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94. 令嬢、野営 ①

本日三回目の投稿です^^

 早朝から待ちわびたデニーがやって来たと言うのに、朝食の時間は二人きりになる事は無く、昨晩から聞こうと決めていたデニーの出自やエマ自身への気持ちの話を切り出すことは出来なかった。


 イーサン、デビット、マリアの三人に対して掛けた『清潔(クリンネス)』のお陰で奇麗になった三人の内、自室へと着替えに戻ったのはイーサンとマリアの二人だけで、デビットはそのまま食堂で待っていたのである。

 それどころか出会ってから初めて二週間以上離れていたからであろうか、デニーとデビットは積もる話に花を咲かせてしまい、エマは話に混じる事も出来ずに二人の話を聞いているしか出来なかったのである。


 イーサンとマリアが戻って来ると今度は留守中のエマの事を心配した発言が殆ど(ほとんど)になり、『大事な話があるので皆席を外してください』などとは、とても口に出せる雰囲気では無くなってしまっていた。

 

 こんな風になった時のエマの切り替えは早い、これも戦に継ぐ戦の中を生きて来た、父パトリック・バーミリオンの血が為せる業であろうか?


――――今日はとかくタイミングが悪いのですわ…… こんな日は何を行うとしても結果は推して知るべし! ですわね、よしっ! デニーから色々聞くのは明日以降にするのですわ! これ、決定でしてよ、決めました!


 戦場で今日の勝敗を一喜一憂していては指揮官とは言えない。

 負けた場合の反省や原因の分析、改善点の検討などは寄り子で従軍している分析官に任せて、自分は生き残った兵への鼓舞、切り替えて今出来る事、それも従う者たちが理解しやすい勝利、又は作戦成功を目指さねばならない……


 幼い頃から父や叔父、彼らの側近、歴戦の猛将たちと接して来たエマには、生来授かっていた能力なのかもしれなかった。


 兎に角、切り替えたエマは、疲れて帰った自らの側近、いいやパーティーメンバーの疲れを癒す為だけにこの日と翌日を精一杯に使うのであった。



 二日の休養を挟んだ『ノブレスオブリージュ』の五人とヴァイス、シュバルツ、グレオの三頭は魔王復活の二日前にルンザの町を旅立ったのである。


 ミランダやアンナとは、


『少し遠出して珍しいアイテムを探してきますわ、心配しないで下さいませ! 四日目の朝に戻らなかったらお部屋のお掃除をお願いいたしますわ! では…… ごきげんよう! ごめんあそばせっ!』


『え、ええ、分かりました、けど、何で泣いているんですか? どこか痛いんですか? エマさん?』


『本当ですよ! どうしたんです? 何かあったなら言ってくださいよぉ!』


『くっ! だ、大丈夫でしてよ! た、ただ、人の情けが目に染みただけでしてよ! では改めて、ごきげんよう!』


『は、はあ、ごきげんよう、です』


『ごきげんよう、エマさん、気を付けて下さいよぉ!』


『グスッ!』


 こんな会話のやり取りを残して出て来たエマであった。

 キャリッジの中には二日前まで待望だったデニーと二人きりの空間があった。


 回復したデビットはグラオに乗り、同じく回復を果たしたシュバルツが相棒のヴァイスと共に引くキャリッジの御者席には、手綱を操るイーサンとその横で景色を楽しむ超人マリアの姿があった。


 しかし、切り替えたエマの徹底ぶりは並大抵の物では無かったのである。

 デニーに問い掛ける事の大方は、体調や魔力の充填具合、連携のイメージトレーニングの進捗(しんちょく)具合がその主だった物だったのである。


 一々丁寧な返事を返していたデニーが苦笑を浮かべながらエマに問い返した。


「そんなに心配しなくても僕は大丈夫だよ、エマ! それよりエマこそ大丈夫かい? 二日前から休んでいる様には見えなかったのだけれど…… ねえ、エマ? 君は万全なのかい?」


「むむっ! そうでしたわっ!」


 言われたエマは自分の体の状態を、魔力を流して確認し、暫く(しばらく)して口にするのである。


「ゼンシンスキャンノケッカ、マリョク、ガ、ワズカニヘッテイマス、スウジカンノ、キュウヨウヲ、ヨウシマス」


 言った後でデニーに聞くエマ。


「何ですって? デニー?」


「数時間眠れってさ、僕が見守っているから安心して眠りなよ、エマ?」


だそうだ。


 エマはデニーに言った。


「頼みましてよ、デニー! では、おやすみなさいませ、むにゃむにゃ」


「ああ、おやすみ、エマ」


 全くの無防備な状態でデニーの前で眠りについてしまうエマ、いいや、デニーが近くにいるからこそこんなに屈託なく眠れるのだという事に気が付いているのか、いないのか……

 兎に角、久々に全てを忘れて夢の世界に旅立った、エマの朱色の髪を優しく整えるデニーの姿がキャリッジの中に有ったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

ブクマ、評価を頂けましたら狂喜乱舞で作者が喜びます^^

感想、レビューもお待ちしております。


Copyright(C)2019-KEY-STU

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