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89. 令嬢、踊る ⑤

本日三回目の投稿です^^

 回転しながら着地するエマを逞しい(たくましい)両腕で受け止め、衝撃を消す為に自らも体を捻り回転を始めるデニー。

 このタイミングで膝を深く曲げてしまったエマは、自分のドレスローブの(すそ)を踏み付けてしまったのであった。


「あっ!」


 転ぶっ! そう思いギュっと両の目を瞑り(つむり)、体中の筋肉を硬化させたエマの耳にデニーの覚悟を込めた声が届いた。


「エマ! 君の事は僕が守る! 命を懸けて、ね!」


 この声を聞いた時、エマは先程デニーの横顔を見ながら感じた独占欲の正体に気が付いたのであった。


――――今確信しましたわ、私、デニーを独占したいのではなくて、デニーに独占されたい…… そう思っているのですわ


 大きく体勢を崩したエマは右足を天に向けて放り投げるように伸ばして、地に着いた左足一本きりで上体が今にも倒れ込みそうに仰け反って(のけぞって)いたのだが……

 デニーは倒れ込みそうなエマの体に逞しい両腕を伸ばして包み込んだ。

 右手を首越しにエマの右肩に回して、左手はエマの腰付近、ストマッカーの脇に沿わせて確り(しっかり)と掴み、背中を支える為に左足の膝を折って彼女の背中を自身の太腿で優しく受け止めたのであった。


 恐る恐る瞳を開けたエマの眼前には、美しいデニーの顔が、ほんの拳一つ分ほどの距離でジッと自分の瞳を見つめている光景があったのである。


 何故だろうか?

 エマは静かに(まぶた)を閉じたのである。

 理屈では無かったのであろう。


 デニーの顔も自然な感じで瞳を閉じたエマの顔に近付いて行った。

 エマの唇に、デニーの唇が重ね合わされる、そう思った瞬間。


『ウワアアアアァァァァァァ!!』


 周囲を囲んでいた人々、冒険者も町人も、それこそアプリコットの村民達も含めて、万雷(ばんらい)の拍手と称賛の声が響き渡ったのであった。


 楽師たちもそれぞれの大切な楽器を放り出して、涙を流しながら拍手、両手を動かせない者は体のどこかを叩いて絶賛の音を鳴らしていたのである。


 慌ててエマが言う。


「で、デニー! か、顔が近いのですわ! は、はしたないではありませんかぁ!」


 デニーが顔を離しながら答える。


「ご、ごめんね、エマ、失礼しました……」


 互いに真っ赤になって席に戻った二人に、興奮した感じでクリスが言ったのである。


「す、素晴らしかったよエマ! まさか君にこんな才能まであったとは! 嬉しい驚きだよぉ! デンカも素晴らしいダンスでしたよぉ!」


「ああ、ありがとうクリス!」


「? で、デンカ?」


 エマは何か引っかかる物を感じたが周りの称賛の声に手を振って答える事に夢中になって、僅かに感じた引っかかりを忘れて時を過ごすのであった。


 クリス商会開店祝いのお祭りは大盛況の中終わりを迎えた。


 ミランダの待つ宿に向かいながらデニーがエマに問い掛けた。


「ねえ、エマ! 楽しかったかい? 僕は楽しかったよ、こんなの初めてだった」


 エマはまだ赤い顔をしながらデニーに答えるのであった。


「……う、うん、そ、そうですわ、ね……」


 言葉少なに宿へと戻ったエマは、夕食も摂らないままに自室へと引き籠り、サッサっと布団にもぐり込むと誰に言うでもなく言うのであった。


「ふぅ~、おやすみなさい」


 そうして眠りについて三十分が過ぎた頃、ガバっと布団をはねのけたエマは呟いたのであった。


「デンカ! デンカってデニーが出会った初日に言っていたニックネームじゃありませんのぉ! って事はあれですの? クリスはデニーの古くからお友達、ってことなのですわね? だからこそ、デニクライネって名前を知っていたって事ではなくってぇ!」


 エマはベッドの上で胡坐(あぐら)を組んで、ここ迄に知りえた情報を纏め(まとめ)て分析するのである。


――――クリスは私同様、幼い頃から王都で育って来た(はず)ですわよね? という事はデニーも王都に居たと? そう言う事でしょうね? クリスと同じような大きな商会の息子ですとか? いやいやいや、だとしたらバーミリオンの家にも多少なりとも関わっている筈でしてよね? デニーほどの格好良さなら一度見掛ければ私やマリアが覚えている筈でしてよ、という事は、貴族、かしら?


もしもデニーが貴族の家の次男以降だと仮定したら…… え? ええ? ()しかして、私と結ばれるとか…… そんな未来も有ったり無かったりするのでしょうか? えええ! そ、そんな…… デニーと、け、結婚? そ、そんな…… でも…… えっと…… ふうぅぅ~! 今日は色々な事があったせいで、変な事を考えてしまいましてよ…… 自分一人で考えていても仕方が無いのですわ…… 


よしっ! 明日以降、チャンスを見つけてデニー本人に確かめるのですわ! そう、そうなのですわ! デニーの家柄と私に対する気持ち、本心を確かめてみるのですっ! そうしましょう! 良かった、これで漸く(ようやく)眠れる…… ムニャムニャムニャ…………

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

ブクマ、評価を頂けましたら狂喜乱舞で作者が喜びます^^

感想、レビューもお待ちしております。


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