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88. 令嬢、踊る ④

本日二回目の投稿です^^

 学園入学の前に王太子との婚約が内定していたエマには、舞踏会や学生たちのダンスパーティーの(たぐい)は縁のない物であった。

 将来の王妃と決められていたのだから、当然と言えば当然の事だ。


 シンシアが彼女お気に入りのマロン色の、マリア的に言えばヒキガエル色のドレスを新調して、舞踏会に出る事を嬉しそうに話しているのを聞いた時は、心の底から憎く思い、『舞踏会の日に風邪でも引けばいいのに!』などと願ってしまった事もあった。


 家庭教師(ガヴァネス)が妹達にダンスを教えていたのを何となく眺めて居たり、無骨な父が珍しく酔った時に母を誘って踊る姿を見た事はあったが、自分が同じように踊れるイメージは全くもって湧いてこなかったのだ。


 おたおたしているエマに笑顔を向けてデニーが言う。


「僕もだよ、さあ、行こう」


 いつもと同じ笑顔の(はず)なのに、何故か真っ直ぐ見つめ返すことが出来なかったエマは、()われるままにデニーの手を取って踊りの輪に加わってしまうのであった。


 踊り始めた二人はそれはもう酷い物で目も当てられなかったのである。


 デニーがそっと差し出した両手をガッシっと力いっぱい握り返したエマは、ガチガチになりながらデニーの足を踏んだり、足首をガクンと踏み外したりしながら、まるで歩行訓練を受けている患者の様にデニーに縋り(すがり)ついていたのであった。

 勿論視線は自分とデニーの足元だけを交互に見ているだけで、頭も下を向いたままであった。


 周囲に集まった観客の中から、遠慮を知らない冒険者たちのクスクスと言う笑い声が聞こえ、ますます身体を堅くするエマ。


 デニーがエマに囁いた。


「ああ、まるで駄目なんだね、僕たちって、ふふふ、じゃあ折角だからいつも通りにしようか、ねえエマ?」


「い、いつも通りって、な、何の事ですの、デニー?」


 恥ずかしさで顔を真っ赤にしたエマが、僅か(わずか)に顔を上げ上目使いでデニーに聞いた。

 聞かれたデニーは、足元をエマに踏まれてガタガタさせながらも、美しい顔に少年の様な笑みを浮かべて答えるのだ。


「いつも通りはいつも通りさ! 戦闘でのコラボで僕とエマ程の練度を持ったパーティーやコンビはいないと、僕は心から信じているんだよ! だから見せつけてやろう! 僕と君がこの一か月間、いいや、出会ってから二か月間の間に培って(つちかって)きたコンビネイション、それを皆に見せつけてあげないかい?」


「え、それってどういう?」


 デニーはいつもの微笑みを深くして悪戯(いたずら)そうにニッコリさせて言ったのである。


「僕に任せて! さあ、もう下は見ないでね! 僕の目だけを見て、僕の動きにだけ合わせて着いて来て!」


 グンッ!


「で、デニー!」


「良いから! さあ、行こう!」


 デニーのステップ、いいや足運び、いやいや足捌き(あしさばき)が一変した。


 速度を上げ、全身の切れもダンスと呼んで良い物では無く、模擬戦や実践の鋭い踏み込み、一転して回避の動き、反撃の為の回転からの牽制(けんせい)の為のフェイク、そして本命の攻撃を叩き込むための反転動作……


 休む事無き素早い動きは、エマがこの二か月の間、特にここ二週間の間に考えるのではなく、感じるままに連携訓練を繰り返したデニーの動きそのものであった。

 だとすれば、考えるまでも無い、目の前にいるデニーの美しい金色の瞳を見つめたまま、エマもデニーに合わせて動けばいいだけである。


 いつもデニーの背中だけを見て、呼吸を合わせ次の動きを予測して来たエマなのだ。

 目の前にはデニーの顔があり、僅か(わずか)な筋肉の動き、視線や表情の変化、それらを直接目にすることで、次の動作を確信を持ちつつ手に取るように予測する事が出来たのだった。


 他のカップルが一歩ステップを踏むタイミングで、回転し大きく動作を変えながら、距離を保って激しく踊り続ける二人に、嘲笑(ちょうしょう)()らす観客は皆無になり、あまつさえ十組ほどに増えた踊り手たちも息を飲んで二人の演武、いいや踊りに目を奪われていたのである。


 反して楽曲の奏者たちは二人のダンスに釣られた様に、テンポを上げ、喧噪(けんそう)ともとれる音の奔流(ほんりゅう)を自由気ままに奏で始めるのであった。


 鼓笛(こてき)の速度も臨界に達し、演者たるデニーとエマの動きも人の限界を迎えようとした時。

 互いに汗を(たぎ)らせた『与える者』、『エンターティナー』の心は言葉を交わさずとも一つとなった。


 デニーが握り続けたエマの手を大きく宙空に向けて振り出すのと、全ての楽器がかき鳴らされるのは同時であった。

 空に舞うエマは数回横回転をして、バーミリオンのドレスを大きく翻し(ひるがえし)ながら、周囲に集まった人々に向けて、渾身(こんしん)の『フルヒール』を発動した。

 バーミリオンの魔力は広場全体を包み込む。


『ウワアァ!!』


 美しい朱色の輝きに包まれた人々は歓喜の叫びをあげた。

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)


まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

ブクマ、評価を頂けましたら狂喜乱舞で作者が喜びます^^

感想、レビューもお待ちしております。


Copyright(C)2019-KEY-STU

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