ことはじめとなる過去話
ぺルリという男が引き連れて来た黒船により、わが日の本の国は武器などの技術の差に驚き、諸外国との力の差に植民地として占領されると慄き混乱した。
けれども、我が国がヨロッパさまとは陸続きどころか、遠く離れた東の海の果てにあるという地理的条件で、ヨロッパ様の船に薪や水を差し上げる約束で何とか逃れられたそうだ。
長く鎖国していた我が国が開国し、西洋文化を積極的に取り入れて、洋装してのパーティまで行っているのは、全てこの「植民地にされない」という目的の為なのだという。
まだ八歳の私にこんなことを教えたのは、私の命の恩人であり父の弟子でもあった美しきお方だ。
男性に美しき、とはおかしいが、すんなりとした肢体に、ごつごつした所が無い整った顔立ちをした彼は、美しい人としか描写できないのだ。
「君もヨロッパの神様を勉強しなさい。」
兄となった桐生利秋様は私に聖書というものを手渡した。
「読み物としては面白いですが、私はこの神様は嫌いです。どうして女が男のあばらから作られたなんて言われた上に、男に従い家畜同然の扱いを受けねばならないのです!」
「ははは。私はお前のそういう所が好きだ、りま。だがね、私は勉強と言っただろう?相手がどんな考え方をしているのか知ることで、君に酷い事をしようと考えている者達から逃げ出すことが出来るんだよ。」
「まあ!」
「西洋の男は女性に優しくするだろう。だが、その根底に男よりも劣っていると考えがあったとしたら、その男が望む振る舞いを出来ないという理由で君は簡単に折檻を受けることだってあるのだよ。」
「まああ!恐ろしい。」
「だからね、ヨロッパの男が望む女性像というものを学んでおいた方が良い。こうすれば邪な目を向けられないという守りの鍵も見つかるだろう。」
私は聖書を胸に抱いた。
古い概念の象徴だがなんだか知らないが、私の家は、父の道場は、古いものだとして放火された。
昨日まで笑っていた人達が暴徒になる様は恐ろしいの一言であった。
今の私の命があるのは、父の弟子でもあったこの桐生利秋様が、駆け付け助け出してくださったからであろう。
今の私の身分は彼の妹だ。
下働きでも私は一向に気にしないのに。
「ああ、脅えさせたか?父上殿には私はかなり世話になった。私が君を父上殿の代りに守り慈しむと約束しよう。」
私は再び聖書を抱く腕に力を込めた。
そして、まだ十六歳なのに誰よりも凛々しく見える兄様となった男性を、神様を想うようにして見上げた。
「わたくしも!兄様の為には何でもしましょう!」
私という人間は、きっとここで形づけられたのだろう。
兄の言葉を守り、兄の為だけに生きようという、そんな人間に。
先に言っとく時代考証:鹿鳴館の時代を勘違いしていました。よって、鹿鳴館の文字を消して文章を修正しました。(2021/4/9)
鹿鳴館→1883年に建造でした。調べないで鹿鳴館は明治で書いていてすいません。なんちゃって明治ですがあからさますぎる所は修正します。もし、お気づきのところがあったら教えてください。私の勉強にもなりますし、積極的に修正していきます。話がおかしくならない限り!
修正できないときは、ファンタジーということで許してください。