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100. 剛腕、しばかれる ③

本日一回目の投稿です^^

 そんな会話のやり取りから四分の一刻、三十分が過ぎた時、地下牢の設え(しつらえ)られた階層に、外格子のカギを開く金属音が鳴り響くのであった。


 ガシャガシャ、ガシィ~ン!


 下げていた視線を上げたストラスの目には、大柄な自分と遜色ない巨体の二人の男が目に入って来たのであった。

 姿は確認できないが、自分の許嫁、いいや、未来の嫁さん、シンシアの声が聞こえた。


「ほら、スコット卿、トマス卿、この男ですわ! アメリアを攫った(さらった)くせにシレっと我が家に現れた極悪人でしてよ!」


 酷い言われ様であった。

 ツイっと顔を上げたストラスは戦慄を覚えたのであった。


 二人の男の内一人は髪と瞳の色が朱色に輝く酷薄(こくはく)そうな男であった、面差し(おもざし)はどこかアメリア、エマに似てはいるが、その事よりストラスが男を一目見て思ったのは幼少の頃から憧れ続け、購入した絵姿に心躍らせた人物の名前であった。


『バーミリオンの鉄槌(てっつい)


 あらゆる戦で先陣を務め、群がる敵を一掃(いっそう)して常に勝利を齎し(もたらし)続けた戦場の明星、スコット・バーミリオン、その人だと確信したのである。


「ほう、こ奴がエマ、いいやアメリア様を…… 切り刻んでも足りぬ…… どうしてくれようか? カティ?」


 そう言った男も又、ストラスが子供の頃から憧れ続けた存在であったのである。


『バーミリオンの影』


 ストラスも親しく通じたアメリア、エマの忠実な執事、イーサンにどこか似通った相貌(そうぼう)をしたその男は、残忍な微笑みを湛え(たたえ)てこちらを睨み付けていた。


 子供の頃に求めて買い与えられた絵姿の裏の注釈はこうであった。


『バーミリオンの影に狙われた者は、その痕跡さえ残さず消失するのである』


 ストラスは、両の目から諦めの涙を流し、自身の死を確信するのであった。


「待て待て待てぇぃ! 一応話位は聞いてやろうでは無いか! なぁ、そうだろう! ここ、天井が低いな? シンシア?」


「ごめんなさい、おじさま、言い付けて高くして置きますわ!」


 シンシアと言葉を交わしながら現れた存在は……

 三メートル程もあるタギルセ家の天井に頭を横にしてズルズルと擦りつけて歩いて来た、巨人族の如き存在だったのである。


「ひゅっ!」


 変な音がストラスの喉を通って周囲に響いた。


「どれ」


 巨人が朱色の髪と、同じ色の瞳を剥きだし、胸まで下げたバーミリオンの(ひげ)を揺らしながら、ストラスに言うのであった。

 ストラスには瞬で分かったのである、この巨人が王国一の勇者、いいや暴力の権化(ごんげ)、パトリック・バーミリオン、その人である事が……


 パトリック、エマの親父が怯えているストラスを見つめて言った。


「その衣装はダキアの家の者か? ふむ、面白いな…… 話を聞かせて貰おうか、私のエマ、アメリアがどこでどうしているのかを」


 巨人、いいやバーミリオンの悪魔、いやいや、ストラスの最愛の妹、エマの父親は、ストラスでさえ少しも動かせなかった鉄格子に手を掛けると、熱い内の飴細工をぐにゃりと曲げるように開いて牢獄の中へ入り、後ろ手で同じようにピタリと格子を元に戻すのであった。

 ストラスの喉がゴクリと音を鳴らす。


 閉じられた鉄格子が無いかの様に、牢獄の中に入りパトリック・バーミリオンの背後に立つトマス・スカウト伯爵、その瞳は一切の感情を排した殺戮(さつりく)マシーンのそれである。

 一体どうやって? ストラスが喉をゴクリゴクリと鳴らした。


「ふむ」


 牢の外にシンシアと二人きりで取り残されたスコット・バーミリオンは自分の右の人差し指を使って、鉄格子を細かく切断して牢屋内に入り、兄であるパトリックの横に腰を降ろしたのである。

 ストラスは既に自分の唾すら飲み込めずにだらだらと流れるままにしていた。


 その隙間を通ってきたシンシアも又、三人と同じくらいの非難の視線をストラスに送りながら言うのであった。


「トマス卿、スコット卿、そしてバーミリオンのおじさま! とっちめてやって下さいませぇ! 恥ずかしながらこのシンシアの夫となる筈だったこの愚者(ぐしゃ)は、アメリアを手に掛け、うううっ! 恥ずかしげも無く私にその遺品を贈ろうとした、うううっ! 大罪人でございましてよ! あああ、アメリアぁ~! エマぁ~! ワーンワンワンワン、おーいおいおいおいぃ!」


 シンシアの声を聞いたアメリアの父、エマパパのパトリックが大きな顔を斜めに傾げストラスの顔を覗き込みながら言った。


「そうなの、かぁ~」


「ウワーン、ワンワンワーン! ち、違いますぅ! エマ、アメリアは、エグッエグッ! 友達なんですぅぅ~! エーンエーン」


 この日、『剛腕(スティフアーム)』と呼ばれた元ゴールドランク冒険者は、十数年ぶりに子供のような涙に濡れたのであった。


 全てをゲロったストラスは、変え馬を何頭も連れたパトリック、スコット、トマスの背を追って、未来の妻シンシアを鞍の前に乗せて、青褪めながら一路、ルンザに向けて必死に手綱を手繰り(たぐり)(むち)を入れ続けたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

ブクマ、評価を頂けましたら狂喜乱舞で作者が喜びます^^

感想、レビューもお待ちしております。


Copyright(C)2019-KEY-STU

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