80. 令嬢、特訓 ③
本日一回目の投稿です^^
『明るい食卓』と『ストレスフリー』の面々が沢から冷たい水を汲んできたり、干した甘い杏子を配ったりして五人を労う横で、イーサンが自分そっくりな八体の分身を産み出して話し掛けた。
「では、イーサン掛かって来なさい」
分身の中の一体が首を傾げて聞き返す。
「ふむ、まさか八対一で勝てると? 一対一でも決着が付かないと思うのだが? イーサン?」
オリジナルイーサンが答えた。
「そう思うだろうなイーサン、実は少し試してみたい技を思いついてね、八体同時に来たまえ」
八体が声を揃えた。
『泣いても知らんぞ、参るっ!』
シュン! キンッ! カッ! キキキキンッ! カッキーンッ! シュンッ!
「ドロン!」
目で追えない速度で数度の交錯を交わした後、オリジナルだろうイーサンがスキルを使って姿をくらました。
次の瞬間、上空に姿を現したイーサンの全身は緑のオーラに包まれていた。
オーラはイーサンが持つティザースローインに集まって行き、全てを吸い込んだ刀身は緑色の雷光を帯びバチバチと輝きを溢れさせるのであった。
「さらにドロン!」
呟いたイーサンは集まっていた分身三体の後ろに現れ、間を置かず差し込まれ、切り払われた刃によって三体を霧の様に消失させたのだ。
「そして、ドロン!」
数回繰り返し、瞬く間に七体の分身を消し去る事に成功したイーサンは、最後の一体に向けてティザースローインを投げ込んだが、分身は自分の手にしていたスローインで受け止めようとし、ティザースローインごと真っ二つにされて姿を消したのである。
イーサンは投げた自らのティザースローインを拾い上げ、それを見つめたまま動きを止める。
「イーサン、凄い光だったね! 林の向こうからでも雷光が迸って見えていたよ!」
林の中に作られた石畳の小径をエマと並んで歩いて来たデニーが感心一入といった感じで声を掛けるがイーサンの返事はない。
只じっと自分の手の中を見続けているだけだった。
近付いていった二人の内、今度はエマが声を掛ける。
「一体、どうしたと言うのですか、イーサン? 何かあったのですね?」
「お嬢様、壊れてしまいました、モーガンに頂いたティザースローイン、が……」
「「えっ!」」
驚いた声を上げた後、デニーが慰めるように言った。
「予備はあるんだろう? 全部で十六本だったよね、まだ十四本残ってるのじゃないのかい?」
イーサンはデニーの言葉に答えた。
「そうなのですが、やはり私の魔力を帯びると耐えられない様なのです…… やはりあの武器を手に入れるしか無いのでしょうな……」
「「あの武器?」」
声と首を傾げる素振りをピッタリと重ね合わせるエマとデニー。
二人に顔を向けてイーサンが言った。
「以前エマお嬢様が皆に聞かせた話の中に有った『聖王ペジオの短剣』ですよ、仰っていたでしょう? 魔力を込めて使う武器では最高クラスの神聖銀を使った短剣だったと…… 二振りあるうちの一本は例の、どこからともなく現れた夫婦の奥さんが使っていたようですが、もう一本は聖王の神殿の奥深くに隠されていると…… 魔槍ガエ・ボルガの穂先となっていて、求めに訪れた冒険者に謎掛けをし、答えられた物にそれを与えると言って居られたでしょう、如何ですか? 思い出して頂けたでしょうか?」
エマは答えた。
「ええ、覚えてはいますが、聖王の神殿は西の山を越えた先だった筈でしてよ、随分遠くですし、向かった所で『ルンザ百物語』が正しいとは限りませんよ? それでも行くのですか、イーサン?」
デニーも続いて言う。
「決戦まで二十日を切った今の状態では、みんな揃って遠征、と言う訳には行かないからね…… 少なくとも僕とエマは付いて行く事が出来ないと思うけど……」
イーサンが二人に頷いて見せ、はっきりと決意を込めた声で答える。
「分かっていますとも、お二人が向かってしまってはアプリコット村の皆さんの事が気掛かりになってしまい、来る決戦で全力を出し切る事は出来ないでしょう、今回は私一人で行ってまいります! 何、お金の使い方も覚えましたからね、ご心配無く! 決戦の前には必ず帰ってまいります」
「まあ、そこまで言うのであれば止はしませんけれど…… 無理をせず危険だと思った時は迷わず逃げて来るのですよ! 私、死ぬ事は許しませんことよ、良いですか?」
「分かっておりますお嬢様、デニー、エマお嬢様をお願いいたします」
「分かった、僕の命に代えてもエマを守るよ、イーサン」
デニーがレジルを胸の前に持ち上げ、イーサンに力強く言った時、三人に向けてデビットの声が発せられた。
「イーサンの旦那が行くのならば私も向かって良いでしょうか? ドワーフの工房があると言う南方の僻地『鍛冶王の里』へ」
マリアも大きな声で続けた。
「私も強者に試練を与えると言う、武闘家の聖地、北西の山奥にある『鬼王の岩窟』へ行かせて欲しいのです! 力を試し、さらに成長したいと思うのです!」
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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