98. 剛腕、しばかれる ① (挿絵あり)
本日一回目の投稿です^^
ダキア伯爵家の次男、ストラス・ダキアは自分の前で丁寧な礼をする女性に見惚れていた。
女性の名はシンシア、タギルセ伯爵家の一人娘にして、ストラスの婚約者、許嫁である。
マロン色のジューブとローブ、ストマッカーは転じて鮮やかなグリーンであった。
パニエはやや控えめな膨らみだ。
柔らかな笑顔を浮かべるシンシアはその名の通り、月明かりの様な穏やかな印象を見る者に与えている。
事実、王立学園の生徒たちの間では、主席だったアメリア・バーミリオンを陽光の令嬢、次席のシンシアは月光の令嬢と秘かながらに呼び交わされていたのである。
アメリア、エマの輝くような美しさとはまた違った、清楚でどこか幼さの残った容貌は暖かな温もりの様な美しさを感じさせた。
「お久しぶりでございます、ストラス様、シンシアでございます」
そう言ってローブの両脇を摘まんで見せたシンシアにストラスは返した。
「レディータギルセ、お美しくおなりだ、改めて、我が妻となる君に礼を送ろう」
片足を引き、同じ方の腕を大きく回して胸の前に持って行き深々と礼をするストラス。
勿論、冒険者の時とは違って今日は確りと礼服を着込んでいる。
純白のマントに純白のチュニカ、転じて腰のベルトと肩のフィブラは漆黒である。
足にはこちらも白の脚絆を巻きショースは又もや漆黒である。
額に着けた銀のサークレットには深緑の小さな宝石が鏤められた、ダキア伯爵家伝統の衣装であった。
まだ短いとはいえ頭髪も伸び始めており、その短髪が逞しい体格と合わさって、一層涼やかな印象を与えていた。
妻と言う単語を聞いたシンシアは、薄らと頬を染めて嬉しそうに呟いた。
「なんでも最近まで冒険者をなさっていたのですとか、一段と逞しくなられて…… うふふ、子供の頃はあんなにお可愛かったのに、私見違えてしまいましたわ、うふふ」
ストラスは頭に手をやって恥ずかしそうに答えた。
「あー、その、あれだ…… 昔の方が良かったかな? 少し瘦せようか、シンシア?」
シンシアは美しい笑顔を深くして返す。
「まあ、そんなの嫌ですわ! 私は今の貴方が逞しくて素敵だと思ったのでしてよ? どうぞそのままで、うふふふ♪」
「そ、そうか! ははは」
その後、シンシア付きのメイドが淹れてくれた紅茶を飲みながらの歓談に移ったのだが、ストラスの冒険者時代の武勇伝や、最近の王都での流行や、貴族たちのゴシップなどが面白おかしく二人の間で交わされて行くのである。
ストラスは話している内にシンシアが時折、表情を変えてどこか悲しそうな顔を覗かせている事に気が付くのであった。
「どうしたんだ、シンシア、何か気に掛かる事でもあるのか? もしそうなら言ってくれないか?」
「い、いいえ、すみません気が散ってしまいまして…… 実は私のお友達、親友が行方不明になっておりまして…… 貴族たちのゴシップのタネにされておりますの…… 面白可笑しく、事実無根の無礼な作り話までして…… 悔しいのですわ…… その事を思い出してしまったのですわ、ごめんなさい、もう大丈夫でしてよ、お話をお続けになって下さいませ、それでどうなりましたの? オーガキングとプラチナ冒険者の一騎打ちでしたわね」
「あ、ああ」
それからも暫く歓談は続き、ストラスの語る冒険譚に目を輝かせるシンシアは終始笑顔で楽しそうにしていた。
頃合いを見てストラス付きの執事が静かに言う。
「ストラス様、そろそろ本題を……」
「ああ、分かった」
頷いたストラスはソファーから立ち上がると、部屋の開けた場所に立ってシンシアの方を見つめる。
シンシアはストラスの真面目な顔つきを見つめた後、同じく立ち上がって彼の正面にやや距離を空けて立つのだった。
ストラスは片膝をついて顔を伏せ片手をシンシアに向けて伸ばしながら言った。
「レディータギルセ、シンシア、私を夫として受け入れてくれるのならば、どうかこの手を取って頂きたい、さすれば私は生涯貴女を愛し続け、守り続けましょう」
シンシアはすぐさまストラスの手を取って立ち上がらせ、その瞳を真っ直ぐに見つめて言うのであった。
「シンシアは貴方の妻です、ストラス様、タギルセの家共々、よろしくお願いいたしますわ」
ストラスもシンシアの瞳を見つめ返して答えた。
「ストラスは貴女の夫だ、我がシンシアよ、力の限り家と家族を守る事をここに誓おう」
パチパチパチパチ
部屋の中にいた互いの執事とシンシア付きのメイドたちが拍手をして祝福してくれる。
シンシア付きの執事が静かに宣言をするのであった。
「ただいまの誓いをお受けいたします、これは我が主アール・タギルセ、レディーシンシアの父にしてタギルセ伯爵であるアーロン・タギルセ様より全任されました、不肖、私、バーナード・クラーク子爵、バイカウント・クラークが主人に変わってお受けするものです、ストラス様、少し早いですがこうお伝えして置きましょう、我が家へ、タギルセ伯爵家へようこそ! どうぞ、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願い申し上げます、ストラス様」
メイドも丁寧な挨拶を送って来る。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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