90. 令嬢、迎える ①
本日一回目の投稿です^^
翌朝、いつもより早く目を覚ましたエマは、朝食の席でデニーに家の事と自分への気持ちを聞いて見ようと心に決め、期待に胸を膨らませて身支度を整え、意気揚々と二階の食堂へと姿を現すのであった。
テーブルに着きミランダが持って来てくれた水差しから、グラスに移した冷たい水をゴクゴクと飲み干して、デニーが下りて来るのを待っていると、思い掛けず別の馴染み深い声を聞く事となったのである。
「た、只今戻りました…… エマお嬢様……」
「デビットっ! どうしたのです! その姿は、い、一体!?」
階段を上がって来たデビットの姿は、全身に纏った鎧を泥だらけにした酷い物だったのである。
エマに促されて席に座ったデビットは兜を脱いだのだが、頬の肉も削げ落ちて見え、ややほっそりとやつれて居る様にも感じた。
ミランダからグラスを受け取ったエマは、デビットの為に水を注いで差し出しながら言葉を掛けた。
「一体何がありましたの、デビット?」
「酷い目にあいました……」
水差しの中に薄切りの柑橘を浸した、爽やかな香りが付いた冷たい水を飲みながら、デビットがぽつぽつと語った内容は次の様な物であった。
幾日か南方の村々で人々に聞き捲った結果、『鍛冶王の里』には思ったより簡単に辿り着けたという。
そこで働くドワーフと呼ばれる鍛冶師たちに魔盾『アスピーダ』を見せた所、興味を持たれ大歓迎されたそうだ。
ドワーフ達は魔石の配置を読み解き、大変な感心のしようだったらしい。
知識を持ち込んでくれたお礼だと言って、デビットの全身装備に同じ効果を付与してくれる話になったが、防具を脱いだデビットの鍛え抜かれた肉体を見て、提案して来たと言う。
曰く、アスピーダの魔石配置を直接肉体に施して見ないか? と言う事だったそうだ。
ドワーフ達は仕事柄、腕力を底上げする為に魔石を埋め込むと言う秘術を以前から使っていたと言うのだ。
埋め込んだ魔石は当然自分で魔力を充填し続ける必要があり、常人では一個か精々二個程度が限界だそうだ。
ドワーフ達の中で触れた相手の魔力総量を感じる事が出来るスキル持ちの老人が調べた所、頑強な肉体とエマ達並みの魔力を持っていたデビットには数十個の魔石が埋め込み可能だと言われたらしい。
デビットは迷うことなく秘術を受け入れる事にした。
施術中に体から力が抜けるようになったら限界なので告げるように言われたそうだ。
結局最後まで脱力を感じることなく埋め込まれた魔石は九十六を数えた。
更に埋め込まれた魔石は色を赤から鮮やかなオレンジに色を変え、デビットの体内に吸収されてしまったと言う。
効果が残ったか確認する為にドワーフの武器で無防備な体に攻撃して貰ったそうだが、使用した武器はどれも粉々に砕け散ってしまったそうだ。
最後の辺りはムキになった長老たちが、希少な武器まで持ち出して来たらしいが、その悉くを破壊した生身のデビットは恨めしそうな目つきで睨まれたと言う。
その後、ドワーフ達に感謝しながら里を後にして帰路に着いたと言う話であった。
ここまで頷きながら聞いていたエマは不思議そうに尋ねるのであった。
「求めた以上の結果を得られたという事ですわね、それは良かったのだけれど、何故そんな姿に? 帰りに何かあったのでしょう?」
「ええ、参りましたよ…… 鍛冶王の里に向かった時は小さな村々を経由して行ったのですが、帰りは里の位置関係でバーミリオン領の町々を通って戻ろうとしたのですが、最初の町に辿り着く前に通りすがりの騎士から話を聞きましてね」
「まあ、どんな話を聞きましたの?」
「ええ、なんでも強面の騎士たちに取り囲まれて兜を取れと凄まれて、顔を見せると何人かの人間に囲まれて面通しをさせられたと憤っていたんですよ! なんでもどこかの騎士があろう事がご主人の令嬢を拉致して逐電しているとか、全く以って騎士道に有るまじき輩だと二人で呆れていたのですが、この面通しと言うので気が付いたのですよ!」
「? 何にですの?」
「だってバーミリオン領ですよ? その探している最低の騎士じゃなくても、私の顔を見知っているかもしれないでは無いですか?」
「あっ!! 確かに…… デビットやイーサンって領内の若い娘たちに人気がありましたわね、姿絵が売り出されちゃう位に」
「でしょう? だから念のために街道を逸れてグラオと共に野宿を繰り返して帰って来たんですよ! 途中で食い物は無くなるし、泥沼に嵌って死に掛けるし、散々でしたよ」
「まあ、大変でしたわ! 兎に角ゆっくりと体を休めなくてはいけませんわ! 苦労を掛けましたね、デビット」
「いいえ、エマ様が気にされる事ではありませんよ!」
デビットが言った、その時弱々しい声がエマとデビットに届いたのであった。
「お嬢さま、遅くなりました…… デビット、帰っていたのか……」
エマもデビットも驚愕の表情でイーサンを見て固まってしまった。
いつもビシッと撫でつけていたオールバックの髪は、爆発したようなボサボサ頭に変じていて、服装もモーニングとシャツではなく農夫の様なチュニックに粗末なズボンに変えられていたのだ。
エマが振り絞るように言葉にした。
「い、イーサン…… 一体どうしたと言うの…… そ、その恰好は一体……」
「ええ、酷い目にあいましたよ」
言いながらテーブルの席に腰を降ろすイーサンを見ながらエマはミランダに声を掛けた。
「ミランダさん! グラスをもう一つ下さいませぇ!」
「はーい!」
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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