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87. 令嬢、踊る ③

本日一回目の投稿です^^

 スローテンポなその音曲は、デニー始めブレイブニア王国の民や貴族には馴染みのない物であった事であろう。

 しかし、エマ、アメリア・バーミリオンには馴染み深い物であったのである。

 幼き日から領地のバーミリオン領で何度も耳にした旋律は、十五歳に成長した今であっても拭い去る事が出来ない、暗く、陰鬱、(いんうつ)な戦いの記憶を彼女に思い起こさせるのでった。


 このテンポは捕らえられた南方の兵士が悲しみと恨みを届ける為に彼女の前で奏でた曲、その物であった。


 笑顔を浮かべる父、パトリックや叔父スコット、イーサンの兄であるトマスとは対象的に、曲を奏でながらこちらを睨み(にらみ)付ける音楽家達の歪め(ゆがめ)た表情を見た幼いエマは、酷い恐怖を感じた物であった。


 この傭兵(ようへい)たちも、いづれ南方の戦線で、はっきり言えばエマに近しい人々の手によって、或いは戦闘の中で大怪我を負わされ、或いは捕らわれた後に手足の腱を切断され、ゴミ(くず)の様に放逐(ほうちく)された者たちであるのは明白であった。


 バーミリオンの悪魔。

 そう言われ続けた首魁(しゅかい)たちは、揃って子供の頃からエマを可愛がってくれた頼もしくも優しい、大好きな騎士や将軍たちであった。

 憎しみと怒りを込めて敵が呼んだ蔑称(べっしょう)に他ならなかったのである。


 幼いエマには彼我(ひが)の間の埋める事の出来ないギャップが、トラウマのように焼き付いてしまっていたのだ。


 勝利の喜びに沸く家族や家臣たち、対して捕囚(ほしゅう)となり敵の為に故郷の音楽を奏でさせられる屈辱に耐える者たち、戦いの結果が(もたら)した当たり前の残酷な現実を思い出してしまったエマが、その記憶から逃げるように顔を背けた視線の先には、異国の音曲を聞きながら、いつに無く真面目で身動ぎ(みじろぎ)もしないデニーの美しい横顔があったのである。


 中央に設え(しつらえ)られた薪が灯す赤い光を浴びて、金色の長いまつ毛と同じく金色の瞳に朱、バーミリオンの輝きを返すデニーに対して、エマ、アメリア・バーミリオンは生まれて初めて、異性に対して美しいと、そして誰にも奪われたくないと言う、特殊な感情、独占欲を感じてしまったのであった。


 この広場に集まった冒険者や町人の中から、悲しく聞こえるスローな曲に合わせて踊り出すカップル、二人組の踊り手が現れ始める。

 大体五組、いいや六組だろうか?

 互いに両手を繋いで、近づいたり離れたり、横に並んでリズムに合わせて進んだり下がったり、まるで鎮魂(ちんこん)の為の儀式のような踊りを披露するのであった。


 エマが見つめる横顔のデニーは、じっと踊りに集中しているのかと見えたが、不意に話し始めた。


「国が無くなるという事は、こう言う事なんだね、エマ」


「えっ?」


 デニーは視線を踊る人たちから離さずに語り続ける。


「この音楽は奏でる彼らの悲しみ、鎮魂、それか郷愁(きょうしゅう)かな…… 戦いに敗れて帰るべき故国(ここく)を失った人々の悲哀に満ちているね…… 国の中心で人々を代表する権力者のほんの些細な判断の誤りが、これ程悲しい旋律を産み出してしまうんだね……」


「デニー?」


 エマが掛けた声にもまだ振り返らずに静かに言葉を続けるデニー。


「今は勝者であるブレイブニアとて同じ事だよ、中央にある者が国の舵取り(かじとり)を間違えてしまえば、国中の民が彼らと同じ悲しみを背負う事になる…… 立場ある者は、自分のプライドや安っぽい対抗心では無く、常に国民、市井(しせい)の人々の生活を守る、その一点だけを自身の行動規範の軸に置いていなくては務まらないんだと、この曲を聞いていると感じさせられるよ…… それに」


「それに? なんですの?」


 ここで初めてエマの顔をちらっと見たデニーは、再び視線を正面に戻して言った。

 視線の先は踊りでは無く演奏者たちに向けている様だ。


「彼等も今やこのブレイブニアの民だ、亡国の悲しみを背負わされ、更に戦乱によって不自由な体となった彼らに対して、ブレイブニア王国は充分な生活を担保しなくてはならない…… 勿論、経済面だけでなく生き甲斐や楽しみと言った、人生の華やぎといった面でも……」


「……」


 深刻なデニーの話に対して、エマが掛ける言葉を探していると、不意にデニーが立ち上がってエマの正面に向きを変えた。

 片足を引き、同じ方の腕を大きく回して胸に持ってくると、もう一歩の手をエマに向けて差し出しながらこう言う。


「エマ、僕と踊ってくれるかい?」


 エマは目を白黒させながら狼狽え(うろたえ)たように答えた。


「お、踊り、ですの? ど、ど、どうしましょう、わ、私、踊った事がありませんの……」

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

ブクマ、評価を頂けましたら狂喜乱舞で作者が喜びます^^

感想、レビューもお待ちしております。


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