094 正義が劣勢
「……何をやってるんだ……?」
ミーナに喝を入れてもらった後、ナツキはただの人間とは到底思えない動きで、悪魔を圧倒していた。
それは良かったのだが、今は何故かナツキも悪魔も攻撃を止め、何やら会話を始めた。悪魔に至っては完全に無防備な状態だった。
それをナツキが攻撃しないのは、それなりの会話内容なのだと思うが……こちらとしては早く決着をつけて欲しい。
その間、こっちの戦力はどんどん削られている。減ったと言えどまだ大量にいるゴブリンに加え、昨日の巨大なオークやその他ヤバそうな魔物がどんどん侵攻してきており、前衛(と勝手に俺が思っている)の近接冒険者達が苦しそうに戦っている。
基本的に魔法があまり効かない為、後衛の魔法師が魔物の数を減らすことが出来ていない。そのせいで、前衛にばかり魔物が集中してしまうのだ。
まずいとは思っていても、無力な俺は何もすることができない。何もできないのに前に出て死ぬとかいうただの迷惑になることもしたくない。
何か現状を打開する方法はないのか……頼みの綱の白金級はまだ来ないし……実力を否定するつもりはないが、やっぱり信用には値しないな。
ああ、ナツキ程とはいかなくても、実力のある人がいれば――
「すまない、遅れた!今の状況は!?」
馬の足音と共に女性の大声が聞こえて振り返ると、刀剣王国のギルドマスター……トモエが一人で此方に向かって来ていた。
終わりの見えない魔物の集団を前に、顔が死んでいた冒険者達の目に光が戻ってきた。
「「ギルドマスター!!」」
「「トモエさん!!」」
「喜ぶのは早い、仕事を放置するな!それより誰か現状の報告を!」
近くの冒険者達が何を言う訳でもなく集まってくるが、トモエに叱られて慌てている。何を必要とされているかも分からないのか?
そうやって一人苛立っていると、ふとトモエと目が合う。
「……ん、君は……」
「お久しぶりです、レーブです。現状報告ですが、悪魔が出現しました。現在ナツキが一人で相手していますが、その他は無数の魔物の処理に追われており、ナツキの加勢もできていない状況です」
「そうか、やはり彼等も来てくれていたんだな……分かった、私はどうすればいい?」
「悪魔は今ナツキと何やら会話をしているようで、戦っている様子はありません。なので今はその他の魔物の処理を優先すべきだと思います」
「なるほど、了解した。誰か、この馬を守っておいてくれ!」
俺の咄嗟に出た雑な状況説明を聞いてすぐに行動を開始したトモエは、冒険者達の間を縫って走り、冒険者の男に向かって棍棒を振り上げたオークの腕に一閃。
『ブアァァッ!?』
「うるさいっ!」
突然腕を切り落とされて悲鳴をあげるオークに対してそう返したトモエは反撃を跳び上がって躱し、今度は口めがけて渾身の突き。
『ガアァッ……』
「ふっ!!」
剣を引き抜き、空中でそのまま横に一回転、横薙ぎでオークの頭を跳ね飛ばした。
「次っ!!」
剣を納め、絶命したオークの体が倒れる前にすぐさま次の標的に向かって走り出す。三度の攻撃だったが、使った剣は全て別のものだったようだ。
「……すげえ」
なんて頼りになるんだ。あのヤバいオークを一瞬で屠るなんて、やっぱりギルドマスターともなれば動きが段違いだな。
「っ、ギルマスに続けっ!!」
「「うおおおぉぉ!!」」
トモエの活躍により冒険者達も奮い立ち、魔物に自ら突撃していく。
最早、白金級冒険者に頼る必要などなかった。
ーーーーー
剣を構えたまま悪魔を見やっていたナツキに、正気を失った悪魔は躊躇うことなく攻撃を仕掛けてきた。
追尾する魔力弾を次々に飛ばしながら、時折命を狙った魔力の光線を放ってくる。ナツキは動かない訳にはいかなかった。
(何とか正気に戻す方法は……もう倒すしかない、か……)
ナツキはそう結論付け……逃げに徹していたのを急に止めて、悪魔の方へ飛び出した。
「はあぁぁっ!!」
まずは会話をする前と同じように、とにかく剣を振って悪魔に攻撃する隙を与えない作戦をとることにした。
が、剣は厚い漆黒のオーラに阻まれてしまう。逆に盛大に隙を晒し、至近距離で魔力光線の予備動作が見えた。
「くっおらぁっ!!」
空中にいたナツキだったが、思いっきり剣を振り下ろし、弾かれた反動で無理矢理体勢を変えて何とか光線を避ける。
そのまま距離を取って着地し、また魔力弾を避けながら作戦を考え直す。
ただ振り下ろすだけだと、あのオーラはびくともしなかった。それを打ち破る方法は……?
ナツキはまた悪魔に迫り、今度は至近距離で衝撃波を放った。
『……ッ』
少し手応えがあった。が、先程の光線を警戒してそこで攻め込むことはせず、一旦離脱。
物理攻撃は全く通らないが、他の攻撃は通る、と見えた。……それなら。
ナツキは走りながら息を整え……全身に力を入れて思いっきり剣を振り抜き、光の衝撃波をぶつけた。ついさっき出来るようになった技だ。
爆発が起き、飛ばされないようにその場に留まるが、魔法弾の警戒は忘れない。
『ヴゥゥ……』
呻き声が聞こえて、手応えを感じながら悪魔を見ると……オーラが少し揺らいでいるように見えた。
これなら何とかなるのでは。
すぐに距離を縮め、オーラが揺らいで薄くなったところを目掛けて振り抜く……と、今度はそのオーラを腕に纏わせて弾いてきた。
しかしナツキはここで引かず、また手数で押し込む作戦に打って出る。
無心になって剣を振り、どんどん速度を上げる。悪魔もその速さについてくるが、やがて捌き切れなくなった悪魔の頬に傷がつく。
『ヴヴヴ……』
ここで悪魔は一瞬防御を捨て、ナツキの剣に掴みかかった。動けなくなったナツキの周囲に魔力弾を作り、確実にダメ―ジを与えにくる。
ナツキは仕方なく剣から手を離し、逃げに徹する。
剣の柄を蹴って跳び上がり、魔力弾を全て躱すことは出来たが……悪魔に愛剣を向けられてしまう。
「うっ、最悪だ……」
武器が無いことには、ナツキは戦えない。取り返すにしても剣が無いとまず不可能。絶体絶命の状態だった。
悪魔はナツキの剣にも闇の魔力を纏わせ、力任せに振ってくる。ナツキならまず当たることはない速さなのだが、もし当たればどうなるか分からない。その危機感がナツキを鈍らせる。
そうやってナツキが丁寧に避けていると、段々悪魔の攻撃が精密になってきた。もう既に慣れてきているのだろう。
剣撃に加え、魔力弾も飛んでくる。いよいよ逃げる事しかできなくなったナツキは、ふと思った。
僕って、武器が無ければ何も出来ないのか。
「ナツキっ!受け取れ!!」
自信を失くしかけたその時、少し懐かしい声が後ろから聞こえてきた。
逃げながら声の方を向くと、刀剣王国で数年お世話になった長身の女性が、何か細長いものを此方に投げて来ていた。
滑り込むようにして何とかそれをキャッチすると、手の中にあった物に驚く。
「これって……」
それは刀剣王国冒険者ギルドのトモエの部屋に飾られていた、神秘的な力を宿すと言われる……
「聖剣」だった。




