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097 平和を満喫

第七章 漸く開始です。

本章が一応最終章となります。

よろしくお願いします。

 ナツキが元の世界に戻ってから、一年が過ぎた頃。


 俺とセレノは、ヘンデルさんに顔を見せたいと言ったミーナを神聖王国に送った後、予定通り商業王国の黄昏亭に身を置いていた。


 ロベール親子からは悪魔の依頼を受ける前以上の仕事を任され、相変わらず俺は睡眠魔法でのサービスも担当。

 ここまで来ればもう従業員だと言うと、「じゃあ」と正式に従業員になることに決まった。

 まあ冒険者を辞めてその分の暇が出来たので、この決定に問題はない。寧ろ危険という危険が無くなっている為、精神的に楽だと思える。

 冒険者という職業にストレスを感じていたのが、とてもよく分かった。



 その一方で、ミーナは今もソロで冒険者を続けている。ヘンデルさんの教会をメイン拠点に、偶に俺達に顔を出しにここ黄昏亭にやってくる。

 話を聞くと、ミーナは一人依頼をこなして、その稼ぎの殆どをヘンデルさんに渡しているそうだ。

 はじめは拒まれたものの、ミーナは恩返しだと、子ども達の為でもあると言って、無理矢理にでも受け取ってもらっているらしい。


 因みにパーティは組まないのかと聞いてみたが、「色々面倒くさいから嫌」とのことだった。

 何度も誘われた事はあるようだが、誘ってくる相手に限って純粋な戦力だけが目的でないのが筒抜けで気持ち悪いそうだ。

 その分俺達とパーティを組んでいた頃は居心地が良かったと言われて、内心少し嬉しくなった。確かに俺もナツキも全くそういうタイプではないからな。


 ただナツキはもういないし、俺達が冒険者に戻る事もないので、頑張りすぎて倒れるなよとだけ言っておいた。

 目の前でヘンデルさんに倒れられた事があるから、そこは分かってると思うが。




 と、そんな感じで充実した日々を過ごしていたら、気が付けばそれだけの時間が経っていた。

 冒険者の片手間でやるには少しキツかった宿の仕事も、これがメインとなるとやりがいがあって楽しいとも感じた。

 俺には冒険者よりも、こういう仕事の方が向いているんだと思う。

 それに気づかせてくれた上に、今まで俺やセレノに温かい居場所をくれたロベールとエミリーには感謝しかない。



 そんなことを思いつつ、俺は宿の庭に面した縁側的なところでまったり休憩していた。

 庭では、セレノが洗濯物を干している。そして得意の風魔法を使って一気に乾かすようだ。

 一旦干すという工程が面倒そうだが、こうしないと乾きにくく、シワになりやすいらしい。


 それなら仕方ないよなと考えながらセレノを見続けていると、目が合って此方に微笑みを向けてくる。


 ……まるで天使のようだ、という比喩表現を俺なんかが使うことになるとは思わなかったが、それを大袈裟に感じない程にはセレノのことを可愛いと思っている。


 もうなんというか、愛しくて仕方がない。普段は何をしていても可愛いし、真面目モードの時はそれはもう頼りになる。

 セレノがいなければ、こんなにも楽しくて安定した生活は出来なかっただろう。


 俺はもう、セレノ無しでは生きていけない気がする。



「どうかしましたか?」

「……ん?なにが?」


 目で追っていたはずなのに、気づくとセレノが隣に座っていた。そして突然そう聞かれ、訳の分からない返事をしてしまう。


「なにがって……ずっと見られてたら気になります」

「……ああ」


 庭にはまだ洗濯物が干されている。俺の視線が気になって、魔法で乾かすどころではなかったらしい。

 仕事の邪魔をするつもりはなかったんだが……こうなると言わないのはよくないな。


「別になんでもないよ」

「……本当ですか?」

「うん。俺ってセレノ大好きだなーと思ってただけだから」

「……えっ」


 言わないと思わせての不意打ち。分かりきってる事だから「なんでもない」よな?

 そしてセレノはこういう真正面からの言葉に弱い。案の定みるみる内に顔が赤くなっていく。

 隠さず言うついでに揶揄ってみた訳だが……やっぱり可愛すぎる。


「……なんでもなくない……」

「そうか?いつも思ってることだからなぁ」

「うう……私だって、レーブくんのこと大好きですよ」

「……、ありがとう」


 そして対抗しているのかセレノも同じような台詞。本当に嬉しいが、そんな恥ずかしそうに言われたら…… ちょっと我慢できない。

 俺は腕を伸ばし、セレノを抱き寄せる。セレノも欲していたように俺に腕を回し、密着してくる。


 ……はあ、溜息が出るくらい幸せだ。



「……おいおい、なんか空気が甘ったるいと思ったら、お前らか」

「……ん、ロベールか。いいだろ別に」


 部屋から出てきたロベールが、呆れ顔で此方を見ていた。既に何度かこの光景を見られている為、今更恥ずかしさはない。

 ……というのは俺だけのようで、セレノは俺から離れ、手で顔を隠していた。


「いーやよかないね、セレノちゃんの仕事止まってるじゃねーか。邪魔してねぇで働け」

「だったら仕事くれよ、俺の分はもう終わってるんだよ」


 当然やることやって終わってるから休憩してるんだけど。なにもないのに働けと言われても困る。


「……なら見てるだけにしろ、手を出すんじゃない。分かったか?」

「……見てるだけだったんだけどな……」

「なんか言ったか?」

「いやなにも。りょーかい」



 そう返すと、ロベールはどこか不満げに奥へ戻っていった。

 お前だってこれから昼寝するくせに、人の休憩に文句つけないでほしいね。


「ロベールってあんなうるさいやつだったっけ?」

「……私達がサボっていたのは、事実なので」

「別に夕方までに終わってればいいと思うけどな。後セレノはサボってない、俺が邪魔しただけだ」

「またそうやって……じゃあ、私も今からちょっとだけサボります」


 そう言ってセレノが迫ってきたと思ったら……次の瞬間には、キスをされていた。


 どういう意味だと考える間もなかった。顔を赤くしたまま、悪戯に笑みを浮かべるセレノが庭に戻っていくのを眺めて、漸く俺の顔にも熱が昇る。

 ……全く想定していなかった。セレノにそんな小悪魔的なことができるなんて……ん?さっきは天使じゃなかったか?おいおい、セレノは天使でも悪魔でもあるのかよ……また新たな魅力を知ってしまったじゃないか……


 ……と、気持ちの悪い思考を一気にしてしまう程には頭が活性化した。最近のセレノは破壊力があり過ぎて困る。


 もう数年してセレノが俺の揶揄いに慣れてしまったら……俺はいよいよセレノに何一つ上回れる要素がなくなる、かもしれない。


 様々な感情を渦巻かせ、俺は力無く仰向けに寝転がった。

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