負け犬
呪いに囚われた。
衝動と読んだ方が正しいのだろう。
「ええ、そちらの番です。…どうぞカードをお引き下さい」
ベットされたコインを見た。世紀の大勝負。これに敗れた負け犬はもう陽の目を見る事も出来ぬ程に地獄へ堕ちゆく。
「…手、震えていらっしゃいますよ? さぁどうぞ、ご遠慮無く」
場に出されたダイヤのK。相手がオーバーするか、否か。それは天の女神しか分からぬ定め。
「さぁ、さぁ、さぁ」
急かす様に視線を遣る。誰かが唾を飲み込む音がした。自棄に叫びトランプの束へと手を伸ばす対戦相手。
それを見た彼は、…狂った様に笑い出す。
急速に不安に苛まれた。
「…何がそんなに可笑しいのですか? とうとう気でも触れましたか」
訝しげに視線をやり、狂い笑いを続ける彼を他所目に黒スーツの警備員達に目をやった。こちらへ近付く彼らに、敵の手札を確認させようとした。
「な…んで、」
しかし彼らがカードを見ると、目の色を変えて僕の元へと。力尽くに腕を掴まれ、乱暴に連行される所を抵抗する。
「やめろッ!! …どうしてだ、何故僕の方を!?」
無視を続け惨めな抵抗繰り出す僕に、ヤツは憎たらしく笑って手札を漸く提示する。
「…スペードの…8…」
場に出された数の合計は、21。…僕の敗北は確定的だった。
「待て…待って!これはイカサマだ!無効試合だ!!」
声を荒げるも既に己は虫ケラ程の人権も無い。滑稽な僕を見て嘲笑する彼を最後に退出される。
「い、やだ…誰か、助けてくれ…」
救いの手など誰も差し伸べぬ。これからこの身に起こる悲劇を想像し、身震いをした。その頃すっかりと子犬の様に惨たらしく大人しくなっていた。