1話
珍しく書斎へ呼び出され
お父様とふたりきり、シーンとした空気の中
嫌な予感しかない
注意をされるなら…あれか?これか?
と言い訳を考えていたら
突然、宣言された。
「ゾーイ、もう好い年だし婚約してもらう」
「…え、マ……、本気ですか?」
冗談を言ってどうすると溜息を吐きながら
真っ面目なお父様が肩を落としている
はい、ごめんなさい。
でも、婚約!?そ、そんな…!
…急すぎない?
まず、私に確認してからじゃ…無いの?
私に結婚は向いていない
「お、お相手は?」
顔は笑顔で…多分、物凄く引き攣っているけど
ぷるぷる振るえる手を握り締め
断れない?なんて逃げ道を考えていたのに
「第一王子殿下だ」
詰んだ
フラッと眩暈がするが何とか踏ん張って
ど、どうして…と呟くと
「他に候補が居ないんだ」
溜息混じりで返事が届いた
いや〜、嘘でしょ…候補が居ないだなんて!
私は侯爵家の娘ですけれど
公爵家令嬢や他家の侯爵家令嬢にも婚約者がいない方が居たはず!
お父様…恥を欠くわよ…
私は勉強、運動、その他諸々、下の下だし
そんな私のお相手が第一王子殿下だって?
私が…王族と?
いくら王太子殿下じゃ無いと言っても…
夢?夢かな〜?
今日はエイプリルフールじゃ無いよ?
四月じゃなく、五月
五月一日、私の…
じゅ、十八歳の…お誕生日…なんだな
明日じゃ駄目でしたかお父様…
婚約…
私は裁縫も壊滅的!
何も取り柄も無いので
何か発展させるとかも無理!
こういう場合って小説では皆んな
何かしら特技があって才能もあって…
活躍していくけれど
「…お、お断…」
「………」
お父様は眉を顰め目を閉じている
いるけど…
ひぃいいーーーー!!!!
怖い怖い!!!睨まれていないのに!!!
お父様が無言の圧…!
「出来ないですよねーーーーー!!!」
ええ!ええ!わかりますとも!
お馬鹿な私でもね!!!
お父様を困らせたい訳でも
家名を汚したい訳でもない
…………本当に……
目を閉じ切り替える様に深く深呼吸をして
今にも崩れそうな足を…表情も隠して
暗澹たる思いを誤魔化す
それにしても
私には本当に何も無いんだけれど
えーっと、これから、どう生きれば?
注意されそうなあれこれは
使用人に頼み込みキッチンでクッキーを焼いた事や考え事をしていて壁に激突したこと