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090 余裕が油断

 太陽が顔を出した時、俺達は見張り交代の為に建物の外に出た。


 村の外には土が盛られた箇所が幾つかあり、ここまでの戦闘で命を落とした冒険者が簡易的に埋葬されていた。

 中には、相性が最悪にも関わらず、オークとの戦闘を受け持ってくれたカーム達のものもあった。


 俺が何もできないせいで加勢すらできなかった為、悔しさで心が痛くなったが……俺達が生きているだけまだマシだと思うことにした。

 折角逃してもらえたのに、俺達まで殺されていたら目も当てられなかったからな。



 感謝と尊敬を込めてしっかり手を合わせた後、俺達は各々見張りの配置につく。


 セレノは目を覚ましてすぐ俺が動けているのを見て安心から泣き出してしまったが、抱き締めて助かったと伝えると少しずつ落ち着いていった。今は少し離れた位置で同じように見張りについている。


 俺だって心配させたくはない。身の丈に合わない高難易度の危険な依頼はもう受けないつもりだった。

 だが、勇者が必要な依頼で、その勇者がパーティメンバーにいるんだから……受けない訳にはいかなかった。

 実際この依頼のためにナツキと、その関連で俺がこの世界に呼ばれたんだから。受けないと神様の目的を果たせなくなる。



 ……ただ、逆に考えれば、この依頼が終わればもう危険な依頼は受けなくてもいいことになる。

 今まで稼いだ金は殆ど使ってないし、この依頼の達成でも大金が入る。

 それならいっそ冒険者をさっさと引退すればいい。金が溜まっている以上、別に冒険者であり続ける必要はないからな。

 そうすれば危険な事とはおさらばできるし、やりたいことだけをやっていられる。


 ……よし、そういうことにしよう。



 一人うんうんと頷き、思考の海から浮上する。


 だが今後どうするにしても、まずは今をなんとかしなければ始まらない。

 突然戦闘が始まって、巻き添えを食らって死なないとは限らない。

 俺が何の力にもなれないお荷物状態なのは痛い程理解しているので、早いうちに逃げておいた方が他の人に余計な気を使わせないで済むと思う。


 ただそんな事をしていていいのかという必要のないプライドと、今更逃げても遅いのではという迷いが、俺の行動を鈍らせる。


 ……ああ、本当に俺はいつも考えてばかりだ。





 そのまま不自然な程何事も無く、太陽は傾き、地平線に沈みかけている。

 太陽が見えなくなれば、また俺達の休息の時間……見張りの交代になる。


「この村は諦めたのかな?」

「さあ、どうだろうな」


 あまりにも何も起きないので、ナツキはすっかり警戒を解いて俺の所に話をしに来ている。

 ナツキにとっては、俺が死にかけたオークも苦戦しない相手のようなので、まだ余裕を持っていられるらしい。


 だが、当然他の人は皆そんな余裕はないだろう。

 あんな化け物を作り出すようなやつが、たった一つ村を取り返されただけで怯んだりするだろうか。


 悪魔側の強さは、未だ計り知れない。どれだけの統率力を持っているのか、どれだけの規模なのか。分からない事だらけだ。

 仮に、あの強さのオークが普通レベルだとするならば……ナツキ一人しか対抗できないかもしれない。そうなるといよいよ勝利は難しくなってくる。


 それをこいつは分かっているんだろうか。


「正直物足りないんだよねー。来るなら来て欲しいんだけど」


 ……


 ……は?


「……お前それ、本気で言ってんのか?」

「……うん、割と本気だね」


 なにか変?とでも言うように首を傾げるナツキ。こいつ……勇者一人の力に頼るしかないかもしれないのに、当の本人はこんな感じだとは……

 頼もしいと取るべきなのか、考えなしの脳筋と取るべきなのか……


「そんなに余裕ぶっこいてると痛い目に遭うぞ」

「ぶっこいてなんかないよ?」

「どうだか。周りの状態を見てたらそんなこと言えないと思うけどな」

「僕がなんとかするよ」

「……なんとかできなかった時の事を考えてないって言ってんだよ」

「……ごめん」


 余りにも危機感のない物言いに、思わず口調を強めてしまった。


 こいつ、前はもっと慎重だったと思うんだけどな……勇者の力に慣れてきて気が緩んでいるのか?

 いくら飛び抜けた力があるとはいえ、気を抜いていたから負けたなんて事があれば、もう他の誰にもこの事態を収拾できなくなってしまう。

 やはり、ナツキにはそれをちゃんと言っておかなければならないようだな。


「……悪魔の討伐は、勇者であるお前にしか出来ないんだぞ……わかってるのか?」

「……そうなの?」



 ……おっと?


「え……?神様から聞いてないのか……?」

「うん、そういうのがあるとは聞いてたけど……そうか、これがそうだったんだ……」


 ナツキは数年前に見せていた真面目な顔になり、顎に手を置いて何やら考え始めた。


 ……まさか、本当に分かっていなかったとは……神様はナツキには詳しい事まで説明してくれていると勝手に思っていたが、そんな事は全くなかったようだな。

 だがしかし、神様から聞かされていなくても、依頼の話を聞いていたら俺でも推測できるくらいだから、やっぱりナツキも調子に乗っていた部分はあるだろう。


 うーん、こんなんで大丈夫なのか……



「交代の時間だ」


 二人して考え込んでいると、数人の騎士がやってきた。振り返ると太陽は既に沈み、辺りは仄かに暗くなっている。


「……まあ、しっかり頑張ればいいだけだ。気負い過ぎても良くないからな」

「……そうだね。それまではしっかり休んどくよ」


 まあ今すぐっていう訳でもないので、(きた)る時までに気持ちに整理をつけてもらえれば、それでいい。


 昨夜休んでいた建物に皆で戻り、簡易的な食事を摂って各々寝る。

 また騎士達やナツキに睡眠魔法をせがまれたが、こんな時にぐっすり寝られても困るので、あくまで睡眠導入という感じの弱い威力でかけてやった。





 翌朝、陽が出るにもかなり早い時間。


「魔物の大群が来たぞ!村人は地下に避難!他は外に!!」


 夜番の騎士達が走り、緊急事態を告げてまわっていた。それによって寝ていた全員が飛び起き、こんな時間にも関わらず直ぐに村に来ていた全ての戦力が外に集まった。


 前線に来てすぐ、村の外を見る。地平線近くにはっきりと見えたのは……



 夥しい数の、禍々しい魔物の影。

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