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086 能力が未知

「すまん、余計だったか?」

「いや、正直ギリギリだった。止めをさしてくれて助かった」


 周囲を見ると、既にどのパーティも戦闘が終わり、黒鳥の姿は見えなくなっていた。俺達が相手をしていたのが最後だったようだ。


 それにしても。


「魔法に耐性があるのか……?」


 溜めなければ効果が出ない睡眠魔法、ただでさえ威力が高いのを溜めて放ったのに効果が薄かったセレノの風魔法。ここから考えられるのはそれくらいだった。


「そうだな、悪魔の支配下になった魔物は魔法に耐性ができるようだ。あいつは魔法を撃ってこなかったから恐らくストライクバードの変異体だが、そんな耐性はなかったはずだからな」

「……なるほど」


 俺の呟きに、ベイルはそう反応した。もしそうだとしたら、なんとも厄介な性質だ。わざわざ集まった魔法師達は皆力を出し切れないことになる。

 

「それに、俺のパーティは気づかなかったが、傷を受けてもその場から癒えていくらしい。治癒能力も向上しているようだ」

「……それはひどいな」


 魔法だけでなく、近接攻撃にも対応しているというのか。ベイルのパーティのように豪快に戦うならあまり問題はないが、ちまちまと少しずつダメージを与えて安全に、確実に倒すような戦法を取るパーティは、一気に効率が悪くなってしまう。

 だからと言って急に戦法を変えようにもそれは難しい。連携も上手くいかないし、そもそも武器が対応していない場合もある。

 ……これは中々厳しい戦いになりそうだ。



「色々と考察したいところだが、俺達には時間がない。回復が済んだらすぐ動くぞ」


 そうだった。こうやってすぐに長考してしまう癖は治しておかないといけないな。


「ああ。俺達は大丈夫だ」

「あの状況で食らってないのか、やるな。……皆、進むぞ!」

「「おおっ!!」」



 一行はまた走り出す。現時点では、空から俺達のような存在を警戒していた魔物しか倒していない。なんならまだ村にすら入っていない。今まさに村を襲っている魔物の手は一切止められていないのだ。


 やがて村の中が見えてくる。村の奥の方から煙が上がっており、黒く巨大なオークが数体、棍棒を手に獲物を探していた。

 その眼は黒鳥と同じく、禍々しい赤い光を灯している。


「まだ生きている人がいるかもしれない、カームパーティとレーブパーティは救助を優先してくれっ!残りは奴らを潰すぞ!!」

「「了解!!」」


 ベイルの指示で素早く二つの固まりに分かれ、村に入ってすぐそれぞれ指示通りに展開する。

 カームのパーティは、先程俺が考察していた「安全に、確実に倒すパーティ」だった。救助役にするならこのパーティだと、ベイルも同じような考えに至っていたようだ。


「この辺りに人の気配はない、となると……大きな建物を探してくれ!」

「「了解!」」


 先頭を走るカームは素早く思考を凝らし、目標を決めた。依頼のリーダーにならなくとも、その指示の速さは金級のパーティリーダーには違いない。


「見つけた、あそこだ!」


 カームのパーティメンバーが指を指す。その方向を見ると、確かに一際大きな建物があった。恐らく村長の家だろうが、壁も他よりも頑丈に作られており、避難所としての役割もありそうだ。

 なのだが。


『ブルァァ!!』


 一体の巨大なオークが、その建物に目をつけていた。その手に持った巨大な棍棒で入り口を破壊しようと何度も殴りつける。

 中に何かがあることを確信しているような動きだった。


「まずいっ行くぞ!」


 カームが速度を上げ、オークに何かを投げながら広い場所まで走って行く。

 しかしオークは分かっていたかのように飛んできた何かを棍棒で弾き、視線を此方へ写した。

 その足元には、毒が塗られた投げナイフが転がっていた。


『ブルアァァッ!!』


 明確な殺意を飛ばし、カームを睨みながら……ナイフを拾った。


「なっ……」

「カーム!!<土岩壁(アースウォール)>!!」


 土魔法師が咄嗟に出した土壁に次々と毒ナイフが刺さる。土壁がもう少し薄ければ、貫通して防ぎきれなかったかもしれない。


「……なんだあいつ……オークじゃないみたいだ……」

「全く油断できないな……」


 全員壁の裏に隠れ、次の作戦を練る――


 バッキーン――


 間など無く、そんな音と共に壁が爆発するように弾け飛んだ。その衝撃で俺達は皆吹き飛んで硬い地面を転がる。


「セれっ……かはっかはっ」


 自分の身体の痛みを無視して咄嗟にセレノの名前を叫ぼうとすると、舞った土埃がドッと流れ込んできた。


 息が出来ない、周りが見えない、立とうにも痛みが邪魔してうまく立てない。唐突な身の危険に焦りが出てくる。


 それでも手を伸ばすと、握り慣れた小さな手がそっと俺の手を握った。

 咽せる声しか聞こえない中、身体の痛みがふわりと消え、周囲の土埃が柔らかな風に流れていく。


 ……少しでも焦ったのが恥ずかしくなってきた。セレノが頼もし過ぎて、胸が熱くなってくる。今セレノを見たら俺は……感情が溢れ出してしまうかもしれない。

 なので俺はその小さな手を握り返しながら、飛ばされてきた方に顔を向けた。

 土埃の奥には、薄らと禍々しい影が浮かんでいる。


「こほっ……皆動けるかっ!『岩』で行きたい!」

「「「了解!!」」」


 呼吸を整えている時にそんな声が聞こえた。……『岩』?了解?……何を言ってるんだ……?


 考える頭が働かなくて理解が出来なかったが、声のした方を見ると、土魔法師が魔力ポーションを片手にアースウォールを至る所に作り出し始めた。

 人は余裕で通れるが、巨大化したオークには通れない程度の間隔を開けて。


『ッ!ブルァァッ!ブルァァ!』


 目の前に邪魔な壁が沢山できたオークは、片っ端から殴って消しとばすが、その間も壁はどんどん増え続ける。

 落ち着いてきて意味が分かってきた。標的を拘束するのと同時に、自分達の身を隠しながら戦うことで危険を減らす、という作戦を『岩』と言うのだろう。

 かなり無茶なやり方だが、土魔法を活かした斬新な作戦ではあると思えた。


 既に土魔法師以外の二人が壁の合間を縫って移動し、オークに攻撃を仕掛けている。

 オークも反撃したいところだが、壁が邪魔で上手く動けないようだ。作戦が見事にハマっている。


「……すまない、お前達がいることを忘れていた」


 土魔法師のフォローにまわっていたカームが自分達だけでないことを思い出し、此方に目を向けずに声を出した。


「……いや大丈夫だ。連携の邪魔になりたくない、どうすればいい?」

「……それなら、村人がいればそのケア、それと他の敵の警戒をしてくれるとありがたい。ここはなんとかする」

「分かった、任せてくれ」

「お願いします」


 戦闘スタイル的に不利ではあるものの、逃げ出す気はないらしい。それでこそ金級冒険者だ。


 セレノが手早く二人の傷を治した後、土壁の間を走り抜ける。

 オークを中心に広範囲に土壁ができているお陰で、俺達は安全にその場を離脱することができた。

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