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009 依頼の受注

「レーブ兄、これからどうしますか?今日の予定、もう終わってしまいましたが」

「そういえばそうだったね」


 今日予定していたのは、基本的なことや、レーブのことについて教えてもらうということだけだった。まだ昼食時にもなっていないため、時間が有り余ってしまっている。とすると、あとやることと言えば……


「依頼でも受けてみようか」

「え、大丈夫ですか?」

「うん、問題ないよ」


 昨日魔力の枯渇でぐったりした上、寝られなかったというのに、なぜか今は割とピンピンしている。ここがそういう世界なのか、それともレーブの肉体がすごいのか。いずれにせよ、都合がいいのは確かだ。早い所この世界での生活に慣れてしまいたい。そのためには、まずは絶対に関わるであろう冒険者稼業を体験しておくのがいいだろう。


「怖くないんですか」

「まあ怖くないと言ったら嘘になるけど、そうも言ってられないからね。それに、一応魔物にはあったことあるし」

「そんな……大丈夫だったんですか」


 セレノは優しいねぇ。そんなに心配しなくても。


「なんとかなったよ。昨日言ったでしょ、睡眠魔法で自衛したって」

「ああ、そうでしたね……なら、依頼はそれを使って?」

「その通り」


 俺が考えているのは、危険度の低い魔物相手に睡眠魔法を使って、安全に倒しまくる、というものだ。自分の睡眠に使えなくなってしまった以上、他に有効活用するしかない。幸いにも、効果自体はすごいからな。


 冒険者ギルドの中にいた俺達は、そのまま受付に向かう。


「すみません、初心者向けの魔物討伐の依頼ってありますか」

「はい、ってあなたは昨日の方じゃないですか。大丈夫なんですか?」

「ええ、まあ。状況的にあんまり悠長にしていられないんで」

「そうですか……紹介はしますが、無理だけはしないでくださいね」

「分かっています」


 昨日俺の救助依頼の報告を受けていた受付嬢だった。この人も俺のことを心配してくれているようだ。ありがたいものだな。


 仕方なくといった感じで紹介されたのは、スライムやゴブリンといった魔物の討伐依頼だった。スライムはいろんなゲームに出てくる雑魚敵の代表といったところなので、正しく初心者向けなのだろう。ゴブリンはスライムよりは危険度が高いみたいだが、こっちは俺の魔法が効くことを既に確認しているので、全く脅威はない。


「これ、期限とかはありますか」

「これらの依頼にはないですね。依頼には恒常的に出ているものと、依頼主がいて、期限を決めているものがあるんですよ」

「なるほど、じゃあ恒常的に出ているものに関しては、別に受けなくてもいいと」

「そうです。報告には既定の数の討伐の証が必要なので、それを持ってきてさえいれば、大丈夫です。ただ、恒常だけあって、報酬は少し少ないですが」

「分かりました。まずは恒常のものを無理のない範囲でやってみます」


 とりあえず俺達は、ゴブリンを適当に倒して金を稼ぐことに決めた。



 街の外に向かう途中、まだ聞いていなかったことを思い出した。


「そういえばセレノちゃんは」

「セレノ、でいいですよ」

「そう?じゃあ……セレノは、というか俺達は、なんで旅なんてしてたんだ?」


 呼び捨てにすることで急に距離が近くなった気がしてそわそわしたが、元々そう呼んでいたはずなので、おかしいところはどこにもない。

 そんなことはさておき、こんな年齢で、こんな物騒な世界をよく旅なんてするな、というのが俺の主観だった。俺なんて学校の行事ぐらいでしか観光とかしたことない。旅というより旅行だが。それだけ観光には興味がなかった。


「レーブ兄の発案で、母の許可が得られたので。もっといろんなことを知りなさいって」

「発案は俺か。結構旅とかに憧れがあったんだろうか」

「そうだと思います。レーブ兄は他の国のこととかにも詳しかったので」

「そうなんだ」



 話を聞けたところで、俺達は街の外に出る門をくぐった。昨日も外にいたのだが、妙に緊張感があった。


「よし、じゃあまずはゴブリンを見つけようか。この平原にいるんだよね」

「はい、道沿いで商人を襲うらしいです。私は回復魔法を使えるので、必要な時は言ってください」

「え、セレノは回復魔法使えるの?」

「ええ、実は。レーブ兄に怪我されたら困るので、旅を始める前に母に教わりました。結構珍しいらしいので、乱用は控えるように、と言われましたが」


 突然のハイスペック宣言。回復魔法はRPGでも序盤特に役に立つ印象があるから、正直かなり助かる。後、俺に怪我されたら困るって、心配性過ぎないか。

 それにしても、お母さん何者なんだよ。いろんなことを知りなさい発言とか、珍しいといわれる回復魔法を娘に教えるとか。実は元冒険者とか?あり得る。


 そんなことを考えながら辺りを見回してみると、岩陰に昨日見たような生命体を複数体見つけた。顔がこっちを向いているので、すでに気づかれているみたいだ。


「ゴブリン見つけたよ。もうこっちのことに気づいてるみたいだから、襲ってきたら眠らせるね」

「分かりました」


 こっちは気づいていないふりをして、道を普通に歩いていく。すると一番近づいたタイミングで、ゴブリン達は一斉に飛び出してきた。


『ギギギギ!!』

「はい、〈麗夢(ドリーム)〉、〈麗夢(ドリーム)〉、〈麗夢(ドリーム)〉」

『ギ!?ギギ…』


 昨日と特に変わらず、ほぼ一瞬で無力化することができた。振り向いてセレノを見ると、唖然としていたが、のちに納得した顔になった。


「……すごいです。でも、身をもって効果は知っているので、こうなるのは当然ですね」

「うん、これで俺にも効果があれば完璧なんだけどね……」


 そう呟き、目を閉じながら、アドニスが教えてくれた通り、ゴブリンの心臓をめがけて剣を突き刺す。すると断末魔をあげて、そのまま灰となって霧散していった。……一つ、石のようなものを残して。


「これは?」

「それは魔石ですね、魔物の力の核となるものです」

「ああ、これが討伐の証となるわけか」

「そうです。ゴブリンは魔石だけですが、他の魔物は一部素材も残るみたいですよ」

「なるほど」


 ゲームみたいな仕様で助かる。倒すのはいいとして、死体が残られると解体とか後処理とか、すごく困る。個人的にかなり気持ち悪い。

 まあこの魔石もあのゴブリンの体の中にあったと考えればちょっと気持ち悪いが、それを言いだしたらおしまいだ。何も触れなくなる。


 残りのゴブリンも同様に倒し、魔石を回収した。この感じなら、魔力の枯渇にさえ気を付けていれば、安全に稼ぐことができるだろう。


 それから、体感で二、三時間ほど平原を練り歩いた。ゴブリンだけではなく、狼型の魔物にも遭遇したが、ゴブリンと同じように倒せてしまったので、特に問題はなかった。こちらは魔石だけでなく牙も残ったので、ちょっと得した気分になった。

 ここまでで大体昨日と同じくらいの数の魔物に魔法をかけてきたが、まだ魔力は枯渇していない。昨日はホブゴブリンも眠らせたから枯渇したのか?魔物の強さによって、消費魔力が変わってくるのだろうか。


 自分の魔法に少し理解が深まったところで、セレノも疲れてそうだったし、街に戻ることにした。実際俺も腹が減ってきたから、これ以上続けたくなかった。



 冒険者ギルドに戻り、依頼の達成報告ということで手にした魔石や牙を受付に出した。


「ゴブリンと狼を倒してきました」

「お疲れ様です、って狼!?もしかして、プレインウルフですか?少し危険だから、紹介しなかったんですが……無理はしないようにと言ったじゃありませんか」

「3匹ずつでしか襲ってこなかったので、普通に倒せましたよ」

「いや、複数体で連携をとってくるから危険なんですが……」


 なんだか呆れられている。確かに、連携されれば初心者には厳しい相手かもしれない。だが、その前に先制で眠らせてしまったので、そこに脅威を感じることはなかった。……まあ、不意を突かれた時はまずいので、そこは注意しておかないとな。


「まあ、倒せるなら問題はないんですが……くれぐれも相手は選んでくださいね」


 そう言って、受付嬢は魔石を鑑定し始めた。


「なんだか数が多いような気がしますが……たしかに、ゴブリンとプレインウルフの魔石で間違いありません。報酬はこちらになります」


「よし、これで昼ご飯でも食べるか」

「はい!お腹空きました」


 魔石と牙が、銀貨4枚と、銅貨2枚になって返ってきた。……昼ご飯食べるといっておきながら、価値が分からないな。ついでに、大体の物の価値も調べておいたほうがいいな。昼からはどうするか決めていなかったからちょうどいい。


 冒険者ギルドを出て、肉を焼くいい匂いのするほうへ足を運ぶ。もといた世界でのお祭りのような感覚があり、なんだか楽しみだ。

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