はこれからよ。


「ウィリ、ミーニャと勝負!」

「……は?」


 まあね。

 あたしと元ボスのやりとりを見て育っちゃったものだから。


 頑張ってね、ウィリアルくん。





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