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夕日
足元から風が荒む。一歩でもズレたら、夕焼けに攫われる。
「でも、それでいいんだ」
元より肉塊と化す気でここへ参ったのだから。
フェンスの錆を指で撫でる。瞼を閉じた。裏に過ぎる、人生嫌悪の塊。
それもこれも今日でお別れ。鴉が遠くで鳴く。赤い陽光が己を刺す。
「痛いや」
短く呟くと目を閉じて再び瞼上げた先の空と陽の色彩の調和に胸打たれる。
「…きれい」
死ぬ日として素晴らしい。
夕焼け小焼けにさようなら。赤い空へ私も溶け行く。
――あの夕日に向かって、一歩足を踏み出した。